131 / 207
第6章
17 父の顔
しおりを挟む
隣国から旅立って1週間でアンゲロス公爵は、マティルダの父親かもしれないブライオン王弟殿下に謁見が叶った。
その男は、王の弟という高い身分。
侯爵サラと伯爵の次男坊の恋と同じように国と世代を越えて、身分差で結ばれなかった恋人たち。
今回の面会は、友人の力添えがなければ無理だっただろう。
アンゲロスは頭を下げて、大理石の床を見詰めて思っていた。
「アンゲロス公爵、面を挙げてくれ!
よく我が国を訪れてくれた。
手紙を読み、若き頃の日々を思い出していたよ」
「ブライオン王弟殿下のご尊顔を拝謁し、心より光栄でございます」
他国の者で臣下ではないが、最上の礼にて彼は権威を示した。
「側にいる者は全てこの場から離れるように、公爵が一緒なのだから安心してよい」
王にここまで言われては、否とは誰ひとり進言できない。
部屋に3人だけになると、ブライオン王弟殿下は人が去ると、一人の普通の男性になっているようにアンゲロスには思えた。
悲しげな表情に、王弟としての仮面が外れたのを感じた。
「王弟殿下、こちらの指輪に見覚えがございますか!?」
恭しく指輪を箱の蓋を開けて、ブライオン殿下の目に入るように差し出す。
「これは…、懐かしい。
私が愛の証しに、セリメーヌに贈った指輪だ」
指輪を手にすると、その輝きに彼は目を細めた。
「セリメーヌの娘の事が手紙に書かれていた。
その娘の年齢からすると、私の娘かもしれない。
あの頃は戦争が始まり、戦場へ行くかもしれない不安な時期であった」
ブライオン殿下は昔の記憶を引っ張り出して、ところどころ考えながらの所為で話が途切れる。
「そんな簡単に判断してもよいのですか?
サンダース伯爵の可能性もございます」
「左様でございます。
サンダース伯爵に嫁いだ時にすでに身籠っていたと、伯爵自身本人は明言してました。
ですが、嘘をついているかもしれません」
臣下でもある公爵だけでなく、アンゲロス公爵までも慎重にすべきと忠告をする。
ブライオン王弟殿下は、このアンゲロス公爵の発言を感心して頷くのである。
「恥ずかしながら、若さゆえに歯止めが効かなくてな。
彼女は貴族の娘で、嫁ぐには男女関係はしてはならない。
私は罪を犯してしまった」
男として、責任をとらなくてはならないとは思う。
しかし、相手は現在は一国の王弟である。
「もし、ブライオン王弟殿下がとセリメーヌ様の娘であるなら…。
マティルダ・サンダース伯爵令嬢に、1度お会いになり確かめたらどうですか!?」
「会わせてくれるのか?
セリメーヌの娘にー」
先程から表情がコロコロ変わるのは、彼が動揺しているからだ。
「アンゲロス公爵に甘えて、そのご令嬢を連れてきて頂きましょう」
「すまないが、その娘に会ってみたい。
セリメーヌと私の間の子かどうかは、一目見れば分かると自信がある」
ブライオン王弟殿下とマティルダの面会が決まり、日程を決める事をする。
「マティルダ嬢は、今は王家の避暑地におります。
学園も始まりますので、休暇中で賄うにはギリギリでございます」
「彼女に迷惑をかけたくないが、もし可能なら会いたい。
例え余の子でなくても、セリメーヌの娘に会って話したいのだ」
アンゲロスは賭けをして、公爵の屋敷から王城に出向く前に手紙と使者を避暑地へ向かわせていた。
息子のロバートと同じで、なかなかの曲者のようだ。
挨拶だけの謁見では、隣国の公爵でもそんなに長く時間は取れない。
用件を終えるとアンゲロスは友人を伴い、王宮の庭を散策しながら馬車が待つ場所へ。
途中で聞き覚えのある声がし、女性たちの笑い声がする。
「あのお声は、確か……」
「……、貴国から嫁がれた王妃様のお声でいらっしゃいます」
「やはり、そうであるか」
アンゲロスは、公爵に短く返事する。
嫁がれて三年になるが、元第一王女にはまだ子がいない。
マティルダの存在が、隣国にとって重大な問題となる。
それを考えてアンゲロスは顔を挙げると、夏から秋へと季節の変わる間際の空模様を感じていた。
その男は、王の弟という高い身分。
侯爵サラと伯爵の次男坊の恋と同じように国と世代を越えて、身分差で結ばれなかった恋人たち。
今回の面会は、友人の力添えがなければ無理だっただろう。
アンゲロスは頭を下げて、大理石の床を見詰めて思っていた。
「アンゲロス公爵、面を挙げてくれ!
よく我が国を訪れてくれた。
手紙を読み、若き頃の日々を思い出していたよ」
「ブライオン王弟殿下のご尊顔を拝謁し、心より光栄でございます」
他国の者で臣下ではないが、最上の礼にて彼は権威を示した。
「側にいる者は全てこの場から離れるように、公爵が一緒なのだから安心してよい」
王にここまで言われては、否とは誰ひとり進言できない。
部屋に3人だけになると、ブライオン王弟殿下は人が去ると、一人の普通の男性になっているようにアンゲロスには思えた。
悲しげな表情に、王弟としての仮面が外れたのを感じた。
「王弟殿下、こちらの指輪に見覚えがございますか!?」
恭しく指輪を箱の蓋を開けて、ブライオン殿下の目に入るように差し出す。
「これは…、懐かしい。
私が愛の証しに、セリメーヌに贈った指輪だ」
指輪を手にすると、その輝きに彼は目を細めた。
「セリメーヌの娘の事が手紙に書かれていた。
その娘の年齢からすると、私の娘かもしれない。
あの頃は戦争が始まり、戦場へ行くかもしれない不安な時期であった」
ブライオン殿下は昔の記憶を引っ張り出して、ところどころ考えながらの所為で話が途切れる。
「そんな簡単に判断してもよいのですか?
サンダース伯爵の可能性もございます」
「左様でございます。
サンダース伯爵に嫁いだ時にすでに身籠っていたと、伯爵自身本人は明言してました。
ですが、嘘をついているかもしれません」
臣下でもある公爵だけでなく、アンゲロス公爵までも慎重にすべきと忠告をする。
ブライオン王弟殿下は、このアンゲロス公爵の発言を感心して頷くのである。
「恥ずかしながら、若さゆえに歯止めが効かなくてな。
彼女は貴族の娘で、嫁ぐには男女関係はしてはならない。
私は罪を犯してしまった」
男として、責任をとらなくてはならないとは思う。
しかし、相手は現在は一国の王弟である。
「もし、ブライオン王弟殿下がとセリメーヌ様の娘であるなら…。
マティルダ・サンダース伯爵令嬢に、1度お会いになり確かめたらどうですか!?」
「会わせてくれるのか?
セリメーヌの娘にー」
先程から表情がコロコロ変わるのは、彼が動揺しているからだ。
「アンゲロス公爵に甘えて、そのご令嬢を連れてきて頂きましょう」
「すまないが、その娘に会ってみたい。
セリメーヌと私の間の子かどうかは、一目見れば分かると自信がある」
ブライオン王弟殿下とマティルダの面会が決まり、日程を決める事をする。
「マティルダ嬢は、今は王家の避暑地におります。
学園も始まりますので、休暇中で賄うにはギリギリでございます」
「彼女に迷惑をかけたくないが、もし可能なら会いたい。
例え余の子でなくても、セリメーヌの娘に会って話したいのだ」
アンゲロスは賭けをして、公爵の屋敷から王城に出向く前に手紙と使者を避暑地へ向かわせていた。
息子のロバートと同じで、なかなかの曲者のようだ。
挨拶だけの謁見では、隣国の公爵でもそんなに長く時間は取れない。
用件を終えるとアンゲロスは友人を伴い、王宮の庭を散策しながら馬車が待つ場所へ。
途中で聞き覚えのある声がし、女性たちの笑い声がする。
「あのお声は、確か……」
「……、貴国から嫁がれた王妃様のお声でいらっしゃいます」
「やはり、そうであるか」
アンゲロスは、公爵に短く返事する。
嫁がれて三年になるが、元第一王女にはまだ子がいない。
マティルダの存在が、隣国にとって重大な問題となる。
それを考えてアンゲロスは顔を挙げると、夏から秋へと季節の変わる間際の空模様を感じていた。
0
お気に入りに追加
69
あなたにおすすめの小説
なんで私だけ我慢しなくちゃならないわけ?
ワールド
恋愛
私、フォン・クラインハートは、由緒正しき家柄に生まれ、常に家族の期待に応えるべく振る舞ってまいりましたわ。恋愛、趣味、さらには私の将来に至るまで、すべては家名と伝統のため。しかし、これ以上、我慢するのは終わりにしようと決意いたしましたわ。
だってなんで私だけ我慢しなくちゃいけないと思ったんですもの。
これからは好き勝手やらせてもらいますわ。
王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。
ふまさ
恋愛
楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。
でも。
愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。
あなたには彼女がお似合いです
風見ゆうみ
恋愛
私の婚約者には大事な妹がいた。
妹に呼び出されたからと言って、パーティー会場やデート先で私を置き去りにしていく、そんなあなたでも好きだったんです。
でも、あなたと妹は血が繋がっておらず、昔は恋仲だったということを知ってしまった今では、私のあなたへの思いは邪魔なものでしかないのだと知りました。
ずっとあなたが好きでした。
あなたの妻になれると思うだけで幸せでした。
でも、あなたには他に好きな人がいたんですね。
公爵令嬢のわたしに、伯爵令息であるあなたから婚約破棄はできないのでしょう?
あなたのために婚約を破棄します。
だから、あなたは彼女とどうか幸せになってください。
たとえわたしが平民になろうとも婚約破棄をすれば、幸せになれると思っていたのに――
※作者独特の異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。
※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる