【完結】すべては、この夏の暑さのせいよ! だから、なにも覚えておりませんの

愚者 (フール)

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第6章

27 儀式前のゴタゴタ

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  滞在2日目の午前中に、マティルダはこの国の神官たちが彼女に会いに訪れている。

『この令嬢が、自国で雨を降らせたのか。
本当の話なんだろうか』

怪しむ大神官の隣には、フードを被ったブライオン王弟殿下が半分くらい顔を隠していた。
その瞳からは、マティルダと愛しき女性を重ね合わせている。

『セリメーヌ…。
君はここにいる。
この娘の中に、生きていたんだね』

ブライオンの瞳は、気持ちの高ぶりで涙で潤んで光る。

「コチラにいるのは、雨を降らしてくれた雨乞いをした令嬢だ」

アンゲロス公爵の友人であり、この国の貴族の一番高い身分の公爵が橋渡しの紹介をしてくれていた。

「マティルダ・サンダースでございます」

吃り噛みそうなので、短い挨拶に止めておいた。

「雨を降らせたとか。
我が国にも、恵みの雨をお願いしたい」

国王陛下自らのお言葉に舞い上がりそうになり、冷静になれと繰り返し言い聞かす。

「お言葉通りに出来るかは、私自身でもわかりません。
ですが、空は隔たりなく繋がってます。
一生懸命に祈れば、天おられる神は願いを聞き届けるでございましょう」

マティルダの話に感動した。
ここに侍る者たち。
一番心に響いたのは、彼女の儀式の打ち合わせに呼びに来た大神官。

「おぉ~!私は、こんな清い心を持つ者に出会ったことはない。
サンダース伯爵令嬢!
どうか、我らに力添えしてくだされ!」

王族勢揃いの中で無視して、マティルダの手を取り額をつけて頭を下げる。
流石は、神しか信じない方だ。
国王を完全に居ないものとしていた。

「はぁ~、ハッ。ハイ!
出来るだけ頑張ります!」

目の前に勢いよく現れた彼に、どうしたらよいか慌て出す。

『この手をどう退かせばいいのか。
それをしたら、頭を叩いてしまうかも知れない。
国交問題になっちゃうから、我慢するのよ』

大神官のカツラの頭髪を、じっと悩ましげに見続ける。

「スパーーん!
いつまでそうして、マティルダの手を触っておるのだ!」

アドニス殿下が走って前に現れて、その手を払おうとした。

「ああーーっ!
頭、頭があぁ~!!」

大声の主は、間近でその瞬間を見てしまった彼女だった。
カツラが小さな手に引っ掛かり、払いながら飛ばされていく。
ずっと気にしていたので、誰よりもいち早く反応してしまった。

全員が固まり大神官の頭に注目を向けているが、驚きから笑いに変わりそうになる。
だが、決して笑ってはならない。
例え、この国で1番の人間でもだ。

ぶっ飛んだカツラを素早く拾って、マティルダはホコリを払ってから何事もなく頭に優しく被せた。

「大神官様、私にご用がありましたのね。
皆様、この場を失礼します」

恥ずかしさとバレてしまった衝撃に、大神官は微動だにしない。
その彼を引っ張り歩き出す。

「ご、ゴメンなさい」

小声で謝るアドニスをギロっと目を吊り上げて、無言で大神官と2人で部屋から出て消えた。
必死に二人を追いかける。
フードで顔すらハッキリ分からない、存在の薄い神官。

「ま、マティルダ……」

彼に元気よく話しかけるのは、やはり脳天気なメアリー王女だった。

「アドお兄様~、やっちゃった!
またマティルダに、助けて貰って怒られた。
きゃあは、アハハー」

正直過ぎる事を言っては笑い転げる王女様。
子供って無邪気で残酷だなぁと、思い知らさせてくれる一面である。

「メアリー!
笑うのはお止めなさい!
わざとしたわけではないのよ。
そうでしょう?アドニス?」

姉であるエリザベスは、しょげて気の毒な弟に手を差しのべた。

「エリザベスお姉様~!」

その手で抱き止められると、つい幼き頃を思い出して甘えてしまう。
長女気質で、ついつい下の弟妹たちをなだめていた。

それを見ていて王は、ふと二人の未来の子供たちを想像する。

『王妃と余の子供か……。
エリザベスを見ていると、よい母親になるだろう。 
余が年がかなり上のせいで、子が生まれなかったら』

世継ぎがまだ誕生していない。

王の知らないところで、マティルダという王族の血が流れている後継者がいる。
この先、どうなっていくのか。

その前に、天から雨を降らす儀式が待っているのだった。










    
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