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第7章
20 王妃の苦悩
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学園の休暇が終わるまで、メアリー王女とアドニス殿下に勉学を教える。
責任感強い彼女は、これからも学ぶのは楽しい事を持ち続けて欲しいと願っていた。
「ずっと王宮にいて、私の家庭教師になってくれない。
ここに住みながら、学園に通えばいいのよ。
そうして、マティルダ」
「メアリー王女は、もし私が遠くへ行ってしまったら寂しい?」
「当たり前よ!
王宮に住めないなら、寮から家庭教師に来てくれればいいわ。
お給金もマティルダの言い値をだすから、ねぇ!」
私がしている家庭教師の代わりを、隣国から来た令嬢たちがしてくれたら。
一緒に勉強することで、彼女たちもこの国を学べる。
妹の様に可愛いメアリーを眺めていて、妹と思っていた双子のアリエールを思い出す。
『サンダースの家族に会いたくないな。
会ったらあの人たちは、私に何を言ってくるのだろう。
想像するだけで、暗くなりそうだわ』
揺れる髪は肩までになり、軽くなった頭をかきむしりたくなる。
どんなにキレイに髪を洗っても、鳥の巣のように絡まってしまったモノは切るしかない。
「うっ…、うう~ぅ。
こんな髪になるなんて」
「アリエール…。
泣かないで、髪はまた元通りになるわ」
母は頭を撫でては、うつむき泣く娘を慰めていた。
「マティルダお姉様がこれを見たら、私を笑って馬鹿にする。
そんなの我慢できないわ。
お母様、堪えられない!」
会話を聞いていても、反省の言葉すらないとはどういう頭をしてるのか。
マイヤー伯爵は監視と警護もあり、我慢して馬車に同乗していた。
「着いたら覚悟をするんだな。
君たちは何をしてきたか。
この時間を使って反省するのだ!
サンダース伯爵は特に、胸に手を当てて考えるんだぞ」
「お父様が何をしたと言うのですか!
私と母は人を傷つけたりしたけど、お父様はなにもしていないわ」
「違うんだ、違うんだよ。
アリエール、私はー」
「旦那様!貴方、それは話さないで下さいませ!」
自分が平民で、貴族でないのを娘に知られたくない。
マティルダには本当の母親がいた。
その女にとって変わって、成り代わったのを娘に分かってしまったら。
私たちをどう思うのかー。
他国から来たご令嬢たちは、アドニス殿下とメアリー王女を人形のように可愛がっていた。
勉強や礼儀作法の時に飛び入り参加しては、こちらの国に慣れようと努力をしている。
「どうして私たちの後をついて回るのよ!」
「いいじゃないですか。
反対に我が国の事を勉強できますし、協力関係を築いていきましょう」
くるくる令嬢はハッキリ拒絶されても、どこまでもマイペースで前向きだった。
「サンダース伯爵令嬢、王妃様がお呼びでございます」
「はい!皆さま自習してください」
アドニスとメアリーは授業が終わってからでも別にいいのではないかと、不思議に思い首をかしげる。
「お母様が?何だろう?」
「もしかしたら、マティルダの家庭教師を延長してくれるんだわ。
きっとそうよ!」
メアリーは、前からずっと母の王妃に頼んでいた。
彼女の予想とは違って、マティルダの現在まだ親子関係にあるサンダース伯爵家の話になる。
王妃は彼女が傷つかないように話すには、どんな言い方が良いかと悩んでいた。
「変に気を回し過ぎたら、かえって良くないかしら?」
「王妃様、何を仰るかは分かりませんがサンダース伯爵令嬢は賢い方でございます。
ですから、王妃様の思う通りにお話しされたらと思います」
「女官長もそう思うのですね。
避けて通れない話だから、彼女には辛いでしょうね。
妾も逃げ出したくなります」
心の中に重くのし掛かるのを、払うことは叶わずにマティルダが部屋の前まで来てると知らせがくる。
「サンダース伯爵令嬢を部屋に入れなさい。
お前たちはしばらく隣の部屋で待機して、ベルがなるまでこちらに来てはなりません」
さっと音も立てずに、この場から去る女官長たちである。
「ああ、陛下はズルいです。
イヤな役目は、いつも妾にさせてて。
殿方は、いざとなると逃げるんだから…」
彼女は夫に恨み言を言っては、椅子に座り額に手を乗せて悩む態度をしていた。
「王妃様、マティルダ・サンダースがご用と聞き参りました」
視線を声のする方へ動かすと、美しいお辞儀をして顔を下にする伯爵令嬢が前にいた。
「よく参りました。
前の席へお座りなさい。
サンダース伯爵令嬢」
「はい、王妃様」
座って顔を王妃に向けると、目と目がかち合った。
「貴女をこう呼ぶのは、あと何回になるのかしらね。
話したいことがあります」
聞き終えると、マティルダは瞳を閉じて口を開いた。
「サンダース伯爵以外に、平民の女性と婚姻している方がいたんですね。
王妃様はこれを聞き、どうお思いになりましたか?」
「規則を破ることはいけませんが、人として好きな方と結ばれたい気持ちは理解できます。
陛下も、妾と同じ考えだと思いますよ」
「ですが、これを許せば貴族としての特権が変わる。
平民と婚姻することで、貴族の人数が増える可能性があります。
そうすれば、新たに貴族の家を作ることになるでしょう」
賢いだけでなく、統治者の深い考えすら見通している。
妾さえ言いづらい事を、この娘は躊躇なく突いてくる。
「マティルダ…、貴女の考えは正しいわ。
許して、サンダース伯爵に罰を与えなくてはならない。
王として、貴族を束ねるのに必要な処置なのです」
苦痛を秘めた思いは、彼女の前では隠せなかった。
マティルダは、この時に悟った。
サンダース伯爵家は、最悪はお取り潰しになるとー。
出来ることなら降格ですんで欲しいと願っていた。
責任感強い彼女は、これからも学ぶのは楽しい事を持ち続けて欲しいと願っていた。
「ずっと王宮にいて、私の家庭教師になってくれない。
ここに住みながら、学園に通えばいいのよ。
そうして、マティルダ」
「メアリー王女は、もし私が遠くへ行ってしまったら寂しい?」
「当たり前よ!
王宮に住めないなら、寮から家庭教師に来てくれればいいわ。
お給金もマティルダの言い値をだすから、ねぇ!」
私がしている家庭教師の代わりを、隣国から来た令嬢たちがしてくれたら。
一緒に勉強することで、彼女たちもこの国を学べる。
妹の様に可愛いメアリーを眺めていて、妹と思っていた双子のアリエールを思い出す。
『サンダースの家族に会いたくないな。
会ったらあの人たちは、私に何を言ってくるのだろう。
想像するだけで、暗くなりそうだわ』
揺れる髪は肩までになり、軽くなった頭をかきむしりたくなる。
どんなにキレイに髪を洗っても、鳥の巣のように絡まってしまったモノは切るしかない。
「うっ…、うう~ぅ。
こんな髪になるなんて」
「アリエール…。
泣かないで、髪はまた元通りになるわ」
母は頭を撫でては、うつむき泣く娘を慰めていた。
「マティルダお姉様がこれを見たら、私を笑って馬鹿にする。
そんなの我慢できないわ。
お母様、堪えられない!」
会話を聞いていても、反省の言葉すらないとはどういう頭をしてるのか。
マイヤー伯爵は監視と警護もあり、我慢して馬車に同乗していた。
「着いたら覚悟をするんだな。
君たちは何をしてきたか。
この時間を使って反省するのだ!
サンダース伯爵は特に、胸に手を当てて考えるんだぞ」
「お父様が何をしたと言うのですか!
私と母は人を傷つけたりしたけど、お父様はなにもしていないわ」
「違うんだ、違うんだよ。
アリエール、私はー」
「旦那様!貴方、それは話さないで下さいませ!」
自分が平民で、貴族でないのを娘に知られたくない。
マティルダには本当の母親がいた。
その女にとって変わって、成り代わったのを娘に分かってしまったら。
私たちをどう思うのかー。
他国から来たご令嬢たちは、アドニス殿下とメアリー王女を人形のように可愛がっていた。
勉強や礼儀作法の時に飛び入り参加しては、こちらの国に慣れようと努力をしている。
「どうして私たちの後をついて回るのよ!」
「いいじゃないですか。
反対に我が国の事を勉強できますし、協力関係を築いていきましょう」
くるくる令嬢はハッキリ拒絶されても、どこまでもマイペースで前向きだった。
「サンダース伯爵令嬢、王妃様がお呼びでございます」
「はい!皆さま自習してください」
アドニスとメアリーは授業が終わってからでも別にいいのではないかと、不思議に思い首をかしげる。
「お母様が?何だろう?」
「もしかしたら、マティルダの家庭教師を延長してくれるんだわ。
きっとそうよ!」
メアリーは、前からずっと母の王妃に頼んでいた。
彼女の予想とは違って、マティルダの現在まだ親子関係にあるサンダース伯爵家の話になる。
王妃は彼女が傷つかないように話すには、どんな言い方が良いかと悩んでいた。
「変に気を回し過ぎたら、かえって良くないかしら?」
「王妃様、何を仰るかは分かりませんがサンダース伯爵令嬢は賢い方でございます。
ですから、王妃様の思う通りにお話しされたらと思います」
「女官長もそう思うのですね。
避けて通れない話だから、彼女には辛いでしょうね。
妾も逃げ出したくなります」
心の中に重くのし掛かるのを、払うことは叶わずにマティルダが部屋の前まで来てると知らせがくる。
「サンダース伯爵令嬢を部屋に入れなさい。
お前たちはしばらく隣の部屋で待機して、ベルがなるまでこちらに来てはなりません」
さっと音も立てずに、この場から去る女官長たちである。
「ああ、陛下はズルいです。
イヤな役目は、いつも妾にさせてて。
殿方は、いざとなると逃げるんだから…」
彼女は夫に恨み言を言っては、椅子に座り額に手を乗せて悩む態度をしていた。
「王妃様、マティルダ・サンダースがご用と聞き参りました」
視線を声のする方へ動かすと、美しいお辞儀をして顔を下にする伯爵令嬢が前にいた。
「よく参りました。
前の席へお座りなさい。
サンダース伯爵令嬢」
「はい、王妃様」
座って顔を王妃に向けると、目と目がかち合った。
「貴女をこう呼ぶのは、あと何回になるのかしらね。
話したいことがあります」
聞き終えると、マティルダは瞳を閉じて口を開いた。
「サンダース伯爵以外に、平民の女性と婚姻している方がいたんですね。
王妃様はこれを聞き、どうお思いになりましたか?」
「規則を破ることはいけませんが、人として好きな方と結ばれたい気持ちは理解できます。
陛下も、妾と同じ考えだと思いますよ」
「ですが、これを許せば貴族としての特権が変わる。
平民と婚姻することで、貴族の人数が増える可能性があります。
そうすれば、新たに貴族の家を作ることになるでしょう」
賢いだけでなく、統治者の深い考えすら見通している。
妾さえ言いづらい事を、この娘は躊躇なく突いてくる。
「マティルダ…、貴女の考えは正しいわ。
許して、サンダース伯爵に罰を与えなくてはならない。
王として、貴族を束ねるのに必要な処置なのです」
苦痛を秘めた思いは、彼女の前では隠せなかった。
マティルダは、この時に悟った。
サンダース伯爵家は、最悪はお取り潰しになるとー。
出来ることなら降格ですんで欲しいと願っていた。
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