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第7章

11 女の執念

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   紳士淑女の最たる集まり、王宮で行われる王主催で大々的に行われる。
隣国から嫁がれた王妃様のご家族もご出席される中で、今回は遊び心で仮面を着けての夜会。

「仮面舞踏会なんて、何年ぶりでしょう。
あの不幸が始まり終わってから、もう三年になりますのね」

「大きな声では話せませんが、二度と大がかりな催しはないと思ってましたわ」

「小さなものはありましたが、エリザベス王妃様とあの方との事がありますから」

「本日は何が起きるか…、私は期待してますのよ。
部外者にとっては、楽しい余興になるでしょう。
ふ、ふふっ……」

輪になって夫人たちは、噂話しに花を咲かしていた。
見かけは美しかったが、中身は枯れて腐った花であろう。

美しさとは真逆の醜い世界。
それが貴族の世界。
この社交の中心になるのが、この国を納める国王一家であった。

「エリザベス、侯爵令嬢はまだ黒に近いドレスを着てくるはずだ。
1番最初に挨拶をできるように、頼んで先頭に配置してある」

「陛下…。
今日、駄目なら一生叶わないような気がします。
私は彼女が、王妃に相応しいと思っておりますのよ。
憧れに似た、感情かしら」

「ならっ、余もだ!
亡き兄上は、私の理想の方であった。
二人が並ぶ姿は、美しくて気高く。
その方々を弟として、支えるのが役目だと信じていた」

扉の向こうでは、両陛下と隣国の王族たちを迎える雰囲気で広間は空気が張り詰めていた。

大きな扉が数人係で開けられると、順々に歩いて仮面をしながらでも上位貴族の挨拶を受ける習わし。

『前に遮った令嬢たちは、反対の側に配置したと聞いたわ。
それならそんなに警戒しなくても、普通は平気なんじゃないかしら?』

彼女の考えは、ぜんぜん甘々だった。
これからイヤって程に、現実を見せられる。

ファンファーレとともに、両陛下並びに隣国の王族たちが続く。
マティルダはアンゲロス公爵親子の後ろを歩く名誉を与えられた。
今回の功労者でもあるが、伯爵令嬢の身分から自らお願いしたのである。

興味津々の貴族たちの好奇の視線が、ひとつの場所に集まる中で事件が起きた。
それは王妃があの侯爵令嬢の前に立ち、目を合わせようとした瞬間である。

「あーーっ!目眩が~!!」

反対方向からか弱き女性の声が聞こえたら、クリーム色にピンクの小花をあしらったドレスが近寄ってくる。
フラフラと崩れ落ちそうにしては、くるくると踊るように物体は向かってきた。

「まぁー!大変でございます!
お助けしなくてはー、夜会で倒れてしまってはなりません!」

「皆様~!!
とんだ失礼をしておりますが、ここはお許し遊ばして~!」

 今度は、この具合が悪い友人たちなのか。
助けるために彼女を追って、二人のご令嬢たちが謝りながら側に来る。
   
「な、なにあれはー!」

「あのままだと、姉上たちに狙いを定めているみたいだ!」

「あ、あれがー!!
噂の令嬢たちなのね!」

メアリー、アドニス、マティルダ。
三人は、同時に声を出していた。

全てを捨てての自爆行為に、ある意味尊敬してしまう。
令嬢たちの執念に、マティルダたちは恐れおののく。

「私が、くるくると回る令嬢を止めます。
お二人はもう二人の方をお願いします!」

「「わかった!マティルダ」」

マティルダは腹に力を入れて、くるくる令嬢に向かうために大声で叫ぶ。

「国同士の友好の証として!
御気分の優れない方を、お助けしなくてはなりませんわ~!」

青みかがった髪を靡かせて、隣国からの参列の後方から姿を現した。

「ガシッ!」、令嬢の腰と右手首を掴まえて微笑む。

「大丈夫でございますか?
さぁ、お医者様に診て貰いましょう!
誰か!ご令嬢を運びなさい!」

女性としては高身長の彼女が騎士のように軽く支え抱き抱えると、参列者の夫人からは変なため息が漏れ聞こえた。 

「え!あの~、貴女は……」

そう言いながら、仲間の様子を気にしている。
マティルダも他の2名が気になって、目をキョロキョロさせた。

「えっ!メアリー王女!!」

隣国の末娘が手をついて倒れていて、助けようとアンゲロス公爵令息ロバートが手を貸していた。

アドニス殿下は、必死にドレスの裾を握り行かせないようにする。

『メアリー王女を振り払った令嬢はー』

エリザベス王妃と侯爵令嬢の間に、三人の仲間の一人が行き着いていた。

「貴女だけ、逃げるのは許さなくてよ!
貴女も、私たちと同じでしょう?
ねぇ~、イブリン様…」

そう言った表情と声は、怨念を感じてさせるのに十分な鬼気迫るものがある。
妻の隣にいた国王すら、声が出せない迫力であった。

会場全体が凍りつくかのように、マティルダは寒気を感じていた。
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