184 / 207
第8章
9 領地の斜陽
しおりを挟む
故郷の領地で唯一の宿は、手入れしてないのか寂れていた。
宿だけでなく、周りにある食堂や商売している店。
「こんなに活気がなかったかしら、人がまったく見えない。
何があったの?」
「サンダース子爵の領民が、余所へ出ていっていると噂を聞いていたんだ。
だから目立たないように、身の回りをこのようにした」
乗った馬車も着ている服も質素だった。
とても王族がいるとは思えない。
「知っていたのですね。
アドニス様、先になんで…。
なんで、どうして教えてくれなかったのですか」
「君なら以前と現在の差がわかるだろう。
4年前までは領地経営を殆んどは、マティルダが君がしていだからね」
「……、伯爵から子爵になっただけでー。
ここまで、こんなに落ちてしまうのですか!?
そんな、何が原因なの」
彼女はだんだん血の気が引き、真冬の外にいるように指先が氷のように冷たくなっていく。
馬車から彼の手を借りて降り立つと、周りからの視線が突き刺さってくるようだ。
異様な空気がして、油断していたら襲われそう。
「早く宿の中へ入ろう、マティルダ。
外にいたら危ない!」
『貧困まではなかった。
最低限は食べていけてたわ。
こんな目付きで見られたことは、私がいたときはなかった』
息を吸うのも忘れそう。
背筋が寒くなり、重たいモノをつけている様に歩く足が進まない。
「突然だが部屋を頼む。
ここにいる人数分だ」
マティルダとアドニスの二人を護衛する騎士が2名に馭者2名。
「へぇー、個室ですと6名分になります。
1番いいお部屋は、2名様分しかありません。
何せ、小さな宿屋ですからね」
「ああ、それで構わない。
君たちもそれでいいか!?」
主人に言われて、付き添う者たちはイヤとは否定できるわけはない。
「はい、勿論でございます」
迂闊に身分が分かる名前を口にしないように、気配りをして短い返事をする。
「それでは、2名様を先にお部屋にご案内致します。
すみませんが、残りの方はすこしお待ち下さい」
荷物は他の従業員が持って、マティルダたちの後ろをついて階段を昇る。
こんな田舎にこの人たちは、どんな用事があるのかと不信になり疑う。
「6名も宿泊するのは、久し振りでございます。
なにか不便な点がありましたら、ご遠慮なくお申し付け下さい」
腰の低い主人は部屋の鍵を開けて、窓際に行くと窓を開けた。
掃除はしているようだが、寝泊まりしている様子はない。
「このお部屋はー。
昔は貴族様がお泊まりになっていましたが、領主様が人嫌いなのか……。
これは、失礼をしました。
あまり使われてませんので…」
「気にしないで、そう人嫌いなのね。
領主はお元気なのかしら?」
然り気無く、領民がどう噂しているのか尋ねてみた。
「さぁ、ですがお金にお困りのようです。
伯爵、子爵のお屋敷では使用人を辞めさせてるみたいですね」
「……、そんな。
質素な暮らしだと思ってましたわ」
荷物を荷物置き場に置くと、他の従業員がマティルダの質問に答える。
「身内が人を傷つけて、賠償に大金を使っているそうですよ。
相手が悪かったのでしょう。
サンダース子爵がお気の毒に思います」
『ハロルドが、サンダースをたかっている。
彼は婚姻して、幸せに新しい人生を歩んでいると思っていた』
記憶の中では、そこまでする人ではなかった。
怪我をして、違う一番はアリエールの裏切りだろう。
「領主がそんなんだから、空気が暗く思えたのか」
「旦那様、それだけではありません。
税金が値上がして、若者は出ていく者も多い。
治安が悪くなっている。
気をつけて行動した方が良いですよ」
自分が過ごしていた頃と変わってしまって、マティルダは長閑な雰囲気が失われてしまった。
昔の領民たちの笑顔を思い浮かべて、涙腺が緩んで涙が出そうになり強く目を瞑る。
アドニスは自分の隣の部屋に案内される為に、宿の主人たちと出て行く。
彼女を一人きりにさせる。
『ここまで悪くなっていたなんて!
明日、会った時にもっと心が潰されるだろう』
ベッドに崩れ落ちるように、横たわると暫くうつ伏せになる。
夕日で壁紙が黄金色に輝いていたが、彼女の周りだけは暗闇の中にいた。
そのまま、アドニスが部屋をノックするまで身動きひとつ動かせずにー。
宿だけでなく、周りにある食堂や商売している店。
「こんなに活気がなかったかしら、人がまったく見えない。
何があったの?」
「サンダース子爵の領民が、余所へ出ていっていると噂を聞いていたんだ。
だから目立たないように、身の回りをこのようにした」
乗った馬車も着ている服も質素だった。
とても王族がいるとは思えない。
「知っていたのですね。
アドニス様、先になんで…。
なんで、どうして教えてくれなかったのですか」
「君なら以前と現在の差がわかるだろう。
4年前までは領地経営を殆んどは、マティルダが君がしていだからね」
「……、伯爵から子爵になっただけでー。
ここまで、こんなに落ちてしまうのですか!?
そんな、何が原因なの」
彼女はだんだん血の気が引き、真冬の外にいるように指先が氷のように冷たくなっていく。
馬車から彼の手を借りて降り立つと、周りからの視線が突き刺さってくるようだ。
異様な空気がして、油断していたら襲われそう。
「早く宿の中へ入ろう、マティルダ。
外にいたら危ない!」
『貧困まではなかった。
最低限は食べていけてたわ。
こんな目付きで見られたことは、私がいたときはなかった』
息を吸うのも忘れそう。
背筋が寒くなり、重たいモノをつけている様に歩く足が進まない。
「突然だが部屋を頼む。
ここにいる人数分だ」
マティルダとアドニスの二人を護衛する騎士が2名に馭者2名。
「へぇー、個室ですと6名分になります。
1番いいお部屋は、2名様分しかありません。
何せ、小さな宿屋ですからね」
「ああ、それで構わない。
君たちもそれでいいか!?」
主人に言われて、付き添う者たちはイヤとは否定できるわけはない。
「はい、勿論でございます」
迂闊に身分が分かる名前を口にしないように、気配りをして短い返事をする。
「それでは、2名様を先にお部屋にご案内致します。
すみませんが、残りの方はすこしお待ち下さい」
荷物は他の従業員が持って、マティルダたちの後ろをついて階段を昇る。
こんな田舎にこの人たちは、どんな用事があるのかと不信になり疑う。
「6名も宿泊するのは、久し振りでございます。
なにか不便な点がありましたら、ご遠慮なくお申し付け下さい」
腰の低い主人は部屋の鍵を開けて、窓際に行くと窓を開けた。
掃除はしているようだが、寝泊まりしている様子はない。
「このお部屋はー。
昔は貴族様がお泊まりになっていましたが、領主様が人嫌いなのか……。
これは、失礼をしました。
あまり使われてませんので…」
「気にしないで、そう人嫌いなのね。
領主はお元気なのかしら?」
然り気無く、領民がどう噂しているのか尋ねてみた。
「さぁ、ですがお金にお困りのようです。
伯爵、子爵のお屋敷では使用人を辞めさせてるみたいですね」
「……、そんな。
質素な暮らしだと思ってましたわ」
荷物を荷物置き場に置くと、他の従業員がマティルダの質問に答える。
「身内が人を傷つけて、賠償に大金を使っているそうですよ。
相手が悪かったのでしょう。
サンダース子爵がお気の毒に思います」
『ハロルドが、サンダースをたかっている。
彼は婚姻して、幸せに新しい人生を歩んでいると思っていた』
記憶の中では、そこまでする人ではなかった。
怪我をして、違う一番はアリエールの裏切りだろう。
「領主がそんなんだから、空気が暗く思えたのか」
「旦那様、それだけではありません。
税金が値上がして、若者は出ていく者も多い。
治安が悪くなっている。
気をつけて行動した方が良いですよ」
自分が過ごしていた頃と変わってしまって、マティルダは長閑な雰囲気が失われてしまった。
昔の領民たちの笑顔を思い浮かべて、涙腺が緩んで涙が出そうになり強く目を瞑る。
アドニスは自分の隣の部屋に案内される為に、宿の主人たちと出て行く。
彼女を一人きりにさせる。
『ここまで悪くなっていたなんて!
明日、会った時にもっと心が潰されるだろう』
ベッドに崩れ落ちるように、横たわると暫くうつ伏せになる。
夕日で壁紙が黄金色に輝いていたが、彼女の周りだけは暗闇の中にいた。
そのまま、アドニスが部屋をノックするまで身動きひとつ動かせずにー。
0
お気に入りに追加
69
あなたにおすすめの小説
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
子持ちの私は、夫に駆け落ちされました
月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。
廃妃の再婚
束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの
父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。
ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。
それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。
身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。
あの時助けた青年は、国王になっていたのである。
「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは
結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。
帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。
カトルはイルサナを寵愛しはじめる。
王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。
ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。
引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。
ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。
だがユリシアスは何かを隠しているようだ。
それはカトルの抱える、真実だった──。

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。
つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。
彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。
なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか?
それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。
恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。
その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。
更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。
婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。
生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。
婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。
後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。
「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜
高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。
婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。
それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。
何故、そんな事に。
優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。
婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。
リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。
悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ハズレ嫁は最強の天才公爵様と再婚しました。
光子
恋愛
ーーー両親の愛情は、全て、可愛い妹の物だった。
昔から、私のモノは、妹が欲しがれば、全て妹のモノになった。お菓子も、玩具も、友人も、恋人も、何もかも。
逆らえば、頬を叩かれ、食事を取り上げられ、何日も部屋に閉じ込められる。
でも、私は不幸じゃなかった。
私には、幼馴染である、カインがいたから。同じ伯爵爵位を持つ、私の大好きな幼馴染、《カイン=マルクス》。彼だけは、いつも私の傍にいてくれた。
彼からのプロポーズを受けた時は、本当に嬉しかった。私を、あの家から救い出してくれたと思った。
私は貴方と結婚出来て、本当に幸せだったーーー
例え、私に子供が出来ず、義母からハズレ嫁と罵られようとも、義父から、マルクス伯爵家の事業全般を丸投げされようとも、私は、貴方さえいてくれれば、それで幸せだったのにーーー。
「《ルエル》お姉様、ごめんなさぁい。私、カイン様との子供を授かったんです」
「すまない、ルエル。君の事は愛しているんだ……でも、僕はマルクス伯爵家の跡取りとして、どうしても世継ぎが必要なんだ!だから、君と離婚し、僕の子供を宿してくれた《エレノア》と、再婚する!」
夫と妹から告げられたのは、地獄に叩き落とされるような、残酷な言葉だった。
カインも結局、私を裏切るのね。
エレノアは、結局、私から全てを奪うのね。
それなら、もういいわ。全部、要らない。
絶対に許さないわ。
私が味わった苦しみを、悲しみを、怒りを、全部返さないと気がすまないーー!
覚悟していてね?
私は、絶対に貴方達を許さないから。
「私、貴方と離婚出来て、幸せよ。
私、あんな男の子供を産まなくて、幸せよ。
ざまぁみろ」
不定期更新。
この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。

【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる