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第7章
7 押し付けよう
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裏方は表面上は平穏を保っていたが、内面は一人一人ピリピリと神経を尖らせている。
「銀の食器は、全て料理場のテーブルに用意して!
その際には汚れがないかを再度確認するのを忘れないでね!」
メイドはこの殺伐とした中で、誰にマティルダの現状をどう話せばいいのか。
「貴女、何を突っ立っているのです!」
「はい!女官様、急ぎお話があります!!」
「……?」、自分より切羽詰まる様子に不気味さを漂わせていた。
誰もいない小部屋でメイドの話を聞くと、クラっと足元を崩れ落ちそうになる。
「貴女の話は、本当なの?
ドレスのご用意がないなんて…。
これを誰も気づいてないのかしら?」
「サンダース伯爵令嬢は、仮病で欠席を考えております。
私に向かって、具合が悪そうに芝居をしてきました」
「欠席なんて、出来るわけないでしょう!
貴女に怒っているのではないのよ。
ああ~、只でさえ忙しいのにどうしたら良いのかしら?」
「女官様~、しらばっくれますか?」
「バカを言わないで!
女官長さまにお伝えします。
この事を誰にも言ってはなりません。いいですね!!」
両肩を掴まれた場所は痛みを感じて、話して聞かせる顔つきは目が血走ってみえた。
その鬼気迫る顔に、メイドは恐怖で返事をするのがやっとである。
この問題は、メイドから女官に受け継がれていく。
貧乏くじを引かされた女官は、仕事を指示しながら女官長を探している。
女官に上り詰めた彼女は、なかなか有能で時間を無駄にしなかった。
「それは女官長に、指示を仰がなくてはならないわ。
誰か、女官長様はご存知ないかしら?」
「はい、会場に侍従長様と一緒に打ち合わせしております」
「そう、すぐに参ります。
お礼を言います。
心から助かりましたわ」
変わったお礼の言葉に引っ掛かるが、イチイチそんなことを思っていられない。
同僚から彼女は、また指示出しに頭を切り替えていた。
本番を前に凄まじい殺気が渦を巻いているのを見て、条件反射で背筋が凍りそうだった。
「ゴックン…。に、女官長様。
今すぐに、お知らせしたいお話がございます!」
「こんな忙しい時に、誰です!!」
隣にいる侍従長は咳き込んでは、女官の豹変を紛らわすようにしてあげる。
「あの出来ましたら、侍従長様にも聞いて頂きたいのです」
降って湧いた災厄を、このときは知らずにいた女官長と侍従長。
顔を見合わせてから、顔色が悪く見える女官の話を別室で聞くことになる。
「嘘ではないだろうな。
夜会を辞退すると、令嬢は言っていたのか?」
「独り言を聞いてしまっただけです。
直接に聞いたのではなく、たまたま耳にしたのでございます」
本人ではないので、変に巻き込まれたくないので言い訳をする。
「侍従長、これは大変ですわ。貴族の方々は、雨を降らせてくれた恩人に会いたいと思われております」
「そんな方がドレス無しで、出席しないとは知られてたら不味い。
両陛下にご連絡する。
それより女官長、ドレスを用意できるか!?」
「はい、体型に合いそうなドレスを見繕います。
夜会の準備でさえ急でしたのに、こんなことになるなんてー」
狼狽えたことを始めてみた女官は、改めて事の重大性に目眩しそうになる。
「私たちに任せなさい。
貴女はこの話を一切忘れて、今出来ることをして頂戴!」
「はい、女官長様!」
自分との度量の違いに、実力の差をまざまざとかんじてしまう。
女官長の負担を少しでも減らすために、現場に引き返していった。
「とにかく!ドレスを用意しなくちゃ!」
「必ず、夜会に出席させなくてはならない!」
「侍従長、私は王妃様にドレスをお借りしますわ!
着ていないドレスは、沢山ございますもの。
それでは、お先に失礼致します」
「ああ、女官長頼みましたよ。
私は王さまに御相談しに行きます。
隣国の国王からの説得なら断らまい」
女官長と侍従長は、互いの目的を果たすように口にしていた。
無事に夜会が終わるのだろうか。
その前に何事もなく開かれるのか。
始まる前から難問が起きて、現場の責任者たちに障害の大きな壁となって立ちはだかっていた。
「銀の食器は、全て料理場のテーブルに用意して!
その際には汚れがないかを再度確認するのを忘れないでね!」
メイドはこの殺伐とした中で、誰にマティルダの現状をどう話せばいいのか。
「貴女、何を突っ立っているのです!」
「はい!女官様、急ぎお話があります!!」
「……?」、自分より切羽詰まる様子に不気味さを漂わせていた。
誰もいない小部屋でメイドの話を聞くと、クラっと足元を崩れ落ちそうになる。
「貴女の話は、本当なの?
ドレスのご用意がないなんて…。
これを誰も気づいてないのかしら?」
「サンダース伯爵令嬢は、仮病で欠席を考えております。
私に向かって、具合が悪そうに芝居をしてきました」
「欠席なんて、出来るわけないでしょう!
貴女に怒っているのではないのよ。
ああ~、只でさえ忙しいのにどうしたら良いのかしら?」
「女官様~、しらばっくれますか?」
「バカを言わないで!
女官長さまにお伝えします。
この事を誰にも言ってはなりません。いいですね!!」
両肩を掴まれた場所は痛みを感じて、話して聞かせる顔つきは目が血走ってみえた。
その鬼気迫る顔に、メイドは恐怖で返事をするのがやっとである。
この問題は、メイドから女官に受け継がれていく。
貧乏くじを引かされた女官は、仕事を指示しながら女官長を探している。
女官に上り詰めた彼女は、なかなか有能で時間を無駄にしなかった。
「それは女官長に、指示を仰がなくてはならないわ。
誰か、女官長様はご存知ないかしら?」
「はい、会場に侍従長様と一緒に打ち合わせしております」
「そう、すぐに参ります。
お礼を言います。
心から助かりましたわ」
変わったお礼の言葉に引っ掛かるが、イチイチそんなことを思っていられない。
同僚から彼女は、また指示出しに頭を切り替えていた。
本番を前に凄まじい殺気が渦を巻いているのを見て、条件反射で背筋が凍りそうだった。
「ゴックン…。に、女官長様。
今すぐに、お知らせしたいお話がございます!」
「こんな忙しい時に、誰です!!」
隣にいる侍従長は咳き込んでは、女官の豹変を紛らわすようにしてあげる。
「あの出来ましたら、侍従長様にも聞いて頂きたいのです」
降って湧いた災厄を、このときは知らずにいた女官長と侍従長。
顔を見合わせてから、顔色が悪く見える女官の話を別室で聞くことになる。
「嘘ではないだろうな。
夜会を辞退すると、令嬢は言っていたのか?」
「独り言を聞いてしまっただけです。
直接に聞いたのではなく、たまたま耳にしたのでございます」
本人ではないので、変に巻き込まれたくないので言い訳をする。
「侍従長、これは大変ですわ。貴族の方々は、雨を降らせてくれた恩人に会いたいと思われております」
「そんな方がドレス無しで、出席しないとは知られてたら不味い。
両陛下にご連絡する。
それより女官長、ドレスを用意できるか!?」
「はい、体型に合いそうなドレスを見繕います。
夜会の準備でさえ急でしたのに、こんなことになるなんてー」
狼狽えたことを始めてみた女官は、改めて事の重大性に目眩しそうになる。
「私たちに任せなさい。
貴女はこの話を一切忘れて、今出来ることをして頂戴!」
「はい、女官長様!」
自分との度量の違いに、実力の差をまざまざとかんじてしまう。
女官長の負担を少しでも減らすために、現場に引き返していった。
「とにかく!ドレスを用意しなくちゃ!」
「必ず、夜会に出席させなくてはならない!」
「侍従長、私は王妃様にドレスをお借りしますわ!
着ていないドレスは、沢山ございますもの。
それでは、お先に失礼致します」
「ああ、女官長頼みましたよ。
私は王さまに御相談しに行きます。
隣国の国王からの説得なら断らまい」
女官長と侍従長は、互いの目的を果たすように口にしていた。
無事に夜会が終わるのだろうか。
その前に何事もなく開かれるのか。
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