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第8章
6 時の流れ中で
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皆が待ち望んだ子が誕生し、それが世継ぎになる王子。
王女でも資格があるが、やっぱりできたら男性の王が望ましかった。
「姉上、母子共に無事で良かったです。
ルドルフ王子が、これからも健やかに育ちますようにと思っております」
「ありがとう、アドニス。
帰国したら、母子ともに元気だと伝えてね。
また、いつでも顔を見せて!」
「きっと、また会いに来ます」
「マティルダ、今までありがとう」
「エリザベス王妃様……。
私こそ、親切にしてくれたのを忘れません。
ありがとうございます」
父ブライオンが、突然連れてきた娘マティルダを貴族たちは怪しみ冷たく裏でひっそり扱っていた。
そんな状況を打破したのが、王妃エリザベス。
マティルダより先に、彼女自身が味わっていたのだ。
「可愛い義妹マティルダ。
素直に自分の心を偽らないで、思い切って飛び込んでみなさい」
エリザベスは二人の間の空気が前と何か変わったのを感じて、彼女の迷いを晴らす言葉をかける。
「アドニス王太子、君もだ!
我が国は、いつまでも友好国。
互いの国民を幸福に導いていこう」
最後に王の別れの言葉に対する、彼の満面の笑みがその答えだろう。
マティルダの指にはめられた真珠の指輪を見つめて、馬車に乗り込む彼女の手を握った。
「ブライオン公爵がよく許してくれたな。
来てくれて、ここで踊りだそうだよ。
私の婚約者として来てくれる。
それで、間違いないんだよね」
「えっーと、そうですね?」
扇で顔を隠し、照れてはぐらかしている。
月夜の温室からマティルダは、彼の顔をまともに見られなくなっていた。
「暑くないし、覚えてないって言わせないよ。
そうやって、あの時は誤魔化し続けていたから。
君の場合は、ハッキリと確認しないといけない」
「まぁ、酷い仰りようです。
あの時、出産後感動して言ってしまったのです。
それにアドニス王太子殿下との子とは、私は一言も言ってないのにー」
顔を見えなくしてマティルダは、最後はそのゴニョゴニョと言い聞き取れなくなる。
「目を見て言われたら、どんな男だって誤解はする。
だから、ついー」
話していて、アドニスも赤面。
初々しい付き合い始めた恋人みたいに、他人には思われる話をしていた。
「ゴホン!責任はとる!
君も決心して、その指輪をしてくれているんだろう」
マティルダの指には、彼が贈った真珠の指輪が。
「えっ、あれぐらい気にしないでください。
深刻に考えずに、婚約したいですが。
前みたいな事も、あるかもしれませんから」
彼女の苦い過去が、頭の中で次々に思い出されている。
「しないよ!
婚約者を裏切る男ではないぞ。
ましてや、妹と関係を持つなんてしないよ」
「妹と言えば、アリエールはどうしてるかしら?
謝罪の手紙を何通か貰って、やり取りはしていたけどー。
最近は返事がないのよ」
やり取りをしていて驚き、彼女に疑問を投げかけた。
「あんな裏切りをして嫌がらせをしていた者に、君は許し情けをかけていたのか?」
「別に深い考えはないわ。
修道院にいて罪を償っている。
やり直して欲しいと思ってます」
もう一方の元婚約者の男性の近況は、彼が隣国に行く前に調べてみた。
「彼女は知らないが、元婚約者の男なら婚姻したよ。
それに兄上の婚約候補だった。
あの伯爵令嬢たちも、伯爵と子爵に嫁いだそうだ。
父上と母上が、かなり頑張って相手を紹介したからね」
「あの方たちがー。
キチンと婚姻できてホッとしましたわ。
あと、ハロルド様も……」
「気になるかい?
彼が誰と婚姻したかをー」
「気になりますわ。
左手の指の動きは、ゆっくりなら動かせるようだと噂で伺いました。
婚姻の話しは、ここで初めて聞きました」
扇で隠していた顔を、ムスッとしているアドニスに向けている。
「貴族でなく、商家の跡継ぎの娘だ。
相手の家は、貴族の出身の彼を利用したかったんだろう」
「あれほど、婚姻は貴族と拘りがあったようですがー。
商人の家に、彼は婿養子に入ったですね」
最後まで、彼を愛しているとハロルドに言っていた。
アリエールは、この婚姻を耳にしているのかしら。
修道院では社会から遮断されて、高い確率で知らないはずだわ。
「それ以上は詳しくは分からない。
サンダース子爵は、彼女たちとは手紙のやり取りはしているようだ。
静かに領地で過ごしている」
「いつか、修道院から出て3人が会えるといいと思ってます」
彼らの4年間の時の中で、どんな時を送ってきたのか。
思い耽っていると、彼は恩赦の話を教えてくれた。
「エリザベス王妃様のご出産で、そんな恩赦があるのですか?」
「王の父上にとっては、他国に嫁いでも初孫の誕生だ。
それも男児だから、喜びはスゴいと思う」
「もし、もしも。
アリエールとカーラさんが、修道院から出られたらいいのに」
「マティルダはお人好しだね。
君に苛めや嫌がらせをしたんだよ。
でも、それが本心なら父に口添えをしてあげる。
なにせ、君は私の婚約者になる人だから」
期待を込めて彼女は、アドニスを見つめていた。
これが叶ったら、なんの憂いもなく彼の婚約者になれる。
そんな気になっていた。
マティルダの願いはあっさりと叶ったのは、すでに修道院で罪を償っていた。
二人が心を入れ換えて、模範的にしていたお陰でもあったからだ。
王女でも資格があるが、やっぱりできたら男性の王が望ましかった。
「姉上、母子共に無事で良かったです。
ルドルフ王子が、これからも健やかに育ちますようにと思っております」
「ありがとう、アドニス。
帰国したら、母子ともに元気だと伝えてね。
また、いつでも顔を見せて!」
「きっと、また会いに来ます」
「マティルダ、今までありがとう」
「エリザベス王妃様……。
私こそ、親切にしてくれたのを忘れません。
ありがとうございます」
父ブライオンが、突然連れてきた娘マティルダを貴族たちは怪しみ冷たく裏でひっそり扱っていた。
そんな状況を打破したのが、王妃エリザベス。
マティルダより先に、彼女自身が味わっていたのだ。
「可愛い義妹マティルダ。
素直に自分の心を偽らないで、思い切って飛び込んでみなさい」
エリザベスは二人の間の空気が前と何か変わったのを感じて、彼女の迷いを晴らす言葉をかける。
「アドニス王太子、君もだ!
我が国は、いつまでも友好国。
互いの国民を幸福に導いていこう」
最後に王の別れの言葉に対する、彼の満面の笑みがその答えだろう。
マティルダの指にはめられた真珠の指輪を見つめて、馬車に乗り込む彼女の手を握った。
「ブライオン公爵がよく許してくれたな。
来てくれて、ここで踊りだそうだよ。
私の婚約者として来てくれる。
それで、間違いないんだよね」
「えっーと、そうですね?」
扇で顔を隠し、照れてはぐらかしている。
月夜の温室からマティルダは、彼の顔をまともに見られなくなっていた。
「暑くないし、覚えてないって言わせないよ。
そうやって、あの時は誤魔化し続けていたから。
君の場合は、ハッキリと確認しないといけない」
「まぁ、酷い仰りようです。
あの時、出産後感動して言ってしまったのです。
それにアドニス王太子殿下との子とは、私は一言も言ってないのにー」
顔を見えなくしてマティルダは、最後はそのゴニョゴニョと言い聞き取れなくなる。
「目を見て言われたら、どんな男だって誤解はする。
だから、ついー」
話していて、アドニスも赤面。
初々しい付き合い始めた恋人みたいに、他人には思われる話をしていた。
「ゴホン!責任はとる!
君も決心して、その指輪をしてくれているんだろう」
マティルダの指には、彼が贈った真珠の指輪が。
「えっ、あれぐらい気にしないでください。
深刻に考えずに、婚約したいですが。
前みたいな事も、あるかもしれませんから」
彼女の苦い過去が、頭の中で次々に思い出されている。
「しないよ!
婚約者を裏切る男ではないぞ。
ましてや、妹と関係を持つなんてしないよ」
「妹と言えば、アリエールはどうしてるかしら?
謝罪の手紙を何通か貰って、やり取りはしていたけどー。
最近は返事がないのよ」
やり取りをしていて驚き、彼女に疑問を投げかけた。
「あんな裏切りをして嫌がらせをしていた者に、君は許し情けをかけていたのか?」
「別に深い考えはないわ。
修道院にいて罪を償っている。
やり直して欲しいと思ってます」
もう一方の元婚約者の男性の近況は、彼が隣国に行く前に調べてみた。
「彼女は知らないが、元婚約者の男なら婚姻したよ。
それに兄上の婚約候補だった。
あの伯爵令嬢たちも、伯爵と子爵に嫁いだそうだ。
父上と母上が、かなり頑張って相手を紹介したからね」
「あの方たちがー。
キチンと婚姻できてホッとしましたわ。
あと、ハロルド様も……」
「気になるかい?
彼が誰と婚姻したかをー」
「気になりますわ。
左手の指の動きは、ゆっくりなら動かせるようだと噂で伺いました。
婚姻の話しは、ここで初めて聞きました」
扇で隠していた顔を、ムスッとしているアドニスに向けている。
「貴族でなく、商家の跡継ぎの娘だ。
相手の家は、貴族の出身の彼を利用したかったんだろう」
「あれほど、婚姻は貴族と拘りがあったようですがー。
商人の家に、彼は婿養子に入ったですね」
最後まで、彼を愛しているとハロルドに言っていた。
アリエールは、この婚姻を耳にしているのかしら。
修道院では社会から遮断されて、高い確率で知らないはずだわ。
「それ以上は詳しくは分からない。
サンダース子爵は、彼女たちとは手紙のやり取りはしているようだ。
静かに領地で過ごしている」
「いつか、修道院から出て3人が会えるといいと思ってます」
彼らの4年間の時の中で、どんな時を送ってきたのか。
思い耽っていると、彼は恩赦の話を教えてくれた。
「エリザベス王妃様のご出産で、そんな恩赦があるのですか?」
「王の父上にとっては、他国に嫁いでも初孫の誕生だ。
それも男児だから、喜びはスゴいと思う」
「もし、もしも。
アリエールとカーラさんが、修道院から出られたらいいのに」
「マティルダはお人好しだね。
君に苛めや嫌がらせをしたんだよ。
でも、それが本心なら父に口添えをしてあげる。
なにせ、君は私の婚約者になる人だから」
期待を込めて彼女は、アドニスを見つめていた。
これが叶ったら、なんの憂いもなく彼の婚約者になれる。
そんな気になっていた。
マティルダの願いはあっさりと叶ったのは、すでに修道院で罪を償っていた。
二人が心を入れ換えて、模範的にしていたお陰でもあったからだ。
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