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第7章
22 王宮の洗礼
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主人たちが、帰還した王宮には活気が戻ってくる。
行き交う人々も、こころなしか明るい表情をしていた。
待ち構えていた貴族たちは、両陛下に自分たちの顔を忘れないように、一目でも会ってお声をかけて頂こうと必死である。
「どこの貴族も、似たことをするのね。
これは勉強しなくても、自然と身に付いていますので結構ですわ」
「イブリン様は、案外お人が悪い方でしたのね。
私たちは2国間の外交に関し手伝いながら、この国のことを勉強します」
「タダでは心苦しいから、仕事があるのはいい事です。
それに王宮なら……」
「貴族出身の未来の官僚たちにも会えます。
恋のお相手に出会える。
可能性もありますしい」
彼女たちがお茶してる場所は、入り口を見下ろす二階の死角になる。
玄関から入ってくる人びとはよく見えるが、反対に彼女たちは見えにくい。
そこに初めて王宮に来たのがまる分かりで、キョロキョロとし口をポカーンとして歩く男女たちが目についた。
この人たちがマティルダと関係があるのを知らずに、騒ぎを起こしていた人物たちに注目していた。
「マイヤー伯爵様、お久しぶりです。
陛下のお供で、避暑地へ行かれていたと伺ってますわ」
マイヤー伯爵のみに挨拶する貴婦人たちは、近くにいたサンダース伯爵一家をチラッと流し目をする。
「ご夫婦たちは、夏のバカンスを楽しまれましたか?」
「ここよりは、涼しい場所に避難しました」
何度か会話を交わしたが貴婦人たちは、サンダース一家を居ないものと無視していた。
「すまないが、少しここで待っていてくれ」
伯爵一家の到着を知らせるために、マイヤー伯爵だけがこの場を離れていく。
王との橋渡しを期待した夫人たちは、それが空振りに終わりガッカリするとー。
その矛先を彼らに向けて、オモチャにして茶化し始めた。
「あらっ、どちらの方々かしら?
王宮では、あまりお見受けしない。
お顔ばかりですわね」
「これは、サンダース伯爵と申します。
お見知りおきをー」
「サンダース?
失礼ですが、存じない名前ですわ」
「侯爵夫人、確か…。
マティルダ嬢のご実家か、サンダースでした。
伯爵様でしたわよね」
「ああ、そうでした。
実家は田舎の伯爵ですと、マティルダ嬢はいつも謙遜してましたわ。
冗談だとばかり思って、私は笑ってましたが……。
嘘ではなかったのですね。
クスクス」
侯爵夫人は肩ぐらいの髪の毛の長さと、質素なドレス姿をジロジロ見てはバカにするように小さく笑う。
「初対面でそんな態度してくるなんて、私たちが貴女たちに何をしたというのです!」
「よしなさい!」
伯爵が妻を止めるが、気にしないで彼女らは話しかけてくる。
「初めて来たのでしょう?
ここには、ココのしきたりがあるのです。
似つかわしい服装で、王宮へ来て欲しくなかったものですから…。
気に障りましたら、一言ぐらいは謝りますわ」
「せめて、絹のドレスを着て頂きたかったわ。
本音がつい出てしまい、これは御免遊ばせ。ホホホ…」
絹の上質な色鮮やかな飾りが付けられ、生地をふんだんに使った膨らんだドレスを翻しながら去ってゆく。
言い返せなく、惨めな気持ちを味わったサンダース伯爵一家。
「お姉様は…。
こんな恐ろしい場所にいたなんて…」
「よさないか!
王宮をそんな風に言ってはいけない。
アリエール!」
「でも、お父様。
田舎者と私たちをバカにしてましたわ」
「私も同じ様に、そう感じましたわ。
私たちは貴族で、伯爵なのに…」
矜持をへし折られた二人は、この怒りを我慢して押さえていた。
このやり取りを見聞きして、耳にした名前に聞き覚えがあった。
『サンダース』
『アリエール?』
何処かで聞いた名前だと、隣国からの令嬢たちは考える。
「思い出しました。
マティルダ様のご家族です。
侯爵夫人と呼ばれた方が、マティルダと名前を呼ばれてましたわ」
「あの髪が短い方が、マティルダ様の妹君ですの?
少しも似たところがありませんわね?」
「年配の方は、母上様と父上様でしょうか?」
「三人は親子に見えますが、マティルダ様は…」
「似ていない親子は、いくらでもいます。
貴女方、これ以上は言ってはなりませんよ!」
平等の扱いで来てはいるが、身分が高いイブリンには逆らえなかった。
「「「はい、イブリン様」」」
こうは言っても、見れば見るほど他人に見える。
「娘に会いに、わざわざ領地からいらっしゃったようですね」
「あの人たちもお褒めの言葉を頂くのかしら、雨をお降らしになられた巫女様のご家族ですもの」
「そうに違いません。
近々、私たちの歓迎を兼ねたパーティーが催されると聞きました。
たぶん、その時にマティルダ様からご紹介をされます」
イブリンの予想は、残念だが当たることはなかった。
この後にサンダース伯爵一家は、これよりこころが打ちのめされる。
特に双子として育ち、両親から溺愛されたアリエールには耐えきれるだろうか。
マティルダがこの出来事を知っていたら、サンダース伯爵家が陛下の前で問題を起こさないことを祈っていたに違いない。
行き交う人々も、こころなしか明るい表情をしていた。
待ち構えていた貴族たちは、両陛下に自分たちの顔を忘れないように、一目でも会ってお声をかけて頂こうと必死である。
「どこの貴族も、似たことをするのね。
これは勉強しなくても、自然と身に付いていますので結構ですわ」
「イブリン様は、案外お人が悪い方でしたのね。
私たちは2国間の外交に関し手伝いながら、この国のことを勉強します」
「タダでは心苦しいから、仕事があるのはいい事です。
それに王宮なら……」
「貴族出身の未来の官僚たちにも会えます。
恋のお相手に出会える。
可能性もありますしい」
彼女たちがお茶してる場所は、入り口を見下ろす二階の死角になる。
玄関から入ってくる人びとはよく見えるが、反対に彼女たちは見えにくい。
そこに初めて王宮に来たのがまる分かりで、キョロキョロとし口をポカーンとして歩く男女たちが目についた。
この人たちがマティルダと関係があるのを知らずに、騒ぎを起こしていた人物たちに注目していた。
「マイヤー伯爵様、お久しぶりです。
陛下のお供で、避暑地へ行かれていたと伺ってますわ」
マイヤー伯爵のみに挨拶する貴婦人たちは、近くにいたサンダース伯爵一家をチラッと流し目をする。
「ご夫婦たちは、夏のバカンスを楽しまれましたか?」
「ここよりは、涼しい場所に避難しました」
何度か会話を交わしたが貴婦人たちは、サンダース一家を居ないものと無視していた。
「すまないが、少しここで待っていてくれ」
伯爵一家の到着を知らせるために、マイヤー伯爵だけがこの場を離れていく。
王との橋渡しを期待した夫人たちは、それが空振りに終わりガッカリするとー。
その矛先を彼らに向けて、オモチャにして茶化し始めた。
「あらっ、どちらの方々かしら?
王宮では、あまりお見受けしない。
お顔ばかりですわね」
「これは、サンダース伯爵と申します。
お見知りおきをー」
「サンダース?
失礼ですが、存じない名前ですわ」
「侯爵夫人、確か…。
マティルダ嬢のご実家か、サンダースでした。
伯爵様でしたわよね」
「ああ、そうでした。
実家は田舎の伯爵ですと、マティルダ嬢はいつも謙遜してましたわ。
冗談だとばかり思って、私は笑ってましたが……。
嘘ではなかったのですね。
クスクス」
侯爵夫人は肩ぐらいの髪の毛の長さと、質素なドレス姿をジロジロ見てはバカにするように小さく笑う。
「初対面でそんな態度してくるなんて、私たちが貴女たちに何をしたというのです!」
「よしなさい!」
伯爵が妻を止めるが、気にしないで彼女らは話しかけてくる。
「初めて来たのでしょう?
ここには、ココのしきたりがあるのです。
似つかわしい服装で、王宮へ来て欲しくなかったものですから…。
気に障りましたら、一言ぐらいは謝りますわ」
「せめて、絹のドレスを着て頂きたかったわ。
本音がつい出てしまい、これは御免遊ばせ。ホホホ…」
絹の上質な色鮮やかな飾りが付けられ、生地をふんだんに使った膨らんだドレスを翻しながら去ってゆく。
言い返せなく、惨めな気持ちを味わったサンダース伯爵一家。
「お姉様は…。
こんな恐ろしい場所にいたなんて…」
「よさないか!
王宮をそんな風に言ってはいけない。
アリエール!」
「でも、お父様。
田舎者と私たちをバカにしてましたわ」
「私も同じ様に、そう感じましたわ。
私たちは貴族で、伯爵なのに…」
矜持をへし折られた二人は、この怒りを我慢して押さえていた。
このやり取りを見聞きして、耳にした名前に聞き覚えがあった。
『サンダース』
『アリエール?』
何処かで聞いた名前だと、隣国からの令嬢たちは考える。
「思い出しました。
マティルダ様のご家族です。
侯爵夫人と呼ばれた方が、マティルダと名前を呼ばれてましたわ」
「あの髪が短い方が、マティルダ様の妹君ですの?
少しも似たところがありませんわね?」
「年配の方は、母上様と父上様でしょうか?」
「三人は親子に見えますが、マティルダ様は…」
「似ていない親子は、いくらでもいます。
貴女方、これ以上は言ってはなりませんよ!」
平等の扱いで来てはいるが、身分が高いイブリンには逆らえなかった。
「「「はい、イブリン様」」」
こうは言っても、見れば見るほど他人に見える。
「娘に会いに、わざわざ領地からいらっしゃったようですね」
「あの人たちもお褒めの言葉を頂くのかしら、雨をお降らしになられた巫女様のご家族ですもの」
「そうに違いません。
近々、私たちの歓迎を兼ねたパーティーが催されると聞きました。
たぶん、その時にマティルダ様からご紹介をされます」
イブリンの予想は、残念だが当たることはなかった。
この後にサンダース伯爵一家は、これよりこころが打ちのめされる。
特に双子として育ち、両親から溺愛されたアリエールには耐えきれるだろうか。
マティルダがこの出来事を知っていたら、サンダース伯爵家が陛下の前で問題を起こさないことを祈っていたに違いない。
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