【完結】すべては、この夏の暑さのせいよ! だから、なにも覚えておりませんの

愚者 (フール)

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第7章

21 父の告白

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   王都に着いたサンダース伯爵の親子たちは、マイヤー伯爵の贔屓ひいきにしている宿に泊まることになった。
ここにしたのは、ここでのやり取りをらさない為でもあった。

「知り合いの宿に泊まって頂こう。
サンダース伯爵、ご令嬢に本当の事を話しておいた方が良い。
マティルダ嬢は、すでに何もかも知っておる」

「アイツが知っている?!
陛下に告げ口したのは、やはりマティルダか!」

「いい加減にしろ!
もとはと言えば、サンダース伯爵!
お前がしたことではないか。
それに今度は、令嬢と夫人が罪を犯したのが原因であろう!」

この家族は、何でもマティルダになすり付けていた。
そうして自分たちは悪くないと、思い込んで精神を保っている。

「お前たちに教えてやろう。
マティルダ嬢は、もうサンダースの家を必要とはしていない。
彼女は自身の力を認められていて、王族たちの信頼を勝ち得ている」

目の前に座る女性たちは、唇を噛み悔しそうにしている。
身内に近かった者の栄誉を、素直に喜んであげられないのか。
横にいる男は、表情は変わらない。
血の繋がりがないがない者は、興味すらないのか。

「……、アリエール聞くが良い。
お前とアレは双子の姉ではない。
マティルダとは、ここにいる母親が違うのだ」

いきなり告白するのを、赤の他人のマイヤーは巻き込まれたくないとすぐさま不機嫌になった。

「お父様?お姉様と私が?
双子でないって、そんな嘘でしょう?
出生届を出して、教会はお認めになったではありませんか」

サンダースは青白い顔で、娘を見て事実を教える。
偽りの伯爵夫人は、理解できない娘の隣で小刻みに震えていた。

「……、アリエール。
そこにいる母親は、セリメーヌ・サンダースではない。
彼女はマティルダを出産後に、少しして亡くなった」

ガタン、サンダース伯爵の前に座る夫人が腰を浮かせた。

「貴方!アリエールに言わないでとお願いしたでしょう!!」

興奮している母を見て、産んだ本人に直接尋ねた。

「お母様、お父様の話しは本当なの。
マティルダお姉様と血が繋がってない。
私たちとお姉様は、赤の他人だったの?!
お答えください!お母様!」

娘の問いかけに下を向き、ますます激しく震え怯える妻を見て言う。

「やめないか、アリエール!
マイヤー伯爵の前である。
セリメーヌと名乗っていた母は、平民の出身のカーラという名前だ。
陛下に呼ばれたのは、死者を偽り妻にしていためだろう」

娘は頭では理解できるが心が追い付いていなく、精神は混乱の極みにいた。

「お父様まで罪を犯したの?
サンダース伯爵は、どうなってしまうのですか?
元通りに伯爵令嬢として暮らせなくなるのですか?」

人を刺して殺しかけたのに、まだ地位に拘るのか呆れた娘だ。
腕を組んで正面にいる者を、眼光を光らせて睨みつけていた。

「ま、マティルダが助けてくれるわ。
あの子は雨乞いの巫女としてお役目を果たしたそうでしょう。
なら、陛下にお願いしてくれればー」

「馬鹿者めがー!!
サンダース伯爵とは、赤の他人と申したばかりではないか!
お前たちは都合よく彼女を使ってきたが、それは私を含めて陛下も存じているぞ!」

「「「 あーっ。…… 」」」

彼の一括で事の重大さにやっと気づいた三人が、声すら出せずに硬直している。

「最悪な考えをしておいたほうがよいぞ!
貴族の地位にいられるか、甘い考えはしない方がいい。
この先、生きていきたければな」

生きていれないかもしれない。
陛下の不況をかったら、断頭台のつゆと消え去る。

「いや、イヤです!
死にたくない、降ろしてー!」

アリエールが突然に半狂乱になり走る馬車の扉を開けようとしていた。

「なっ!何をするんだ!
愚か者ーー!!」

マイヤー伯爵はみぞおちを一発音を立てて拳を打ち込むと、アリエールは気絶をして前へ倒れかけようとした。

「お前たちの娘は、頭がおかしいのではないか?!
もしや、頭の病気ではないかと思うぞ?
そうでないなら、人として欠落している」

横にいた男も、度々起こる感情の起伏には手を焼いていた。

「生まれながらの欠陥?
思い返せば幼い頃からアリエールは、怒りると訳のわからないことをしていた。
だから、ハロルド君にもあんな酷いことができたのか?!」

「娘に酷い言いようです!
あの子を変人のように仰るなんて、気持ちを抑えなれないだけです。
素直な性格なだけですわ!」

今度は夫婦喧嘩をし始める。

「落ち着きなさい!
王宮でそんな態度をしたら、即刻に地下牢へぶち込む。
これは脅しではない。
行ったら分かるが、お前らの常識はまかり通らない。ハハハ」

マイヤー伯爵は、夫婦にたいして薄気味悪い笑みをした。
この意味をいやっと言うほどに、骨身に染みるのである。

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