【完結】すべては、この夏の暑さのせいよ! だから、なにも覚えておりませんの

愚者 (フール)

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第8章

9 領地の斜陽

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    故郷の領地で唯一の宿は、手入れしてないのか寂れていた。
宿だけでなく、周りにある食堂や商売している店。

「こんなに活気がなかったかしら、人がまったく見えない。
何があったの?」

「サンダース子爵の領民が、余所へ出ていっていると噂を聞いていたんだ。
だから目立たないように、身の回りをこのようにした」

乗った馬車も着ている服も質素だった。
とても王族がいるとは思えない。

「知っていたのですね。
アドニス様、先になんで…。
なんで、どうして教えてくれなかったのですか」

「君なら以前と現在の差がわかるだろう。
4年前までは領地経営を殆んどは、マティルダが君がしていだからね」

「……、伯爵から子爵になっただけでー。
ここまで、こんなに落ちてしまうのですか!?
そんな、何が原因なの」

彼女はだんだん血の気が引き、真冬の外にいるように指先が氷のように冷たくなっていく。

  馬車から彼の手を借りて降り立つと、周りからの視線が突き刺さってくるようだ。
異様な空気がして、油断していたら襲われそう。

「早く宿の中へ入ろう、マティルダ。
外にいたら危ない!」

『貧困まではなかった。
最低限は食べていけてたわ。
こんな目付きで見られたことは、私がいたときはなかった』

息を吸うのも忘れそう。
背筋が寒くなり、重たいモノをつけている様に歩く足が進まない。

「突然だが部屋を頼む。
ここにいる人数分だ」

マティルダとアドニスの二人を護衛する騎士が2名に馭者2名。

「へぇー、個室ですと6名分になります。
1番いいお部屋は、2名様分しかありません。
何せ、小さな宿屋ですからね」

「ああ、それで構わない。
君たちもそれでいいか!?」

主人に言われて、付き添う者たちはイヤとは否定できるわけはない。

「はい、勿論でございます」

迂闊に身分が分かる名前を口にしないように、気配りをして短い返事をする。

「それでは、2名様を先にお部屋にご案内致します。
すみませんが、残りの方はすこしお待ち下さい」

荷物は他の従業員が持って、マティルダたちの後ろをついて階段を昇る。
こんな田舎にこの人たちは、どんな用事があるのかと不信になり疑う。

「6名も宿泊するのは、久し振りでございます。
なにか不便な点がありましたら、ご遠慮なくお申し付け下さい」

腰の低い主人は部屋の鍵を開けて、窓際に行くと窓を開けた。
掃除はしているようだが、寝泊まりしている様子はない。

「このお部屋はー。
昔は貴族様がお泊まりになっていましたが、領主様が人嫌いなのか……。
これは、失礼をしました。
あまり使われてませんので…」

「気にしないで、そう人嫌いなのね。
領主はお元気なのかしら?」

然り気無く、領民がどう噂しているのか尋ねてみた。

「さぁ、ですがお金にお困りのようです。
伯爵、子爵のお屋敷では使用人を辞めさせてるみたいですね」

「……、そんな。
質素な暮らしだと思ってましたわ」

荷物を荷物置き場に置くと、他の従業員がマティルダの質問に答える。

「身内が人を傷つけて、賠償に大金を使っているそうですよ。
相手が悪かったのでしょう。
サンダース子爵がお気の毒に思います」

『ハロルドが、サンダースをたかっている。
彼は婚姻して、幸せに新しい人生を歩んでいると思っていた』

記憶の中では、そこまでする人ではなかった。
怪我をして、違う一番はアリエールの裏切りだろう。

「領主がそんなんだから、空気が暗く思えたのか」

「旦那様、それだけではありません。
税金が値上がして、若者は出ていく者も多い。
治安が悪くなっている。
気をつけて行動した方が良いですよ」

自分が過ごしていた頃と変わってしまって、マティルダは長閑な雰囲気が失われてしまった。
昔の領民たちの笑顔を思い浮かべて、涙腺が緩んで涙が出そうになり強く目を瞑る。

アドニスは自分の隣の部屋に案内される為に、宿の主人たちと出て行く。
彼女を一人きりにさせる。

『ここまで悪くなっていたなんて!
明日、会った時にもっと心が潰されるだろう』

ベッドに崩れ落ちるように、横たわると暫くうつ伏せになる。
夕日で壁紙が黄金色に輝いていたが、彼女の周りだけは暗闇の中にいた。
そのまま、アドニスが部屋をノックするまで身動きひとつ動かせずにー。

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