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第6章
30 恋の指南
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数分の打ち合わせで決まったみたいで、余りの早さでエドワードはシラけていた。
『どうせ、適当に考えたのだろう。
あとは、自分で考えてくれが関の山だ』
ソファーに座って、前に立つ男女を不機嫌そうに見た。
「エドワード、良く見て参考にするようにな」
「殿下!
私はこんな恥ずかしいことは…、結構いろんな経験がありますがー。
今までとは、毛色が違います!
一度しかしませんから、目を大きくして頭に焼き付けて下さいよ!」
前置きがやけに長い、早くやってよと言ってしまった。
そこから、また二人の怒りをかって愚痴が止まらず長引く。
ロバートのマティルダの側に近づくと、目を大きくして彼女に見とれている。
「そこのご令嬢、私と踊っては頂きませんか?」
「あら!この私ですか?
申し訳なくございませんが、お誘いはお断りしますわ」
「私は隣国から参りました。
この国には、知り合いの女性がいなくてね。
貴女を一目で見て、貴女と踊りたいとこの心臓が教えてくれるのです」
「えっ?!心臓?」
エドワードは、この奇妙な誘い方に待ったをかけた。
「ロバート!
心臓って気味悪くないか?
私なら、変な人だと逃げるぞ」
「黙って、最後まで聞くんだ!
変だから人は気になり、話を聞いてくれる」
「えーっと、心臓が高鳴って苦しい。
この理由は、君と踊ったら分かると思います。
私を憐れと思って、手を取って1度でも良いので踊ってくれませんか?」
「まぁ、踊るなんてダメです!
お医者さんに、すぐにでも診てもらったら如何でしょうか?」
「待て!サンダース伯爵令嬢。
その返しは意地悪くないか?
あの美しい方が、そんな冷たい事を言わない筈だ!」
「美しくなくて、悪いですね!
印象に残るには、これぐらいがいいのです。
とっても頭にくるわ!
私に向かって、容姿のことは言わないで下さいませ!」
ダメ出しをする王子に、マティルダも切れかかる。
「君に、診察して欲しいぐらいだ。
冗談だけど、踊りたいのは本気です。
この場で1番美しい方。
どうか、私と踊って下さい」
「し、仕方ありませんわね。
人の目もありますし……。
お受けしますわ」
二人はワルツを軽く踊り、頭を一緒に下げてから自ら拍手をする。
「それで、いけるのか!?」
疑問を直接的に尋ねるが、本人たちはこれが無難だと答えてしまう。
「殿下が誘わなくては、先に進めません。
ご令嬢からは、男性にお声掛けできませんもの」
「勇気をだして頑張れ!
エドワード、どうせダメでも数日後には帰国するんだ。
自国じゃなくて良かったな」
結局は自分の気持ち次第なのだと、彼は右手を握りしめて心臓を軽く何度も叩いていた。
「殿下、姉上の王妃様と二人きりでお話ししたいのです。
お力をお貸しして下さい」
叩きながら遠い目をしていたら、いきなりの要求に疑問を感じた。
「ん?姉と話をしたいなら、わざわざ二人きりにならなくてもいいんじゃないか?」
「そこをお願いします!
ちょっとだけで良いのです。
身内なら私よりも、簡単にお話できますでしょう?」
ロバートも怪しさを感じ始めるが、不覚にも聞いてはいけないように思う。
自身の興味なしには、徹底的に無関心を決めていた。
「うん、明日会ったら話してみる。
しかし、下らないものを見せられたらー。
なんか、眠くなってきたな」
下らないと言われて二人は、エドワードにお小言を言ってからお開きにする。
男性たちを部屋から叩き出すと、やっとエドワード王子の恋の相談事から解放された。
安心していたらドンドンと激しく叩くのに飛び跳ねて、寝間着姿をしたアドニスが現れた。
「マティルダ、エドお兄様は何しに部屋に来たんだ!」
怒っていても可愛く見えてしまう。
「ハイハイ、深呼吸でもしてくださいね」
テキパキと説明すると吊り上げた瞳が下がって、ついには止まらない爆笑になっていた。
「ヒーッ、く。苦しいー!
あの兄上が一目惚れでダンスの誘い方を聞くなんて!
女性3人もいても、それって!」
「アドニス殿下、何人いても気持ちがなければいないと同じです。
フラフラ女癖悪い人よりも、ずっと誠実で良いと思いますよ。
兄上を笑ってはいけません!」
真剣に言い聞かす彼女に印象悪くなりそうで、彼は真面目な顔で謝罪してきた。
「ごめんなさい。
でも話を聞いて思うけど、その方法で令嬢は誘いに乗ってくれるのかなぁ。
ましてや他国の男性で、会ったばかり人に遊ばれているって怒らない?」
「私も後から考えると、不安になってきたの。
彼女は誇り高そうだし、亡くなった方を思い続けているでしょう?」
「逆効果だね。
マティルダ、もしかして姉上に頼もうとしてない?」
「えっ?!ダメでした?」
呆れてため息をついて、子供の彼が大人の意見をしてくる。
「姉上とその彼女は、仲が悪いって言われているだろう。
姉上が亡くなった王太子を、無理に忘れさせるように仕向けたって騒がれるよ」
「……、た。確かに、何で気付かなかったのかしら。
作戦を変えなきゃならない。
うわぁーん!」
「君さ、詰めが甘いよね。
アンゲロス公爵令息も、まだ恋もしないんだな。
もう、遅いから寝よう。
案外、いい考えが浮かぶかもよ」
大人の解答に頼りがいを感じさせる彼に頷くと、マティルダは自然とアクビを連発させていた。
「クスッ、じゃあね。
マティルダ、おやすみ」
そんな彼女に半分振り返り、手をヒラヒラさせて部屋を出て行こうとしている。
『彼が1番大人かも』
マティルダは、出ていく小さな背中を見送っていた。
彼の言葉に都合よく考えが浮かぶのかなぁと、寝間着に着替えてベッドに入ってみる。
『どうせ、適当に考えたのだろう。
あとは、自分で考えてくれが関の山だ』
ソファーに座って、前に立つ男女を不機嫌そうに見た。
「エドワード、良く見て参考にするようにな」
「殿下!
私はこんな恥ずかしいことは…、結構いろんな経験がありますがー。
今までとは、毛色が違います!
一度しかしませんから、目を大きくして頭に焼き付けて下さいよ!」
前置きがやけに長い、早くやってよと言ってしまった。
そこから、また二人の怒りをかって愚痴が止まらず長引く。
ロバートのマティルダの側に近づくと、目を大きくして彼女に見とれている。
「そこのご令嬢、私と踊っては頂きませんか?」
「あら!この私ですか?
申し訳なくございませんが、お誘いはお断りしますわ」
「私は隣国から参りました。
この国には、知り合いの女性がいなくてね。
貴女を一目で見て、貴女と踊りたいとこの心臓が教えてくれるのです」
「えっ?!心臓?」
エドワードは、この奇妙な誘い方に待ったをかけた。
「ロバート!
心臓って気味悪くないか?
私なら、変な人だと逃げるぞ」
「黙って、最後まで聞くんだ!
変だから人は気になり、話を聞いてくれる」
「えーっと、心臓が高鳴って苦しい。
この理由は、君と踊ったら分かると思います。
私を憐れと思って、手を取って1度でも良いので踊ってくれませんか?」
「まぁ、踊るなんてダメです!
お医者さんに、すぐにでも診てもらったら如何でしょうか?」
「待て!サンダース伯爵令嬢。
その返しは意地悪くないか?
あの美しい方が、そんな冷たい事を言わない筈だ!」
「美しくなくて、悪いですね!
印象に残るには、これぐらいがいいのです。
とっても頭にくるわ!
私に向かって、容姿のことは言わないで下さいませ!」
ダメ出しをする王子に、マティルダも切れかかる。
「君に、診察して欲しいぐらいだ。
冗談だけど、踊りたいのは本気です。
この場で1番美しい方。
どうか、私と踊って下さい」
「し、仕方ありませんわね。
人の目もありますし……。
お受けしますわ」
二人はワルツを軽く踊り、頭を一緒に下げてから自ら拍手をする。
「それで、いけるのか!?」
疑問を直接的に尋ねるが、本人たちはこれが無難だと答えてしまう。
「殿下が誘わなくては、先に進めません。
ご令嬢からは、男性にお声掛けできませんもの」
「勇気をだして頑張れ!
エドワード、どうせダメでも数日後には帰国するんだ。
自国じゃなくて良かったな」
結局は自分の気持ち次第なのだと、彼は右手を握りしめて心臓を軽く何度も叩いていた。
「殿下、姉上の王妃様と二人きりでお話ししたいのです。
お力をお貸しして下さい」
叩きながら遠い目をしていたら、いきなりの要求に疑問を感じた。
「ん?姉と話をしたいなら、わざわざ二人きりにならなくてもいいんじゃないか?」
「そこをお願いします!
ちょっとだけで良いのです。
身内なら私よりも、簡単にお話できますでしょう?」
ロバートも怪しさを感じ始めるが、不覚にも聞いてはいけないように思う。
自身の興味なしには、徹底的に無関心を決めていた。
「うん、明日会ったら話してみる。
しかし、下らないものを見せられたらー。
なんか、眠くなってきたな」
下らないと言われて二人は、エドワードにお小言を言ってからお開きにする。
男性たちを部屋から叩き出すと、やっとエドワード王子の恋の相談事から解放された。
安心していたらドンドンと激しく叩くのに飛び跳ねて、寝間着姿をしたアドニスが現れた。
「マティルダ、エドお兄様は何しに部屋に来たんだ!」
怒っていても可愛く見えてしまう。
「ハイハイ、深呼吸でもしてくださいね」
テキパキと説明すると吊り上げた瞳が下がって、ついには止まらない爆笑になっていた。
「ヒーッ、く。苦しいー!
あの兄上が一目惚れでダンスの誘い方を聞くなんて!
女性3人もいても、それって!」
「アドニス殿下、何人いても気持ちがなければいないと同じです。
フラフラ女癖悪い人よりも、ずっと誠実で良いと思いますよ。
兄上を笑ってはいけません!」
真剣に言い聞かす彼女に印象悪くなりそうで、彼は真面目な顔で謝罪してきた。
「ごめんなさい。
でも話を聞いて思うけど、その方法で令嬢は誘いに乗ってくれるのかなぁ。
ましてや他国の男性で、会ったばかり人に遊ばれているって怒らない?」
「私も後から考えると、不安になってきたの。
彼女は誇り高そうだし、亡くなった方を思い続けているでしょう?」
「逆効果だね。
マティルダ、もしかして姉上に頼もうとしてない?」
「えっ?!ダメでした?」
呆れてため息をついて、子供の彼が大人の意見をしてくる。
「姉上とその彼女は、仲が悪いって言われているだろう。
姉上が亡くなった王太子を、無理に忘れさせるように仕向けたって騒がれるよ」
「……、た。確かに、何で気付かなかったのかしら。
作戦を変えなきゃならない。
うわぁーん!」
「君さ、詰めが甘いよね。
アンゲロス公爵令息も、まだ恋もしないんだな。
もう、遅いから寝よう。
案外、いい考えが浮かぶかもよ」
大人の解答に頼りがいを感じさせる彼に頷くと、マティルダは自然とアクビを連発させていた。
「クスッ、じゃあね。
マティルダ、おやすみ」
そんな彼女に半分振り返り、手をヒラヒラさせて部屋を出て行こうとしている。
『彼が1番大人かも』
マティルダは、出ていく小さな背中を見送っていた。
彼の言葉に都合よく考えが浮かぶのかなぁと、寝間着に着替えてベッドに入ってみる。
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