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第7章
3 高鳴りは一目惚れ
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キレイに着飾っていたのに、ビチョビチョにずぶ濡れになっていた。
コートを脱ぐと、自分でもビックリするぐらいみすぼらしい。
やっと二人は、神殿の建物の中へ辿り着けた。
「はぁはぁ……、疲れ…た」
「サンダース伯爵令嬢。
大丈夫でございますか?」
大丈夫じゃないと言いたいが、もう心臓がバクバクして声すら出ない。
突然天候が変わるなんて一言で言えない、恐怖をするほどの急転だった。
「雨乞いの巫女様!
我が国に雨を降らせて下さり、心から礼を申します」
張り付いた前髪の間に、滴り落ちる見えにくいが人の声に反応する。
「クシュン、クシュ……」
人前で恥ずかしいと、急いで両手で鼻と口を塞ぐ。
「ずぶ濡れではないか。
誰か、巫女様のお世話をしなさい」
女性が数人現れて、私を世話してくれるようだ。
その前に彼に、キチンともう一度お礼を言わないと。
「あの、本当に助かりました。
何がなんだか分からなくて、心細かったのです」
「いえ、驚きましたよね。
今はお疲れでしょうから、着替えてからまたお会いしましょう」
濡れた黒髪と黒い瞳がキラッと光って……。
ス・テ・キ!!
胸がドキドキして、これが一目惚れなのね。
エドワード王子の気持ちが、自分でも理解できた瞬間。
『恋って、これなのね。
それも、他国の人なんて。
障壁を感じて燃えてしまう』
小説に出てくる主人公になっている気分で、自分がこんな風になるとは考えていなかったので戸惑う。
たくさんの豪華な綾里を前に、左右にはお偉いさんに挟まれてマティルダは緊張してしまっていた。
「信じてましたぞ、雨乞いの巫女様!
雨が降ると思ったら、まさか雹がふってくるのは思わなかった」
「氷から雨に変わって降り続いている。
どちらにしても乾いた土に潤いを与えています」
「巫女様、さぁさぁ。
どうぞ、お食べになってください」
影口言っていた神官たちも180度変わって、マティルダに称賛をしている。
『人ってこんなに変われるの。
自国でもそうだったから、馴れているけど気分が悪いわ』
多勢に無勢なので、微笑んで料理を一口入れて食べてみる。
「巫女様がお食べになられたから、私たちも頂こう!」
「「神のお恵みに感謝をー」」
マティルダもその言葉に反応して、遅蒔きながら続いて神に感謝を述べた。
「被害とかないんですか。
空から冷たい小石が降ってきて、体に当たって痛かったです」
実際にマティルダの体には当たった場所が痣になりかかっていた。
「雨乞いの儀式を行う時間帯は、国民に外にでないように知らせてあります。
隣国より雨乞いの時に、何が起きたのか詳細に報告を頂きましたから」
「雷だけでなく、雹が降ってくるとは思いませんでしたよ」
「雹?あの冷たい氷の小石?」
マティルダは雹の存在を知らなかった。
自国はこの国より南に位置していて、雪もあまり降らない温暖な土地であったからだ。
「はい、我が国でも滅多に降りません。
巫女様の願いが強すぎたのでしょう。ハハハ」
「ホホホ、そうかも知れませんね。
神様に祈りが通じて、私も安堵しましたわ」
見渡すと私以外は男性ばかりで、先ほどの女性たちの姿がない。
「世話をしてくれた女性の方が見えないようですが……。
皆様、どちらにいらっしゃるのかしら?」
彼女は、神官の規則や普段の生活を知らなかった。
なにせ俗世界で神に仕える人々とは、一般人と考えが全然違っている。
「巫女様は、雨を降らせてくれた功労者であられる。
特別にこうして男性と一緒にいられるが、ここでは男女の恋愛は禁止されているんです」
「ええ!お付き合いや婚姻はできないんですか!?」
「ある程度周りに認められたら、付き合いや婚姻はできる。
だが、物欲や性欲から切り離して神に寄り添う。だから、生涯独り者は多いですよ」
大神官様の話を聞き、マティルダは興ざめしてしまう。
さっきまでの気持ちは静まり、一目惚れは一瞬で消え去ってしまった。
無事に大役は終わらせたが、彼女は少し気持ちがへこんだまま王宮へ戻って行くのである。
コートを脱ぐと、自分でもビックリするぐらいみすぼらしい。
やっと二人は、神殿の建物の中へ辿り着けた。
「はぁはぁ……、疲れ…た」
「サンダース伯爵令嬢。
大丈夫でございますか?」
大丈夫じゃないと言いたいが、もう心臓がバクバクして声すら出ない。
突然天候が変わるなんて一言で言えない、恐怖をするほどの急転だった。
「雨乞いの巫女様!
我が国に雨を降らせて下さり、心から礼を申します」
張り付いた前髪の間に、滴り落ちる見えにくいが人の声に反応する。
「クシュン、クシュ……」
人前で恥ずかしいと、急いで両手で鼻と口を塞ぐ。
「ずぶ濡れではないか。
誰か、巫女様のお世話をしなさい」
女性が数人現れて、私を世話してくれるようだ。
その前に彼に、キチンともう一度お礼を言わないと。
「あの、本当に助かりました。
何がなんだか分からなくて、心細かったのです」
「いえ、驚きましたよね。
今はお疲れでしょうから、着替えてからまたお会いしましょう」
濡れた黒髪と黒い瞳がキラッと光って……。
ス・テ・キ!!
胸がドキドキして、これが一目惚れなのね。
エドワード王子の気持ちが、自分でも理解できた瞬間。
『恋って、これなのね。
それも、他国の人なんて。
障壁を感じて燃えてしまう』
小説に出てくる主人公になっている気分で、自分がこんな風になるとは考えていなかったので戸惑う。
たくさんの豪華な綾里を前に、左右にはお偉いさんに挟まれてマティルダは緊張してしまっていた。
「信じてましたぞ、雨乞いの巫女様!
雨が降ると思ったら、まさか雹がふってくるのは思わなかった」
「氷から雨に変わって降り続いている。
どちらにしても乾いた土に潤いを与えています」
「巫女様、さぁさぁ。
どうぞ、お食べになってください」
影口言っていた神官たちも180度変わって、マティルダに称賛をしている。
『人ってこんなに変われるの。
自国でもそうだったから、馴れているけど気分が悪いわ』
多勢に無勢なので、微笑んで料理を一口入れて食べてみる。
「巫女様がお食べになられたから、私たちも頂こう!」
「「神のお恵みに感謝をー」」
マティルダもその言葉に反応して、遅蒔きながら続いて神に感謝を述べた。
「被害とかないんですか。
空から冷たい小石が降ってきて、体に当たって痛かったです」
実際にマティルダの体には当たった場所が痣になりかかっていた。
「雨乞いの儀式を行う時間帯は、国民に外にでないように知らせてあります。
隣国より雨乞いの時に、何が起きたのか詳細に報告を頂きましたから」
「雷だけでなく、雹が降ってくるとは思いませんでしたよ」
「雹?あの冷たい氷の小石?」
マティルダは雹の存在を知らなかった。
自国はこの国より南に位置していて、雪もあまり降らない温暖な土地であったからだ。
「はい、我が国でも滅多に降りません。
巫女様の願いが強すぎたのでしょう。ハハハ」
「ホホホ、そうかも知れませんね。
神様に祈りが通じて、私も安堵しましたわ」
見渡すと私以外は男性ばかりで、先ほどの女性たちの姿がない。
「世話をしてくれた女性の方が見えないようですが……。
皆様、どちらにいらっしゃるのかしら?」
彼女は、神官の規則や普段の生活を知らなかった。
なにせ俗世界で神に仕える人々とは、一般人と考えが全然違っている。
「巫女様は、雨を降らせてくれた功労者であられる。
特別にこうして男性と一緒にいられるが、ここでは男女の恋愛は禁止されているんです」
「ええ!お付き合いや婚姻はできないんですか!?」
「ある程度周りに認められたら、付き合いや婚姻はできる。
だが、物欲や性欲から切り離して神に寄り添う。だから、生涯独り者は多いですよ」
大神官様の話を聞き、マティルダは興ざめしてしまう。
さっきまでの気持ちは静まり、一目惚れは一瞬で消え去ってしまった。
無事に大役は終わらせたが、彼女は少し気持ちがへこんだまま王宮へ戻って行くのである。
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