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第6章
25 部屋の鍵
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何台も連なる馬車が王宮の敷地内に入ると、特に王女は落ち着きがなくなった。
王子たちもそれぞれ嬉しげで、姉をあんじても会える喜びに溢れて見える。
「もう直ぐ、エリザベスお姉様に会えるのね!」
「メアリー、嬉しいのは分かるが御行儀よくしろよ。
王妃様の姉上の顔に、泥を塗るようなことをしないでくれ」
「アドニスお兄様、そんな恥ずかしいことなんてしないわ」
「まあまあ、喧嘩をするな。
ほらほら、もう到着するぞ!」
アンゲロス公爵親子に友人の隣国の公爵様が、後ろの馬車からついてきて下さっている。
二人の公爵の引率者に、マティルダは心強いと思っていた。
『王妃様と侯爵令嬢のいざござも、今回の訪問で和解する予定だとアンゲロス公爵様は仰ってたしー。
これで儀式に集中できる』
馬車の扉を開くと踏み台が取り付けられ、エドワード殿下が先に降りられる。
次にアドニス殿下にメアリー王女。
「お姉様~!」
「メアリー、久しぶり。
変わらず甘えん坊さんね」
最後に私が降り立つと、抱き合って再会を喜ぶ姉妹たち。
「マティルダ、エリザベスお姉様よ。
お姉様、私の家庭教師なの」
満面の笑顔で紹介されて、王妃様にカーテシーをして頭を下げる。
メアリー王女の姉上エリザベス王妃は、とても気さくに私に労いとお礼を述べてくれた。
姉にそれを反論する顔は、笑顔しか見られなかったね。
「クスクス、メアリーったら。
さぁさぁ、お疲れでしょう。
城の中へ入りますわよ」
エリザベス王妃がお出迎えをしてくれた。
故郷から訪ねた親族に気を使ってくれたのようだ。
そんな隣国の王は、城の中で私たちを待っているのだろう。
王宮は他国の王族のたちを迎えて、華やいだ雰囲気で活気に満ちている。
しかし、それに反して時が止まった場所がー。
『この部屋をいつまでも独り占めにはできない。王太子妃にと選ばれて行儀見習いをした時に、この場を与えられた。
思い出が詰まった…』
「ガチャリ!」
誰かが扉を開けて入ってくる足音がする。
「こんな豪華な部屋でないはずだわ。
どうやら間違えたようね」
聞き覚えのない若い女性の声。
「そこに居るのは誰!」
「はい!
マティルダ・サンダースと申します」
マティルダはカーテシーして名前を告げて顔を向けると、新緑に負けないぐらいの美しい瞳と目があった。
「サンダース?
そのような家がありましたかしら?」
金髪の緩い巻き髪が腰まであり、悩む様子はこちらまで惚れ惚れとみてしまう。
「す、すみません。
あのー、隣国から参りました」
「ああ、そうなのね。
貴女がメアリー王女殿下の侍女?」
「違います。
私は、メアリー王女殿下の家庭教師です」
「ずいぶんと、お若く見えますこと」
王女の年齢を知らない侯爵令嬢は、興味げにマティルダの姿をマジマジと見ていた。
「私は15才で、メアリー王女は10才でございます」
「10才!?幼いのね」
『そんな子供に八つ当たりしていた。
みっともない事をー』
「マティルダ嬢、頼み事をして貰えますかしら?」
彼女は首に手をやるとペンダントにしていた鍵をマティルダに見せる。
「これはこの部屋の鍵なの。
エリザベス王妃様に、これを渡して頂けますか?
今まで失礼してしまいましたと、明日の夜会では御挨拶するのでお願いしますと伝言して下さる」
目の前に輝く黄金に百合の模様の鍵は、彼女が大切に肌に離さず持っていたのが伝わる。
「ご自分でお渡しになられましたら?
エリザベス王妃様も喜ばれると存じます」
首を左右に振ると、眉を下げて申し訳なさそうにしている。
「人として、私は未熟なのです。
マティルダ嬢は、私が誰か知ってるんでしょう!?
フフっ、ならお気持ちをお分かりになって…」
彼女はこの部屋を一通りじっくり見渡すと、美しい燻るような笑みを見せた。
綺麗とか美しいなどよりも、神聖な高貴さを纏っている。
見とれていたマティルダは、背筋を自然と真っ直ぐにしてしまう。
無意識に黙って両手の掌にして差し出すと、彼女も丁寧に両手で渡す。
「宜しくね。
マティルダ・サンダース様…」
ボーッと去っていく侯爵令嬢を見送ると、彼女の残り香なのか。
百合の花の香りが微かにした。
王子たちもそれぞれ嬉しげで、姉をあんじても会える喜びに溢れて見える。
「もう直ぐ、エリザベスお姉様に会えるのね!」
「メアリー、嬉しいのは分かるが御行儀よくしろよ。
王妃様の姉上の顔に、泥を塗るようなことをしないでくれ」
「アドニスお兄様、そんな恥ずかしいことなんてしないわ」
「まあまあ、喧嘩をするな。
ほらほら、もう到着するぞ!」
アンゲロス公爵親子に友人の隣国の公爵様が、後ろの馬車からついてきて下さっている。
二人の公爵の引率者に、マティルダは心強いと思っていた。
『王妃様と侯爵令嬢のいざござも、今回の訪問で和解する予定だとアンゲロス公爵様は仰ってたしー。
これで儀式に集中できる』
馬車の扉を開くと踏み台が取り付けられ、エドワード殿下が先に降りられる。
次にアドニス殿下にメアリー王女。
「お姉様~!」
「メアリー、久しぶり。
変わらず甘えん坊さんね」
最後に私が降り立つと、抱き合って再会を喜ぶ姉妹たち。
「マティルダ、エリザベスお姉様よ。
お姉様、私の家庭教師なの」
満面の笑顔で紹介されて、王妃様にカーテシーをして頭を下げる。
メアリー王女の姉上エリザベス王妃は、とても気さくに私に労いとお礼を述べてくれた。
姉にそれを反論する顔は、笑顔しか見られなかったね。
「クスクス、メアリーったら。
さぁさぁ、お疲れでしょう。
城の中へ入りますわよ」
エリザベス王妃がお出迎えをしてくれた。
故郷から訪ねた親族に気を使ってくれたのようだ。
そんな隣国の王は、城の中で私たちを待っているのだろう。
王宮は他国の王族のたちを迎えて、華やいだ雰囲気で活気に満ちている。
しかし、それに反して時が止まった場所がー。
『この部屋をいつまでも独り占めにはできない。王太子妃にと選ばれて行儀見習いをした時に、この場を与えられた。
思い出が詰まった…』
「ガチャリ!」
誰かが扉を開けて入ってくる足音がする。
「こんな豪華な部屋でないはずだわ。
どうやら間違えたようね」
聞き覚えのない若い女性の声。
「そこに居るのは誰!」
「はい!
マティルダ・サンダースと申します」
マティルダはカーテシーして名前を告げて顔を向けると、新緑に負けないぐらいの美しい瞳と目があった。
「サンダース?
そのような家がありましたかしら?」
金髪の緩い巻き髪が腰まであり、悩む様子はこちらまで惚れ惚れとみてしまう。
「す、すみません。
あのー、隣国から参りました」
「ああ、そうなのね。
貴女がメアリー王女殿下の侍女?」
「違います。
私は、メアリー王女殿下の家庭教師です」
「ずいぶんと、お若く見えますこと」
王女の年齢を知らない侯爵令嬢は、興味げにマティルダの姿をマジマジと見ていた。
「私は15才で、メアリー王女は10才でございます」
「10才!?幼いのね」
『そんな子供に八つ当たりしていた。
みっともない事をー』
「マティルダ嬢、頼み事をして貰えますかしら?」
彼女は首に手をやるとペンダントにしていた鍵をマティルダに見せる。
「これはこの部屋の鍵なの。
エリザベス王妃様に、これを渡して頂けますか?
今まで失礼してしまいましたと、明日の夜会では御挨拶するのでお願いしますと伝言して下さる」
目の前に輝く黄金に百合の模様の鍵は、彼女が大切に肌に離さず持っていたのが伝わる。
「ご自分でお渡しになられましたら?
エリザベス王妃様も喜ばれると存じます」
首を左右に振ると、眉を下げて申し訳なさそうにしている。
「人として、私は未熟なのです。
マティルダ嬢は、私が誰か知ってるんでしょう!?
フフっ、ならお気持ちをお分かりになって…」
彼女はこの部屋を一通りじっくり見渡すと、美しい燻るような笑みを見せた。
綺麗とか美しいなどよりも、神聖な高貴さを纏っている。
見とれていたマティルダは、背筋を自然と真っ直ぐにしてしまう。
無意識に黙って両手の掌にして差し出すと、彼女も丁寧に両手で渡す。
「宜しくね。
マティルダ・サンダース様…」
ボーッと去っていく侯爵令嬢を見送ると、彼女の残り香なのか。
百合の花の香りが微かにした。
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