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第6章

21 虚栄の愛

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 マティルダたちが隣国へ向かっている間に、血の繋がりのある本物の家族サンダース伯爵一家。
精神的にも肉体的にも、彼らは毎日最悪な生活を送る。

ハロルドは好きになった女性に、殺されかかったために精神が脆弱になって目が虚ろ。
両親に連絡が伝わり、ふっ飛んで息子の所に現れた。

「ハロルド!大丈夫か!」

「ハロルド!
ああ~、可哀想に……。
手を怪我したんですって、痛くない?怖かったわよね」

椅子に座っていた彼の左手に目を移すと、包帯でぐるぐる巻かれていた。

「父上、母上までもー。
私を心配して、ここまで来てくれたのですね。
すみません、迷惑かけて……」

あんなに明るく活発だった息子の変わりように、言葉が失い詰まってしまう両親。

「サンダース伯爵からは謝罪を貰ったが、娘にどんな育て方をしたんだ!」

「ハロルド、領地へ戻ってゆっくりしなさい。
こんな場所に、いつまでも留まることはないわ!」

肩を落として座る息子の左右に近づき、父は肩に手を優しく置く。
母は背中を擦ると、傷ついた息子の姿に自然と涙を流した。


 扉を遠慮がちに叩く音がして開かれると、サンダース伯爵とガリガリに痩せ細ってげっそりした若い女性がいた。

「あっ!貴女ね!
私の息子を殺そうとした女はー!」

今にも殴りかかりそうな剣幕に、夫は掴み制しようと妻の細腕をとる。

「よさないか!冷静になれ!
サンダース伯爵、今さらなんですよ。
その令嬢が、どんなに謝っても、元には戻れないのです」

その令嬢と呼ばれたアリエールは、腰に縄をかけられて憲兵が見張っていた。
罪人の彼女は、被害者に一言だけ詫びたいと頼んだ結果。

ここに立っているのだ。

「すまないが、娘がどうしても会って話したいそうだ」

「は、ハロルド様。
…………、あの~。
申し訳ございませんでした。
あ、貴方を危険な目に合わせてしまって……」

サンダース親子がそう話すと、1番の被害者が怒りを押さえ込めずにいた。

「危険だと!!
危険より酷いことだ!
あと一歩、殺されかけたんだぞ!」

ハロルドは感覚のない左目に力が入らない代わりに、右のこぶしを握り締めてブルブルさせる。

「ごめ、ごめんなさい。
あのとき私は何をしたのか。
よく覚えてないの。
本当に、嘘じゃないわ」

彼女の言っているのは本当かも知れないが、ハロルドはもう2度と愛情は与えられないと思って聞いていた。

「もう、謝罪はいらない。
君には罪をつぐなってもらう。
この左手では、剣術で生きていけないし…。
そうだ!マティルダと婚姻して伯爵の仕事はできる。
字はまだ書けるからな」

マティルダ!
その名前に敏感になるアリエール。 

「やっぱり、お姉様と婚姻して伯爵になりたかっただけなのね。
婚姻したら離縁して、私と再婚してくれるって言ってくれていた。
今もそうでしょう!」

「自分を殺そうとした女と、誰が一緒にいたいと思う?!
バカなことを言わないでくれ」

子供たちの激しいやり取りに、親たちは黙って聞いているしかできない。

「愛してるって、いつも仰ってくれたじゃない?!
もう1度やり直しましょう。
ハロルドー!!」

両手を彼に差し出すが、これ以上は側に近寄れない。

「勝手に動くな!」

縄を持つ憲兵に怒鳴られて、アリエールは肩をビクッと動かす。

「サンダース伯爵、マティルダを呼んでくれ!
彼女と話がしたい」

マティルダは領地にいない。
国王一家と避暑地へ行っているからだ。

「ま、マティルダは友人の屋敷に遊びに行っている。
その友人を私は知らないんだ」

この言葉にハロルドの母、男爵夫人が驚き話に入ってくる。

「貴族の令嬢が親の断りなく、泊まりがけするのですか!?」

「他家のことに口出しするな。
ハロルド、もうよいだろう。
領地で心身ともに休もうな」

父は彼の肩を抱き抱える。

「は、はい。父上……」

終わらせようとする男爵に、アリエールはどうしても言いたいことがあった。

これを言いに、今ココに来たのだから。

「お待ち下さい、男爵様。
私とハロルド様の子供がここにおりますのよ!」

「「「「えっ!!!!」」」」

彼女の落とした言葉に、ハロルド親子と父サンダース伯爵は絶句する。

「私たちはそんな関係で、妊娠していると思いますの」

「貴女の思い込みでしょう!
そんな嘘を言って、罪を逃れようとしてるのね!
なんて、恐ろしい令嬢なの!」

男爵夫人は、自分の息子をかどわかす女をー。
アリエールの顔をはっ倒したくなり、右手を振り挙げる。
 
その手首を息子が止めた。

「ハロルド、お離しなさい!
この女は、貴方をこんなふうにしたのよ!
許せないわ!」

彼は、母親に゙笑顔を見せて安心させる。

「ククッ、アリエール。
候補者は、俺だけじゃないだろう。
生まれてから、髪や瞳の色を確認すればいいじゃないか。
例え俺の子だとしても、孤児院に゙渡せばいい!」

「…、酷いわ!
私と貴方の子供なのに!」

「アリエール、お前は彼とはそんな関係になっていたのか!?
貴族の令嬢として、何をやっているんだ!!」

サンダース伯爵は自分の娘を叱り飛ばす。

「どうせ、俺たちとの間には虚栄の愛しかなかった。
アリエールはマティルダに゙嫌がらせをしたくて、俺と付き合っただけだ。 
お前は俺を、好きでもないし。愛してもないのさ」

刺すような視線で話すと、突き放すようにそう言った。

「違う、違うわ!!
最初は…、そうだったかもしれない。
でも、今は違うのよ!」

「どうでもいい!
責任は取ってもらう。
妊娠したなら、医師に見てもらえよ。
また、どうせ嘘なんだろう?」

彼は両親に何か話すと、アリエールたちを無視して部屋を出て行く。

愛する人からの捨て台詞に、残された彼女は泣き叫ぶ。
ハロルドと男の名を、ずっと暫く呼ぶ声だけがしていた。
これがアリエールが、ハロルドを目にした。

最後の日だった。
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