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第7章
23 アリエール罪重なる
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王宮の出入り口で問題があったのを知らず、マイヤー伯爵は両殿下にサンダース伯爵たちが訪れたむねを伝えていた。
「マイヤーよ、連れてきてくれて礼を言うぞ!
マティルダ嬢には、知らせずに事を終わらせる」
「ブライオン王弟殿下、サンダースとは会うのですか?!」
「無論だ!
セリメーヌを偽った女が、どんな者か!
その顔を見てみたい」
怒りを心に秘めて、彼はセリメーヌはサンダース伯爵に殺されたのではと疑っている。
マイヤー伯爵が、彼らの所に戻ると柱の影に隠れているみたいに見えた。
「サンダース伯爵、待たせた。
これから陛下がお会いになる。
粗相をしないように、くれぐれも気をつけてくれたまえ」
伯爵は貴族だけあると心得ているが、不安なのはコチラの女性たちだ。
くどくど話して火に油を注ぐのは不味いし、大人しくして貰いたいがあの方もいらっしゃる。
「はぁ~、髪が抜けて失くなりそうだ」
前に誰もいないのをいいことに、マイヤーは本音を溢してしまう。
「ここが王宮の中…。
素晴らしい彫刻に絵画。
夢の中のようだわ」
「シャンデリアにステンドグラス。
このような場所が、この世にあるなんて知らなかったわ」
舞い上がる気持ちは分かるが、はしゃぎすぎで後ろを振り返り注意しようか。
「田舎者とまた言われるぞ。
キョロキョロするな。
前を向いてちゃんと歩くんだ」
妻と娘に小さな声で命じると、落ち着いて静かにしてくれた。
王の部屋の前では、近衛の騎士たちが扉の前に立って護衛をしている。
きらびやかな制服に整った顔立ちは、王の護衛に相応しい凛々しさであった。
ハロルドしか知らなかったアリエールは、瞳を輝かして頬を赤らめて熱く騎士たちを見つめる。
『素敵な方々!
王宮で過ごしているお姉様は、ズルいですわ!
こんな美しい殿方を、こうして毎日眺めていたの。
ハロルドなんて、彼らに比べたら霞んでしまう』
立場を知らないアリエールは、胸の高鳴りが収まらない。
「絶対に陛下がお声をかけるまで、君たちは話してはならない。
勝手に顔を挙げて、両陛下やお側にいる方のお顔を目にしてはならないぬ。
よいか、必ず守るのだ」
マイヤーが何度も言い聞かせるが、アリエールだけはイヤな顔を見せていた。
『この娘は、何を仕出かすか予想だにできぬ。
息子ジョージからの報告書を読んで合点がいった。
今まで様子を伺っていたが、突発的に事件を引き起こす性質を持っている』
彼はアリエールに重点を置き、配置している騎士たちに密かに耳打ちをしていた。
部屋に入ってからサンダース伯爵の三名は、王のお声がかかるまで立たされている。
『いつまで私たちをこのままにさせているのか。
これは罠だろうか?』
この中で生まれたときから貴族の男は、この世界の醜いところを知っていたらしい。
社交界から遠ざかりこの上部だけのやり取りは忘れかけていたが、幼いときは交流があり田舎の貴族と陰口を言われていた。
『あれから何分経ったのかしら、この姿勢では体が持たないわ。
アリエールは大丈夫かしら?』
床を見て頭を垂れて、腰を折っていてだんだんと血が引く思いをしている。
『声はするけど、コチラを気にする気配がないわ。
マティルダお姉様が、陛下に意地悪するようにお願いしたんだわ。
なんて、ヒドい姉なの!』
居ない者のせいにしては、アリエールの姿勢は保てなくなりブルブルと震えている。
その様子を観察していてブライオンは、王と王妃に目配せをして笑っていた。
「へ、陛下。
ご無礼を承知で申し上げます。
私たちが見えておいででしょうか?」
1番身分が低い若輩のアリエールがこの国で1番権威ある方に先に声掛けをしたのである。
「あ、アリエール!
お前はー!
なんと言うことをー」
下を向きながらも娘を𠮟りつけた、サンダース伯爵。
「だって、お父様!
もう頭に血が上りそうだし、体だって限界ですわ」
姿勢を戻して父の頭を見て、周りの空気も気にせずに話し出す。
やるとは予想していたが、挨拶前にやらかすのは想定外。
「無礼者、陛下にお声をかけるとは!
どのような教育をしたら、こんな令嬢が出来上がるんだ」
警備責任者を兼ねたマイヤー伯爵が彼女の前に立ち注意すると、王たちに向けて片ひざを折り謝罪する。
「陛下、申し訳ございません。
会う前から忠告は致しましたが、このような不快な事になりましてお詫び致します」
「よい、マイヤー。
そちのこれまでの苦労は、これでよく分かった。
謝罪には及ばぬ。
たが、この娘は話が違うぞ!」
「そんな~、お許し下さい。
どうかお慈悲を……」
続けて母親までもが、許可なしに王に話しかけてしまう。
伯爵は二人の失態に、下を向き鼻先から滴り落ちる汗が床を濡らす。
目が眩みそうになり、爪を立てて握る手の平の痛みで正気を保つ。
「アハハハ、想像よりもお粗末であるな。
マティルダの苦労が目に浮かぶようだ。
我が娘をずいぶんと可愛がってくれたようで、サンダース伯爵よ。
私から礼を申すぞ!」
自分等と同じ年齢か、少しだけ下に聞こえる覇気ある声。
この話し方はかなりの身分だとサンダース伯爵は感じた。
『我が娘?
では、マティルダの本当の父親はこの声の人か?
顔を見てみたいが、これ以上は罪を重ねられない』
「王よ、そろそろ本題に入りたいがよいか?」
「皆のものよ!
面を挙げるがよい!」
陛下の一声で再び頭を下げていたアリエールたちも、揃って顔を挙げるとそこには両陛下と見知らぬ美丈夫が堂々と座っていた。
『美しくて素敵な方……』
アリエールは、マティルダの父とも知らずにブライオンに顔を赤らめていた。
心がそこにないように、美しい彼をボーッとただ見つめる。
どんどん赤らむ顔が、こらからどの色に変わるのだろうか。
脳天気な彼女は、その男の怒りを知らないでいた。
「マイヤーよ、連れてきてくれて礼を言うぞ!
マティルダ嬢には、知らせずに事を終わらせる」
「ブライオン王弟殿下、サンダースとは会うのですか?!」
「無論だ!
セリメーヌを偽った女が、どんな者か!
その顔を見てみたい」
怒りを心に秘めて、彼はセリメーヌはサンダース伯爵に殺されたのではと疑っている。
マイヤー伯爵が、彼らの所に戻ると柱の影に隠れているみたいに見えた。
「サンダース伯爵、待たせた。
これから陛下がお会いになる。
粗相をしないように、くれぐれも気をつけてくれたまえ」
伯爵は貴族だけあると心得ているが、不安なのはコチラの女性たちだ。
くどくど話して火に油を注ぐのは不味いし、大人しくして貰いたいがあの方もいらっしゃる。
「はぁ~、髪が抜けて失くなりそうだ」
前に誰もいないのをいいことに、マイヤーは本音を溢してしまう。
「ここが王宮の中…。
素晴らしい彫刻に絵画。
夢の中のようだわ」
「シャンデリアにステンドグラス。
このような場所が、この世にあるなんて知らなかったわ」
舞い上がる気持ちは分かるが、はしゃぎすぎで後ろを振り返り注意しようか。
「田舎者とまた言われるぞ。
キョロキョロするな。
前を向いてちゃんと歩くんだ」
妻と娘に小さな声で命じると、落ち着いて静かにしてくれた。
王の部屋の前では、近衛の騎士たちが扉の前に立って護衛をしている。
きらびやかな制服に整った顔立ちは、王の護衛に相応しい凛々しさであった。
ハロルドしか知らなかったアリエールは、瞳を輝かして頬を赤らめて熱く騎士たちを見つめる。
『素敵な方々!
王宮で過ごしているお姉様は、ズルいですわ!
こんな美しい殿方を、こうして毎日眺めていたの。
ハロルドなんて、彼らに比べたら霞んでしまう』
立場を知らないアリエールは、胸の高鳴りが収まらない。
「絶対に陛下がお声をかけるまで、君たちは話してはならない。
勝手に顔を挙げて、両陛下やお側にいる方のお顔を目にしてはならないぬ。
よいか、必ず守るのだ」
マイヤーが何度も言い聞かせるが、アリエールだけはイヤな顔を見せていた。
『この娘は、何を仕出かすか予想だにできぬ。
息子ジョージからの報告書を読んで合点がいった。
今まで様子を伺っていたが、突発的に事件を引き起こす性質を持っている』
彼はアリエールに重点を置き、配置している騎士たちに密かに耳打ちをしていた。
部屋に入ってからサンダース伯爵の三名は、王のお声がかかるまで立たされている。
『いつまで私たちをこのままにさせているのか。
これは罠だろうか?』
この中で生まれたときから貴族の男は、この世界の醜いところを知っていたらしい。
社交界から遠ざかりこの上部だけのやり取りは忘れかけていたが、幼いときは交流があり田舎の貴族と陰口を言われていた。
『あれから何分経ったのかしら、この姿勢では体が持たないわ。
アリエールは大丈夫かしら?』
床を見て頭を垂れて、腰を折っていてだんだんと血が引く思いをしている。
『声はするけど、コチラを気にする気配がないわ。
マティルダお姉様が、陛下に意地悪するようにお願いしたんだわ。
なんて、ヒドい姉なの!』
居ない者のせいにしては、アリエールの姿勢は保てなくなりブルブルと震えている。
その様子を観察していてブライオンは、王と王妃に目配せをして笑っていた。
「へ、陛下。
ご無礼を承知で申し上げます。
私たちが見えておいででしょうか?」
1番身分が低い若輩のアリエールがこの国で1番権威ある方に先に声掛けをしたのである。
「あ、アリエール!
お前はー!
なんと言うことをー」
下を向きながらも娘を𠮟りつけた、サンダース伯爵。
「だって、お父様!
もう頭に血が上りそうだし、体だって限界ですわ」
姿勢を戻して父の頭を見て、周りの空気も気にせずに話し出す。
やるとは予想していたが、挨拶前にやらかすのは想定外。
「無礼者、陛下にお声をかけるとは!
どのような教育をしたら、こんな令嬢が出来上がるんだ」
警備責任者を兼ねたマイヤー伯爵が彼女の前に立ち注意すると、王たちに向けて片ひざを折り謝罪する。
「陛下、申し訳ございません。
会う前から忠告は致しましたが、このような不快な事になりましてお詫び致します」
「よい、マイヤー。
そちのこれまでの苦労は、これでよく分かった。
謝罪には及ばぬ。
たが、この娘は話が違うぞ!」
「そんな~、お許し下さい。
どうかお慈悲を……」
続けて母親までもが、許可なしに王に話しかけてしまう。
伯爵は二人の失態に、下を向き鼻先から滴り落ちる汗が床を濡らす。
目が眩みそうになり、爪を立てて握る手の平の痛みで正気を保つ。
「アハハハ、想像よりもお粗末であるな。
マティルダの苦労が目に浮かぶようだ。
我が娘をずいぶんと可愛がってくれたようで、サンダース伯爵よ。
私から礼を申すぞ!」
自分等と同じ年齢か、少しだけ下に聞こえる覇気ある声。
この話し方はかなりの身分だとサンダース伯爵は感じた。
『我が娘?
では、マティルダの本当の父親はこの声の人か?
顔を見てみたいが、これ以上は罪を重ねられない』
「王よ、そろそろ本題に入りたいがよいか?」
「皆のものよ!
面を挙げるがよい!」
陛下の一声で再び頭を下げていたアリエールたちも、揃って顔を挙げるとそこには両陛下と見知らぬ美丈夫が堂々と座っていた。
『美しくて素敵な方……』
アリエールは、マティルダの父とも知らずにブライオンに顔を赤らめていた。
心がそこにないように、美しい彼をボーッとただ見つめる。
どんどん赤らむ顔が、こらからどの色に変わるのだろうか。
脳天気な彼女は、その男の怒りを知らないでいた。
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