【完結】すべては、この夏の暑さのせいよ！ だから、なにも覚えておりませんの

第６章

１３ 器の違い

　滝のような雨に雷鳴が音が混ざり、人々は自然の驚異に呆然ぼうぜんとして立ちつくしなす統すべなかった。

「出来ることはー、何をすれば良いのか。
そうだ！川だ！
川の様子を見に行ってくるぞ」

「それでは、我々が参ります。
ここでお待ちになって、外にはお出にならないで下さい！」

あちらこちらに好き勝手きに行かれて、雷にでも打たれたりしたら大変だ。
実際口は出すが、実行に移すのは家来けらいの役目だ。
大人しく屋敷で、威張いばっていて欲しいと彼らは願っていた。

「そっ、そうか。
では、そちらに頼んだ！
緊急の指示があったら、いつ何時でも連絡するように」

助かったという表情を見せる嫡男ちゃくなんに、彼らは複雑な気持ちになる。

「では、我々はこれにて失礼致します」

去っていく彼らを見送ると、１度大きな光が後ろから差して部屋を揺ゆらす。

「ドドッドッーカーン！」

「きゃあー！ぎゃあ、キャッ！」

雷鳴がする度に、屋敷にいる女性たちの悲鳴がセットになり響き渡る。
この声を聞く度に、イライラをして焦あせりだしてどうすればと爪を噛かむ。

『避暑地にいる父に報しらせるか』

しかし、この外の中に伝達に人を出すのは危険である。
椅子に座って、偵察後ていさつごの報告を待つしかなかった。

　 
　国王の定めた昼寝で、執務室のソファーに横になりうっかり寝落ちする。
バタバタと外から複数の阿汐とで目が開き、彼は席に戻ろうとした時にノックなしに部屋に現れた。

「若様、一大事でございます！
川が氾濫はんらんして、田畑まで被害が出始め出ます」

「なんだとー！
急ぎ下流に水を流せー！」

「無理でございます！
その前に、川を遮さえぎる大木たいぼくを退どかさなくてはなりません」

大木って？言っている意味が理解出来ずに、視線を報告を持ってきた人に再度尋たずねた。

「山火事で倒れた木々が、川の流れを塞き止めてるのです。
あの時に見回っておけば、見落とさなければ…」

バーンと机を叩き、彼は赤い顔をして責める者に逆に攻せめ立てた。

「私がやるなと言っても、見に行けば良かっただろう！
気の利かない者たちに、何を言ってもムダだけどな！」

「……、それよりもこの先をどうしますか！
貴方が休んでいる間、私たちは領地を見ていて報告したのです」

領民の為に我慢に我慢を重ねて、彼らは伯爵のボンクラ息子に話をする。

「大木を川から引き上げろ。
そして、下流に水を流すのだ」

「マイヤー伯爵領地に流す許可が要いります。
あれだけの水を一気に流しては、あちらにも迷惑でしょう」

また、机をドンドンと叩き蹴散けちらすように怒鳴る

「うるさい！
早く、言われた通りにするんだ！
早く行けー！！」

独りになると頭をかきむしり、止みそうもない雨を憎々しいかった。

　
　マイヤー伯爵の領地は、手紙で前もって水害に備えていた。
よって、慌てる事はなかった。

「思ったより、雨の水量は少ないな。
被害の報告は来ていないのか？
怪我人とか出てはいないか？」

他人を労う言葉に優しさを感じ、大丈夫ですとハッキリ伝える。

「ご安心をー。
それよりも…、ゴーダン伯爵の方はどうなってるか。
下流のこの地でこれだけ降って、山の上は大変な事になっているでしょう」

「少し様子を見に行くか。
領地の境までは、ちょっと険しいから歩きになるな」

雨の中を馬で駆けて、山道になると引いて歩くことになる。
ゴーダン辺境伯とは違い、マイヤー伯爵の嫡男は現地に赴おもむいた。

   着いた途端とたんに声を失う光景が、彼らの目の前に広がりを見せている。

「……、どうしたのだ？
木々が焦こげて、倒木が川の流れを止めている」

「燻くすぶっている臭においがします。
雷で山火事になったようです」

その木々を退けようと、男たちが力を合わせて押している。
マイヤー伯爵の人々も声をかけて一緒に手伝ってあげるのだった。

「有難い！人はいくらでも欲しかったのです。助かります」

お礼をいい名を尋ねると、伯爵の嫡男と聞き驚く。

『同じ伯爵の地位で、当主息子に世継ぎ。
でも器の差を感じ、マイヤー伯爵の領民が羨うらやましい』

けして口に出せない言葉を、彼らは心に留とどめていた。
甚大な被害になりそうである。
屈かかんでいた背中を丸めて、ゴーダン伯爵家の未来を作業しながら考えていた。
部下たちは、何だか体も心もすべてが辛くなってきた。