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第8章
12 明と暗
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国民は、2つの祝い事でお祭り騒ぎ。
その主役の一人のマティルダは、一部の令嬢たちから嫉妬の炎を燃やされていた。
「田舎子爵の娘じゃない。
あんな女が、隣国の王弟の娘になってるのよ!」
「ちょっと、声を控えなさい。
誰かの耳に入ったら、大事になります。
決まってしまったんだから、仕方ないでしょう。
黙っていなさい!」
「あの人が王妃になって、頭を下げていかなくてはならないの。
そんなこと、堪えられます?」
方々から令嬢たちの恨み言に加えて、その親たちも口では嗜めるが気持ちは一緒になっていた。
アドニス王太子と微笑み合うマティルダを、陰口を言い憎々しげに見ていた。
「今日は、君に喜んでくれる報告があるよ。
君の前の母親と妹が、近日修道院から出ることになった。
サンダース子爵の元へ戻れるようになるぞ」
恩赦の話をマティルダが聞くと、その表情が一気に顔が華やいだ。
「本当にですか?!
陛下にことあることに、お願いをしてよかったです」
愛する彼女の嬉しげな様子に、彼は満足して美しい笑顔を向ける。
「彼女たちは、被害者に謝罪の手紙を書き続けていたそうだ。
母親の犯した被害者は許したそうだよ。
妹の方は、まぁ~その…。
あれだなぁ、したかない」
その笑みとは裏腹に、もうひとりの彼女と関係ある者の話はしていない。
恩赦を決定する前に、マティルダの元へ婚約者ハロルド。
サンダース子爵から恐喝していた金で、あの男が婚姻先の商会は悪どい商売をしていた。
「その話は本当か?
本業以外で、人を売買していたのか?
仲介業を無視していたのか?」
「貧しい土地に行って金を貸して、返せなければ若い女性を売春宿に借金の3倍で売りつけてました」
アンゲロス公爵嫡男ロバート、メアリーと婚姻したら未来の義理の弟になる。
「それは誰が始めたのだ。
資金はサンダース子爵からとして、ハロルドって男の考えだろうか」
「どうも金を稼ごうとして、手を出したようです。
昔は普通に皆やっていたがそうですが、現在は違法になってます」
ロバートは調査報告を読み上げると、マティルダに伝えるべきが眉間にシワを寄せて悩ましげな表情を見せた。
「死刑になるな。
マティルダは、命だけはと助命を頼んでいる。
困ったな…、どうしたものか」
「王太子殿下、一瞬で殺してしまうよりも長く罪を償わせた方が宜しいと存じます」
マイヤー伯爵から男爵位を貰って、ブルネール侯爵令嬢サラと婚姻したジョージが助言する。
「ジョージの言うとおりだ。
犯罪者が強制労働する場所へ送って、皆に見せしめにしよう」
ロバートも彼に賛同して、一緒になってその案を押したのであった。
「それでいこう!
監視が厳しいところで、罪を天国へ行くまで償って貰おうか」
「アドニス王太子、天国は無理だよ。
まぁ、生き地獄へ先でしょう」
「ジョージ殿は彼とは、面識があって会話もしているんだったな。
彼を墓場に送ってくれないか。
面倒なことばかり頼んですまないが、君にお願いしたい」
臣下である限り、断ることができない。
ため息をつくのを我慢して、快く受けることにした。
『どうせやらなくてはならないのだから、気持ちよく返事をしよう。
やな仕事ほど、頑張ってやりきろう』
この姿勢で彼は、未来の国王アドニスからの信頼を勝ち取っていく。
「アドニス王太子。
私が直接、彼を責任をもって連行します。
人は激昂すると、何を仕出かすかわかりません。
それをあの時、私はすべての成りゆき見ていましたからー」
アリエールは恐怖のあまりに、恋人だった彼を崖から落とそうとしていた。
彼はこの裏切りで、人格が変わってしまった。
「自分が愛する人に裏切られたら…」
ジョージは、妻のサラの笑顔を頭に浮かべて目を細めた後。
その首を、左右にゆっくり動かした。
ロバートも彼と同じく、婚約者メアリー王女の顔を思い出す。
「裏切られるだけの絆だったのだ。
それとその時の気持ちが、正直に出てしまったのだろう。
人は思ってもないことをする。
だから、善悪がこの世にあるのだ」
アドニスの言ってることは正しい。
「もし、彼が悔い改めてくれたら。
罪を軽減して下さいませんか?
マティルダ様もそう話せば、彼女なら理解してきっと喜ばれるでしょう」
「そうしよう。
彼女の母親と妹だった者たちも、罪と真摯に向き合っていた。
ハロルドにも機会を与えよう。
それはー、私たちの子どもが誕生した時であろう」
頬を赤らめたように二人は感じたが、婚姻と言わなかったのは
恩赦にするには時間が短いからだ。
「それまで、あの男が生き延びればいいですがね。
そこは、囚人の中でも地獄とウワサされる有名な場所です。
運が悪ければ、いつあの世に行ってもおかしくない」
ロバートは噂でしか聞いたことはない。
公爵であり上位貴族が、そんな物騒な話などする方が珍しいのだ。
「神が、どちらかを選ばれるだろう。
ジョージ殿、絶対にマティルダに会わせてと言ってもきくなよ。
彼女に会って、罪を逃れようと必死になると考えている。
あれは、ずる賢い性質を持っている」
その助言は正しかった。
依頼されたジョージは、人情味がある人物。
これが良くないことに転びそうになりそうになるのを、アドニスをはじめロバートも警戒していたのだ。
この二人の勘は、当たってしまうのだろうか。
その主役の一人のマティルダは、一部の令嬢たちから嫉妬の炎を燃やされていた。
「田舎子爵の娘じゃない。
あんな女が、隣国の王弟の娘になってるのよ!」
「ちょっと、声を控えなさい。
誰かの耳に入ったら、大事になります。
決まってしまったんだから、仕方ないでしょう。
黙っていなさい!」
「あの人が王妃になって、頭を下げていかなくてはならないの。
そんなこと、堪えられます?」
方々から令嬢たちの恨み言に加えて、その親たちも口では嗜めるが気持ちは一緒になっていた。
アドニス王太子と微笑み合うマティルダを、陰口を言い憎々しげに見ていた。
「今日は、君に喜んでくれる報告があるよ。
君の前の母親と妹が、近日修道院から出ることになった。
サンダース子爵の元へ戻れるようになるぞ」
恩赦の話をマティルダが聞くと、その表情が一気に顔が華やいだ。
「本当にですか?!
陛下にことあることに、お願いをしてよかったです」
愛する彼女の嬉しげな様子に、彼は満足して美しい笑顔を向ける。
「彼女たちは、被害者に謝罪の手紙を書き続けていたそうだ。
母親の犯した被害者は許したそうだよ。
妹の方は、まぁ~その…。
あれだなぁ、したかない」
その笑みとは裏腹に、もうひとりの彼女と関係ある者の話はしていない。
恩赦を決定する前に、マティルダの元へ婚約者ハロルド。
サンダース子爵から恐喝していた金で、あの男が婚姻先の商会は悪どい商売をしていた。
「その話は本当か?
本業以外で、人を売買していたのか?
仲介業を無視していたのか?」
「貧しい土地に行って金を貸して、返せなければ若い女性を売春宿に借金の3倍で売りつけてました」
アンゲロス公爵嫡男ロバート、メアリーと婚姻したら未来の義理の弟になる。
「それは誰が始めたのだ。
資金はサンダース子爵からとして、ハロルドって男の考えだろうか」
「どうも金を稼ごうとして、手を出したようです。
昔は普通に皆やっていたがそうですが、現在は違法になってます」
ロバートは調査報告を読み上げると、マティルダに伝えるべきが眉間にシワを寄せて悩ましげな表情を見せた。
「死刑になるな。
マティルダは、命だけはと助命を頼んでいる。
困ったな…、どうしたものか」
「王太子殿下、一瞬で殺してしまうよりも長く罪を償わせた方が宜しいと存じます」
マイヤー伯爵から男爵位を貰って、ブルネール侯爵令嬢サラと婚姻したジョージが助言する。
「ジョージの言うとおりだ。
犯罪者が強制労働する場所へ送って、皆に見せしめにしよう」
ロバートも彼に賛同して、一緒になってその案を押したのであった。
「それでいこう!
監視が厳しいところで、罪を天国へ行くまで償って貰おうか」
「アドニス王太子、天国は無理だよ。
まぁ、生き地獄へ先でしょう」
「ジョージ殿は彼とは、面識があって会話もしているんだったな。
彼を墓場に送ってくれないか。
面倒なことばかり頼んですまないが、君にお願いしたい」
臣下である限り、断ることができない。
ため息をつくのを我慢して、快く受けることにした。
『どうせやらなくてはならないのだから、気持ちよく返事をしよう。
やな仕事ほど、頑張ってやりきろう』
この姿勢で彼は、未来の国王アドニスからの信頼を勝ち取っていく。
「アドニス王太子。
私が直接、彼を責任をもって連行します。
人は激昂すると、何を仕出かすかわかりません。
それをあの時、私はすべての成りゆき見ていましたからー」
アリエールは恐怖のあまりに、恋人だった彼を崖から落とそうとしていた。
彼はこの裏切りで、人格が変わってしまった。
「自分が愛する人に裏切られたら…」
ジョージは、妻のサラの笑顔を頭に浮かべて目を細めた後。
その首を、左右にゆっくり動かした。
ロバートも彼と同じく、婚約者メアリー王女の顔を思い出す。
「裏切られるだけの絆だったのだ。
それとその時の気持ちが、正直に出てしまったのだろう。
人は思ってもないことをする。
だから、善悪がこの世にあるのだ」
アドニスの言ってることは正しい。
「もし、彼が悔い改めてくれたら。
罪を軽減して下さいませんか?
マティルダ様もそう話せば、彼女なら理解してきっと喜ばれるでしょう」
「そうしよう。
彼女の母親と妹だった者たちも、罪と真摯に向き合っていた。
ハロルドにも機会を与えよう。
それはー、私たちの子どもが誕生した時であろう」
頬を赤らめたように二人は感じたが、婚姻と言わなかったのは
恩赦にするには時間が短いからだ。
「それまで、あの男が生き延びればいいですがね。
そこは、囚人の中でも地獄とウワサされる有名な場所です。
運が悪ければ、いつあの世に行ってもおかしくない」
ロバートは噂でしか聞いたことはない。
公爵であり上位貴族が、そんな物騒な話などする方が珍しいのだ。
「神が、どちらかを選ばれるだろう。
ジョージ殿、絶対にマティルダに会わせてと言ってもきくなよ。
彼女に会って、罪を逃れようと必死になると考えている。
あれは、ずる賢い性質を持っている」
その助言は正しかった。
依頼されたジョージは、人情味がある人物。
これが良くないことに転びそうになりそうになるのを、アドニスをはじめロバートも警戒していたのだ。
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