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第8章
7 葡萄収穫は重労働
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帰国する旅先で二人は、その立ち寄った土地を見て回る。
葡萄が栽培されているようで、
農民たちが収穫していた。
生き生きしていて、楽しそうで自分も参加したくなる。
「私たちも、少しだけやってみるかい?
あの者たちが、よいと承諾してくれたらね」
「本当に?
ええ、やりたいわ!」
高い宝石よりも畑仕事の方が喜びそうだ。
大笑いそうになり、必死に微笑む程度にすませた。
お付きの人が働く者たちに話しかけて、話して合っている途中で彼らの表情がおかしかった。
「正直にあの人達に、私たちの身分を伝えているみたいですか?!」
「それは、流石にないよ。
見かけで貴族だとは分かるけど…。
きっと遊び半分で参加したいと思われて、内心はムカついていると思うよ。
私なら、ふざけんな貴族は引っ込んどけー!って気分だ」
肩をビクッてとして、彼女は自分の好奇心を後悔しだす。
「神経を逆撫でしてしまった。
今から辞めますって言ったら、余計で怒るでしょうか?」
「一生懸命に手伝えば、私たちの気持ちは伝わるんじゃないか?
マティルダが告白したようにさ」
「……、私をー。
アドニス王太子殿下は、そうやってからかってますのね」
頬を赤らめて口元を尖らせて、他人から見たらイチャイチャしているようだ。
お付きが声を掛けづらく近寄ると、農民たちに話をつけたと伝えにくる。
「やり方は農園の責任者が教えてくれるそうです。
あの~、お二人には言いにくいのですがー。
仕事は、丁寧にやって頂きたいそうです。
教えた通りに絶対して欲しいとお願いされました」
マティルダが彼の額に汗が見えているのを確認すると、彼らはキツイ言い方をしたんだ。
『興味本意で私が、ムリにお願いしたのは分かっている。
彼らにとっては、葡萄は大切な商品なのだ。
これで生活して食べていってるのだから……。
素人がぱっと現れて、遊び半分にされてはと思っている』
「ご苦労であった。
気をつけて作業をするよ。
迷惑をかけるようだから、彼らに何かお礼をした方がよいか」
王族育ちの彼は、迷惑をかけるから対価をあげればすむと考えているようだ。
これにはお付きの者は、聞き終えると顔を曇らせる。
呼吸を整えてから、意を決して若き主人に助言を述べてみた。
「王太子殿下、お聞き下さい。
それを提案したら、彼らは侮辱されたと思うでしょう。
農民でも、農民なりに矜持があるのでございます」
言いたいことを言ってくれたので、マティルダは彼を尊敬した。
彼は貴重な臣下である。
誰がアドニスに付けたのかは知らないが、主人を思い苦言するのは難しい。
「彼の言う通りでございます。
せっかく、皆様から許可が下りたのです。
頑張って少しでも役に立ったと、彼らに思わせましょう!」
気合い十分なマティルダは、理想と現実を目の当たりにしていた。
農民は毎日こんな働き方をしていたと知り、アドニスは自分等の暮らしの差に声も出ない。
マティルダたちは、彼らから服と靴を貸して貰い着替えてから葡萄畑に入った。
靴や服は、サイズが合わないのは仕方ない。
「手付きは、初めてとしたら良いほうです。
ゆっくりでいいですから、絶対に苗を傷つけないようにして下さい」
「大切に扱うよ。
ここまで育てるには、長年の苦労があっただろうからな」
広がる畑をぐるりと見渡してから、アドニスが責任者に返事をした。
「……、それから怪我などしないように。
責任を取らされては、命が幾つあっても足りませんからね」
「はい、気をつけてやらして貰います」
付け加えて細かく粒の良し悪しを教わり、それの見比べ作業を見てもらってお墨付きを貰ってから二人は本格的に始めた。
パチン、パチン……。
悪い粒を肉眼で見比べ、ハサミで切り分ける地道な作業。
「椅子に座っていても、腰やおしりが痛くなるな。
他の者たちは、中腰で素早く作業をこなしている」
「彼らと、一緒にしてはいけません。
私たちは素人がなんですから、余所見しないで下さい。
さぁ、やりますよ!」
黙々と、葡萄の房を鋭い目付きで選別している。
「殿下、それは緑っぽいです。
省いた方がいいですよ」
「そうか、すまなかった」
自分は細かい性格だと思っていたが、彼女の方が上手だった。
作業中にチラチラ気にして彼女を盗み見すれば、自分の倍ぐらい終っていて驚く。
「そんなに終わったの!?」
「あらっ、つい夢中になってしまったわ。
殿下も立ってみて下さい。
背伸びをしましようよ!」
空に向けて両手を伸ばすと、青空が綺麗で眺めると気持ちが良かった。
「おーい、新人~!
休憩するぞぉ~」
気づけば丸い輪になっていて、私たちに手を振ってくれている。
「休憩だそうですよ、殿下!」
嬉しそうに呼ばれた方へ、笑顔で手を振って返事をする。
「マティルダ、その呼び方はダメだよ。
皆に気づかれてしまう。
アドって、そう呼んでおくれ」
屈んで顔を近づけて言われてしまうと、甘い声と息でゾクッとする。
あの少年がこんな風になってしまうとは、私も年を取っているはずだ。
年より臭い考えをしては、彼に手を引かれて呼ぶ方へ歩く。
マティルダとアドニスにはたった半日だが、貴重な農民の生活を体験できた。
二人の未来に、何度か必ずや思い出し話す話題になるのだった。
葡萄が栽培されているようで、
農民たちが収穫していた。
生き生きしていて、楽しそうで自分も参加したくなる。
「私たちも、少しだけやってみるかい?
あの者たちが、よいと承諾してくれたらね」
「本当に?
ええ、やりたいわ!」
高い宝石よりも畑仕事の方が喜びそうだ。
大笑いそうになり、必死に微笑む程度にすませた。
お付きの人が働く者たちに話しかけて、話して合っている途中で彼らの表情がおかしかった。
「正直にあの人達に、私たちの身分を伝えているみたいですか?!」
「それは、流石にないよ。
見かけで貴族だとは分かるけど…。
きっと遊び半分で参加したいと思われて、内心はムカついていると思うよ。
私なら、ふざけんな貴族は引っ込んどけー!って気分だ」
肩をビクッてとして、彼女は自分の好奇心を後悔しだす。
「神経を逆撫でしてしまった。
今から辞めますって言ったら、余計で怒るでしょうか?」
「一生懸命に手伝えば、私たちの気持ちは伝わるんじゃないか?
マティルダが告白したようにさ」
「……、私をー。
アドニス王太子殿下は、そうやってからかってますのね」
頬を赤らめて口元を尖らせて、他人から見たらイチャイチャしているようだ。
お付きが声を掛けづらく近寄ると、農民たちに話をつけたと伝えにくる。
「やり方は農園の責任者が教えてくれるそうです。
あの~、お二人には言いにくいのですがー。
仕事は、丁寧にやって頂きたいそうです。
教えた通りに絶対して欲しいとお願いされました」
マティルダが彼の額に汗が見えているのを確認すると、彼らはキツイ言い方をしたんだ。
『興味本意で私が、ムリにお願いしたのは分かっている。
彼らにとっては、葡萄は大切な商品なのだ。
これで生活して食べていってるのだから……。
素人がぱっと現れて、遊び半分にされてはと思っている』
「ご苦労であった。
気をつけて作業をするよ。
迷惑をかけるようだから、彼らに何かお礼をした方がよいか」
王族育ちの彼は、迷惑をかけるから対価をあげればすむと考えているようだ。
これにはお付きの者は、聞き終えると顔を曇らせる。
呼吸を整えてから、意を決して若き主人に助言を述べてみた。
「王太子殿下、お聞き下さい。
それを提案したら、彼らは侮辱されたと思うでしょう。
農民でも、農民なりに矜持があるのでございます」
言いたいことを言ってくれたので、マティルダは彼を尊敬した。
彼は貴重な臣下である。
誰がアドニスに付けたのかは知らないが、主人を思い苦言するのは難しい。
「彼の言う通りでございます。
せっかく、皆様から許可が下りたのです。
頑張って少しでも役に立ったと、彼らに思わせましょう!」
気合い十分なマティルダは、理想と現実を目の当たりにしていた。
農民は毎日こんな働き方をしていたと知り、アドニスは自分等の暮らしの差に声も出ない。
マティルダたちは、彼らから服と靴を貸して貰い着替えてから葡萄畑に入った。
靴や服は、サイズが合わないのは仕方ない。
「手付きは、初めてとしたら良いほうです。
ゆっくりでいいですから、絶対に苗を傷つけないようにして下さい」
「大切に扱うよ。
ここまで育てるには、長年の苦労があっただろうからな」
広がる畑をぐるりと見渡してから、アドニスが責任者に返事をした。
「……、それから怪我などしないように。
責任を取らされては、命が幾つあっても足りませんからね」
「はい、気をつけてやらして貰います」
付け加えて細かく粒の良し悪しを教わり、それの見比べ作業を見てもらってお墨付きを貰ってから二人は本格的に始めた。
パチン、パチン……。
悪い粒を肉眼で見比べ、ハサミで切り分ける地道な作業。
「椅子に座っていても、腰やおしりが痛くなるな。
他の者たちは、中腰で素早く作業をこなしている」
「彼らと、一緒にしてはいけません。
私たちは素人がなんですから、余所見しないで下さい。
さぁ、やりますよ!」
黙々と、葡萄の房を鋭い目付きで選別している。
「殿下、それは緑っぽいです。
省いた方がいいですよ」
「そうか、すまなかった」
自分は細かい性格だと思っていたが、彼女の方が上手だった。
作業中にチラチラ気にして彼女を盗み見すれば、自分の倍ぐらい終っていて驚く。
「そんなに終わったの!?」
「あらっ、つい夢中になってしまったわ。
殿下も立ってみて下さい。
背伸びをしましようよ!」
空に向けて両手を伸ばすと、青空が綺麗で眺めると気持ちが良かった。
「おーい、新人~!
休憩するぞぉ~」
気づけば丸い輪になっていて、私たちに手を振ってくれている。
「休憩だそうですよ、殿下!」
嬉しそうに呼ばれた方へ、笑顔で手を振って返事をする。
「マティルダ、その呼び方はダメだよ。
皆に気づかれてしまう。
アドって、そう呼んでおくれ」
屈んで顔を近づけて言われてしまうと、甘い声と息でゾクッとする。
あの少年がこんな風になってしまうとは、私も年を取っているはずだ。
年より臭い考えをしては、彼に手を引かれて呼ぶ方へ歩く。
マティルダとアドニスにはたった半日だが、貴重な農民の生活を体験できた。
二人の未来に、何度か必ずや思い出し話す話題になるのだった。
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