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第6章

24 夏薔薇の中へ

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   暑いのか爽やかなのか。
どうでもいいが、そのテーブルの近くでは好奇心に触手しょくしゅを動かす。
暇で好奇心が旺盛おうせいの貴族たち。

「面白い組み合わせだな」

「お静かになさいませ。
声が聞こえませんわよ!」

あちらこちらで、潜んで聞き耳をたてて聞いている者たち。


   何から話しかけようか。
牽制けんせいをしあう、三人であった。
やはりここは、同じ国で公爵の彼が話しかけてきた。

「王妃様の身内の方々がいらっしゃるそうですよ。
弟がお二人、妹さんはお一人です」

「そうでございますか。
宜しいですこと。
王宮もさぞや、賑やかになりますわね」

嫌味ととれる話に公爵たちは、無言で令嬢に愛想笑い。
そこにタイミング悪く、お茶を運んできたメイドたち。
これのせいで、ガラッと変化し荒れるお茶になる。

「白百合の間に、お客様をお泊めするそうよ」

「でも、あの部屋はー」

三人が近くでお茶をしてるのに、話をしている若い女官候補は気付いていないようだ。

「ガターン!!どういうこと!
その部屋は、王太子殿下が私にお与え下さったのよ。
許可なしで勝手に使うなんて、許しませんわ!」

侯爵令嬢の甲高い声が響く。

「きゃあー!も、申し訳ございません」

「コチラに、いらっしゃるのは存じませんでした。
私たちは失礼致します」 

パタパタと小走りで見習いたちは、逃げるように消えていく。

「侯爵令嬢…。言いづらい話ですが、その部屋は王太子が生きていた時の話です。
過去にこだわらず、未来に目を向けて下さい。
ゆっくりで宜しいですからー」

「公爵様の仰ったことは分かりますわ。
一人残されてみじめな毎日を暮らすなら、私も王太子殿下と御一緒したかった」

「そんなことを言ってはなりません。
王太子殿下は、天国で令嬢の幸せを見守っていらっしゃいますよ」

下を向く令嬢の瞳からは、きっと涙が流れ落ちている。
堪えて鳴き声までは出してはないが、鼻をグズグズと鳴らす。
ハンカチを顔に近づけて、拭く。

「それに貴女も理解しているのでしょう。
エリザベス王妃は、別に嫌がらせをしていない。
全ては側にいて、そうしているように見せているあの者のをせいだ」

アンゲロスはひたすら聞き役に徹した。
ここでは何も知らない。

「あの愚かな女たち?
王太子殿下に見向きもなれなくて、やっかみばかりしていた人たちね。
私をいい気味って、今頃は思ってらしゃるわ」

アンゲロスは今しかないと、侯爵令嬢にお願いする。

「侯爵令嬢、どうかエリザベス王妃に頭をもう一度下げてないでしょうか。
必要ない意地張りをやめてくれませんか?」

「……、白百合の間だけは使わないで欲しい。
あそこには、私と彼との大切な思い出があるのです。
そうしてくれたら、もう一度だけ挨拶をうながしましょう」

「それでよいです。
エリザベス王妃にお会いして、私が責任を持って約束をさせます。 
場所と機会は、私が作りますからお願いしたい」

自国から嫁いだ王女の立場を良くしたい気持ちなんだろうと、令嬢は冷静な目つきをしていた。

「ですが、王妃の周りにいる方々を抑えたられるのですか。
王妃に゙ひっ付いて、必ず邪魔するんではない?」

「そうでないとは言えない。
それでもする価値はある。
和解をして貰わないと、ギスギスした空気を何とかしなくてはならん」

侯爵令嬢の存在が、王妃の為によくないように話す。

「私が居なくなれば、風通しが良くなると仰りようね。
王宮に来てるのは、父の言いつけもあるのよ。
部屋に閉じ籠らないで、新しい相手を探せとー。
もう婚姻したいとは思ってないのに、いい迷惑ですの」

用意された紅茶飲むと息が小さくなる。

「まだまだ若い。
父親として、貴女をご心配しておられるのでしょう」

「心配ですか!?クスッ。
父は……。ただ、世間の目を気にしてるだけですわ。
世間では夫をなくした未亡人のように思われて、貴族たちに陰口を言われてるのが我慢ならないのです」

「「……、侯爵令嬢」」

『そう誰でもいいから婚姻して、終わらせないだけ。
私をここから連れ出して、王太子殿下!
嘘つき、私のところへ戻ってくるとー。
あんなに、お約束してくれたのに』

「私は疲れました。
エリザベス王妃様に、恨みはありません。
でも、羨ましかった。
あの場所はー、私の場所だったから……」

真っ直ぐに、ハッキリ言い切る。
席を立ち見事なカーテシーをすると、彼女は私たちに背を向けても咲き誇る夏薔薇の中へ姿を消えていった。
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