【完結】すべては、この夏の暑さのせいよ! だから、なにも覚えておりませんの

愚者 (フール)

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第6章

14 去り行く嵐

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   夜半に雨音が消えて、フクロウの鳴き声が遠くの方から耳に聞こえてくる。
意識はあるがまぶたが重くて、頭に二人の男女が楽しそうに笑っている。

『ブライオン、私の事を忘れて幸せになってね』

『セリメーヌ、なに言ってるんだ。
父上や母上に、君との婚姻を頼んでみる。
だから、そんな話をしないで待っていてくれ!』

この男女は見たことはないわ。
女性の髪の毛の色ー。
青みがかった金髪の髪は、私の髪の色に似ている。

『もしかして、あなた達は…』

マティルダが目を開けると、朝の光が部屋に差し込む。
もう一度、夢の中の二人の顔を思い出そうとする。
何度も思い浮かべても、髪の色にしか覚えていなかった。

「さぁ、夏休みも残り少なくなってきた。
休み明けにアリエールとハロルドは、学園に戻って来れるのか。
サンダース伯爵家は、この先どうなるのかしら」

体を動かさないと変な考えをするので、メイドを待たずに一人でドレスに着替えてる。
鏡の中の自分を見ながら髪を結っていたら、身の回りをしてくれる者が背後から声をかけた。

「マティルダ様。
ベッドの中で、お待ちくだされば宜しいのですよ」

「おはようございます。
目が覚めてしまって、またまた勝手にしてすみません」

メイドとほのぼの挨拶して食事が終わったら、朝っぱらから面会したいと女官が伝言を伝えてきた。

「面会って何方どなたですか?
メアリー王女か、アドニス殿下でございますかね。
授業でお会いしますしー」

「ゴーダン辺境伯爵とベルガー伯爵が、マティルダ様に会ってお話したいそうでございます。
お会い致しますか?」

『また嫌味を言いに来たの。
う~ん、でも下らなすぎる理由だわ。
もしかしたら、雨が降ったの』

見事に正解した彼女は、この後の二人に正反対の態度に不気味になる。

   マティルダを見るなり頭を下げて謝るが伯爵たちは、いきなりいっぺんに話しかけて訳がわからない。

「領地に雷と大雨が降り続いて、山火事に氾濫してヤバイのだ!
何とか、お助け下さい。
サンダース伯爵令嬢ー!」

「我が領地は竜巻による大雨で、田畑の作物をやられたそうだ。
隣国から仕入れた品を運んでいた馬車が飛ばされたのだ!
どうか、神にお願いして下さい」

マティルダに会うなり、無理難題の無茶苦茶なお願いをしてくる。

「起こったことを、何とかしてくれとお願いされてもね。
だから、気をつけてとお伝えしましたよね」

投げやりに彼女は、伯爵たちに無理ですよって捨て台詞せりふ

「「そんなー、お助け下さい!
どうか、雨乞いの巫女様。
我らに、お慈悲じひをお与え下さい!」」

こんな時だけ助けてなんて、寄ってきて都合よすぎる。
ご令嬢なのに腕組みをし、次にどう言ってはね除けるか。

「御二人は領地へ戻らないでいいのですか?
私なら、すっ飛んで向かいますけど~」

「「ウッ、戻ります。
祈りだけはして下さい!
お願いします。では……」」

しっしっと胸の中で追いやると、マティルダはマイヤー伯爵親子に話を聞こうと決めた。

「授業をしっかりして、何せお給料を支払って頂いてますから。
契約は守らないといけません」

教鞭きょうべんをとる教科書を胸に彼女は、王女と王子の場所へ向かう。

   元々は賢いお二人は、次々に問題を簡単にいている。
彼女の仕事はここまでは順調そのもので、プライベートは散々さんざんである。
ころ合いが良いと、勉強途中でも少し無駄話むだばなしをする。

「マティルダ聞いてよ!
食事を家族でしていたら、あの例の伯爵たちが突撃とっげきしていたの」

「あの方々は、王族がお食事してるのにですか!?」

私と王族、見境みさかいない伯爵たちの態度にあきれ返ってメアリーの言葉を聞いている。

「マティルダの処に来たんでしょう?
雨乞いの巫女に言われて、今から領地へ戻りますとあわてて話していた。
見ていて笑いそうになったぞ」

アドレスは、思い出し笑い混じりに教えてくれた。

「私の処にも参りましたわ。
ご領地に不幸があったそうで、助けて欲しいって無理難題言ってきました。
だから、早くご領地へ戻られたらと進言しました」

「それって、適当に相手して追っ払ったんだ!
マティルダ、冷たいな。
私も同じだけどね」

アドニスは意地悪くニヤついていている。

「今頃は、馬車に乗って帰って行ったわ。
あの人たちは、何しにここへ来たのかなぁ?」

「「さぁ~?!」」と、二人は声を揃えてメアリーに返事する。

「変な方々が居なくなって、嵐が去っていく。
お城の中に、青空が広がるね」

メアリーの上品な嫌みに、また笑い出す兄アドニスを見てマティルダは思う。

『マイヤー伯爵親子に、どうなっているか状況を聞かなくてはならない。
そう言えばフルネール侯爵令嬢サラ様は今は何してる?
父の侯爵様は、この事をどう思ってるのかしら?』

避暑地ってゆったり暑さから逃れて、休息する場所の意味でしょう。
全然、休めてないじゃあない。
勉強を再開して教える中で、マティルダは矛盾むじゅんをかんじていた。

一波乱ひとはらんでは終わらない。
まだまだ何かありそうだと感じていた。。
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