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第7章

18 王の召集令

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    王宮に到着する前に、王は宰相と馬車の中で職務をしていた。
休んだ分だけ、仕事が溜まっていたからだ。
執務中には、宰相が密かに探っていた報告を前へ座る主君へする。
それはサンダース伯爵が、平民を貴族と偽ってまで婚姻した行為だ。
他にいないかを部下に頼んで調査していた。

「なんだと、3人もおったのか」

「はい、陛下。
貧乏貴族に金を渡して養女にして、貴族の令嬢として嫁がせてます。
親が止めないで、息子可愛さに愚かな事をしてしまったようです」

「貴族籍は持っての婚姻か。
名が知れてない貴族なら、バレないと思ったのだろう」

報告書の紙を見て、王も自然とため息をつきたくなる。

「このままでは、婚姻ができない者も出るかもしれません。
実際調べましたら、女性が多い年は修道院へ入る人数が多かったりしてます」

「貴族同士の婚姻しか認めるに、限界があると宰相は申しているのだな」

はいっと、アンゲロス公爵が静かに答える。
少数だけに与えられた貴族の特権を維持するには、平民まで簡単に広げられなかった。

「今すぐは無理です。
生存して裏が取れているだけですから、過去を遡ったらもっといたでしょう」

「多方面の知識人たちと議論して、慎重に決めたほうがいい。
だがサンダース伯爵の件は、彼女ために早急に対処する」

王はサンダース伯爵を、マティルダに内緒で王宮へ呼び出しをしていた。

「彼は悪質です。
死者を生かしてまで、己を優先して罪を犯した。
こういうことを許してはならない」

避暑地からマティルダたちが王宮へ向けて旅立つ時。
書類上のみの父サンダース伯爵は隣の領地へまだ留まっていた。
現在、彼は宿で王からの書簡を読んでいる。

「王に、陛下に……。
カーラの事が……、バレた!
なぜ、どうして!
マティルダ!あの娘かー!!」

王からの書簡なのに、怒りで握りしめてクシャクシャにしてしまった。

「二人をここに置いて、一人で王都に行かなくてはならない。
私が居なくなって、二人は無事なんだろうか」

牢屋の番人たちから卑猥な言葉を言われたと、娘アリエールから泣きながら訴えてきた。

「どうしたらよいのだ。
二人には、私しか頼る者が居ないのにー。
陛下の命令を断れない……」

頭をかきむしっては、混乱した頭の中で考えていた。
良い案が浮かばないで、無駄な時間ばかりが過ぎてゆく。

「ダメでも、陛下にお願いしよう。
このままでは、八方塞がりだ」

図太い性格なのか、それとも自己中心なのか。
彼は書簡を届けに来た者に、妻と娘が一緒でなければ行かないととうとう言い出した。

この厚顔無恥な願いは馬車で移動していた王に、早馬で知らせを受ける。

「ハハハ、呆れるな。
あれだけのことを平然とするだけある。
サンダースの願いを叶えてやろうではないか」

「陛下、宜しいのですか?
犯罪を犯した者たちを、王宮の中へ招き入れるおつもりか」

ニヤリと笑って王は、アンゲロス公爵にー。

「余は暇ではない。
一人の田舎伯爵に、いつまでも構ってはいられない。
余は、全国民に目を向けなくてはならん。
アンゲロス、暇ではないのだ」

「御意、陛下!
一気に事を終わらせます!」

サンダース伯爵一家は、王宮にて集うことになる。
その中心になるマティルダは、こんな話がしていたのを知らずにいた。

別の馬車で父娘の名乗りをした二人は、離れていた長き時間を埋めるように会話をしている。

「ブライオン王弟殿下は、外国を訪れたことはありますか?
私は今回が初めてでした」

「……、戦争で行ったな。
すまん、血なまぐさい話になってしまった」

「す、すみません。
私ったら、よく考えないで話してしまいました」

「マティルダ、謝らなくてもよい。
こうして二人きりで、父娘で話ができるだけで嬉しいのだ。
敬称で呼ばずに、いつかお父様と呼んでくれ」

ブライオンは一生一人で暮らして、老いて神が天へ呼び寄せるのを待つだけだと思っていた。
それが愛したセリメーヌの娘が、こうして目の前に現れたのだ。

「生きる喜びを与えられたのだ。
セリメーヌはこの世にいないが、そなたは彼女が私に与えた宝で喜びなのだからな」

「お、お父様……。
ま、まだお父様の娘だという自覚ありません。
だ、だってお父様はかっ。
格好よくて、素敵なんですもの!
あーっ、言ってしまったわ!」

親に言う言葉でなく、男性に告白している気分になる。
真っ赤っかで顔を隠すマティルダに、ブライオンは初めて訪れたと呼ばれて放心していた。

「マティルダ!我が娘!
嬉しくて、どうしたらよいか分からないよ。
絶対に正式に娘にするからね」

外の外気温よりも、この中は熱かった。
この後に急降下するぐらいの知らせを、アンゲロス公爵から聞かされるのである。

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