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第7章
27 残されしもの
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謁見の間から出されたサンダース伯爵は子爵になり、妻と偽った夫人と娘は別々の修道院に行かされる。
犯罪者扱いなので普通よりも劣悪な場所で重労働を課せられた。
最後までアリエールは、姉だったマティルダにすがるような目付きをしていた。
見ないように無視して彼女は、本当の父とこれから別室で今後の身の振り方を話し合うのだ。
場所替えをすると二人は座ると、深いため息をついて暫くは黙ってお茶を運ばれるのを待つ。
鳥の鳴き声が時々聞こえる中で、遠い昔の出来事をいろいろ思い返す表情をしていた。
女官たちは良くある空気だと、儀礼に沿って淡々と用意をしてから声をかけてきた。
ブライオンとマティルダは労いの言葉をかけると、静かにさっと消えていく。
「君の了承を得ずに、勝手にして悪かった。
セリメーヌの墓の事もだ。
彼女には祖国で眠って欲しい。
そうすれば、好きなときに会いに行けるからな」
ずっと気がかりだった話を、実の父に思いきって話してみる。
「お父様は、私から見ても素敵な男性です。
まだギリギリ三十代前半ですし、婚姻だって全然できますわ。
世捨て人みたいに、母だけを思っていて生きるのはどうかと思います」
「周りも同じように、何度も婚姻を勧めてきた。
君だけに本心を話そう。
戦いの中でこの世の地獄を見て、夜な夜なうなされたりした。
生き残ったのさえ、悔やむ毎日だったのだ」
前の王である父や王太子が戦死するなかで、自分だけ生き残った罪悪に苦しんでいたと告白をしてきた。
「周りの皆は、表面では生きていたことを喜んでくれる。
内心では兄の代わりに、お前が死ねば良かったと聞こえてな。
被害妄想かもしれないが、とても幸せになりたいとは思えなくなってしまった」
「そうでしたか。
余計な話をさせてしました」
ブライオンは前にいるセリメーヌとの証しを見ているだけで、胸が温かくなり幸せに感じてくる。
「お前がー、私の今の幸せだ。
セリメーヌは、きっと孤独な私に君を授けてくれた。
父娘として生きていける幸福が、私に与えられるとは思わなかったよ」
「私も…。
母の生きていた頃の話を聞かせてください。
二人で、母を祖国に連れて参りましょう」
庭ではアドニスが、バラの花をいつまでも眺めているのをイブリンが偶然目にしていた。
「アドニス第二殿下?
夏の赤い薔薇が、まだ美しく咲いていますね」
「これは侯爵令嬢、王宮には少しはなれましたか?」
「はい、皆さまにはよくしていただいて感謝してます。
他国に来てみて良かったです。
私を色眼鏡で見る人もいませんから、気が楽でちょっと太りましたわ」
冗談も話せる自分に、驚き自然に笑みが溢れ出てくる。
「他国で暮らすには、私たちにはわからない勇気がいりますよね。
大切な人が側からいなくなると知り、寂しく感じてしまってココにいました」
「殿下は恵まれてます。
生きているんですから。
手紙で想いを伝えられるし、頑張れば会いに行けます。
生きてさえ……、生きていたら。
それだけで、よかったのです」
侯爵令嬢は薔薇を見ていた目線を、急に上に挙げて空を見上げていた。
声が詰まり震えていて、彼女が必死に最後まで話しきると彼女は泣いた。
悪い話をしてしまって、自分はまだまだ配慮できない子供だと恥ずかしくなる。
「すまない。
難しいと思うけど、彼は君の幸せを思っているよ。
空の上で君を見ている」
「……、見てますか。
泣いてばかりいたら、怒られてしまいますね」
二人は、そのまま庭を散歩しだした。
泣いたばかりの顔を誰かに見せたくないし、彼女も見せなくないだろう。
バルコニーで妹メアリーが、アンゲロス公爵令息たちとお茶していた。
「アドお兄様が浮気をしてるわ!
イブリンっていう名前の他国から来た侯爵令嬢と、仲良く庭を散歩してます!」
紅茶のカップを音を立てて置く。
「ただの散歩で浮気なら、みんな浮気や不倫だらけですよ」
「まぁ!不倫ですって!
ロバート様はお口が悪いですわ!」
「ロバート様、ご令嬢方には刺激が強いですよ。
メアリー王女殿下、あの様子では心配はありません」
一言多い彼が、ホッとしてお茶を飲み込むと遠くから馬車が走ってきた。
「あーっ!あの馬車は!
我が家のブルネール侯爵の馬車だわ!」
「エドお兄様の婚約者候補がなくなっても、一人だけ居座っていたもの。
普通はもっと早く来るんでしょうけど、のんびりな性格をしてますね」
王女は嫌みっぽく、近づく馬車を苦笑いして言ってのけた。
「ブルネール侯爵令嬢は、実家に戻らなかったから乗り込んで来たんだな」
マイヤー伯爵令息ジョージは他人事みたいに言ってくるが、自分が嵐の中心になるのを知らない。
王宮に人間台風が、どうやら上陸するようだ。
犯罪者扱いなので普通よりも劣悪な場所で重労働を課せられた。
最後までアリエールは、姉だったマティルダにすがるような目付きをしていた。
見ないように無視して彼女は、本当の父とこれから別室で今後の身の振り方を話し合うのだ。
場所替えをすると二人は座ると、深いため息をついて暫くは黙ってお茶を運ばれるのを待つ。
鳥の鳴き声が時々聞こえる中で、遠い昔の出来事をいろいろ思い返す表情をしていた。
女官たちは良くある空気だと、儀礼に沿って淡々と用意をしてから声をかけてきた。
ブライオンとマティルダは労いの言葉をかけると、静かにさっと消えていく。
「君の了承を得ずに、勝手にして悪かった。
セリメーヌの墓の事もだ。
彼女には祖国で眠って欲しい。
そうすれば、好きなときに会いに行けるからな」
ずっと気がかりだった話を、実の父に思いきって話してみる。
「お父様は、私から見ても素敵な男性です。
まだギリギリ三十代前半ですし、婚姻だって全然できますわ。
世捨て人みたいに、母だけを思っていて生きるのはどうかと思います」
「周りも同じように、何度も婚姻を勧めてきた。
君だけに本心を話そう。
戦いの中でこの世の地獄を見て、夜な夜なうなされたりした。
生き残ったのさえ、悔やむ毎日だったのだ」
前の王である父や王太子が戦死するなかで、自分だけ生き残った罪悪に苦しんでいたと告白をしてきた。
「周りの皆は、表面では生きていたことを喜んでくれる。
内心では兄の代わりに、お前が死ねば良かったと聞こえてな。
被害妄想かもしれないが、とても幸せになりたいとは思えなくなってしまった」
「そうでしたか。
余計な話をさせてしました」
ブライオンは前にいるセリメーヌとの証しを見ているだけで、胸が温かくなり幸せに感じてくる。
「お前がー、私の今の幸せだ。
セリメーヌは、きっと孤独な私に君を授けてくれた。
父娘として生きていける幸福が、私に与えられるとは思わなかったよ」
「私も…。
母の生きていた頃の話を聞かせてください。
二人で、母を祖国に連れて参りましょう」
庭ではアドニスが、バラの花をいつまでも眺めているのをイブリンが偶然目にしていた。
「アドニス第二殿下?
夏の赤い薔薇が、まだ美しく咲いていますね」
「これは侯爵令嬢、王宮には少しはなれましたか?」
「はい、皆さまにはよくしていただいて感謝してます。
他国に来てみて良かったです。
私を色眼鏡で見る人もいませんから、気が楽でちょっと太りましたわ」
冗談も話せる自分に、驚き自然に笑みが溢れ出てくる。
「他国で暮らすには、私たちにはわからない勇気がいりますよね。
大切な人が側からいなくなると知り、寂しく感じてしまってココにいました」
「殿下は恵まれてます。
生きているんですから。
手紙で想いを伝えられるし、頑張れば会いに行けます。
生きてさえ……、生きていたら。
それだけで、よかったのです」
侯爵令嬢は薔薇を見ていた目線を、急に上に挙げて空を見上げていた。
声が詰まり震えていて、彼女が必死に最後まで話しきると彼女は泣いた。
悪い話をしてしまって、自分はまだまだ配慮できない子供だと恥ずかしくなる。
「すまない。
難しいと思うけど、彼は君の幸せを思っているよ。
空の上で君を見ている」
「……、見てますか。
泣いてばかりいたら、怒られてしまいますね」
二人は、そのまま庭を散歩しだした。
泣いたばかりの顔を誰かに見せたくないし、彼女も見せなくないだろう。
バルコニーで妹メアリーが、アンゲロス公爵令息たちとお茶していた。
「アドお兄様が浮気をしてるわ!
イブリンっていう名前の他国から来た侯爵令嬢と、仲良く庭を散歩してます!」
紅茶のカップを音を立てて置く。
「ただの散歩で浮気なら、みんな浮気や不倫だらけですよ」
「まぁ!不倫ですって!
ロバート様はお口が悪いですわ!」
「ロバート様、ご令嬢方には刺激が強いですよ。
メアリー王女殿下、あの様子では心配はありません」
一言多い彼が、ホッとしてお茶を飲み込むと遠くから馬車が走ってきた。
「あーっ!あの馬車は!
我が家のブルネール侯爵の馬車だわ!」
「エドお兄様の婚約者候補がなくなっても、一人だけ居座っていたもの。
普通はもっと早く来るんでしょうけど、のんびりな性格をしてますね」
王女は嫌みっぽく、近づく馬車を苦笑いして言ってのけた。
「ブルネール侯爵令嬢は、実家に戻らなかったから乗り込んで来たんだな」
マイヤー伯爵令息ジョージは他人事みたいに言ってくるが、自分が嵐の中心になるのを知らない。
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