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第6章
10 悩ましい議題
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泣く妻を慰める夫、急かして話させるのは悪いと感じてアンゲロスは宿を探すと言って暇を告げて帰ろうとする。
「水くさいな、泊まってくれよ。
妻も、少ししたら落ち着く。
そうしたら、アンゲロスに話をしてくれるだろう?」
「グズ、ええ…。
取り乱してお恥ずかしいですわ。
若い頃を思い出すと、セリメーヌ様は素晴らしいお方でした。
二人は、それはお似合いでしたのに」
目元にハンカチで涙を拭いさると、夕食後にお話ししましょうとアンゲロスより先に夫人が席を立って側を離れた。
「夫人を泣かせてしまい、申し訳なかった。
泊まっていいのかい?」
「手紙を貰ってから、君を滞在させようと思っていたから気にする事はない。
感情的になったのだろう。
女性とはそんなもんだ」
馬車に乗り続けて、体が疲れていたので有り難かった。
彼が側に控えていた者に、馭者を中に入れて休ませるように申し出てくれる。
「有難い、実は急ぎ此方に来て疲れていたのだ。
君には、その理由を話したい。
聞いてくれるか!?」
「休まなくても良いのか?
後でも構わないぞ」
「色々あって忘れる前に話してしまいたいのだ。
迷惑だったか?」
首を振られたので、私は順序だてて話し出した。
話し終わったら、彼は興味深かったのか。
サンダース伯爵令嬢に、ぜひ会ってみたいと言い出す始末。
「セリメーヌ様が亡くなったのを隠して、伯爵夫人に仕立てあげたのか。
15年間も、よく騙し続けられたものだ」
変なところで感心されてしまい。
アンゲロスはどう返事をしようか悩むが、マティルダが王妃に伝えたから発覚した話に彼女に興味が沸いたのであろう。
「王妃も彼女の話を信じたのを知ると、二人の中には絆があると感じた。
妻の話を想像したら、この国もほっとく事は出来ない」
「彼女の出生は、まだ世に明かされていないだろう。
隠すべきか、報せるべきか。
近い未来、選択しないとならない」
私たちの会話はここで終わった。
夕食後に我々は、彼女の未来について話し合う。
マティルダ・サンダースはこの真実を聞き、どうするのだろう。
北にあるこの国は夜になるとヒンヤリと寒さで背筋がブルッとする。
アンゲロスは、その後に数時間寝て元気を取り戻していた。
「昼間は失礼しました。
セリメーヌ様とブライオン殿下とは、私は同世代でした。
今では彼は、王弟であり宰相閣下でしたわね」
公爵夫人は当時第3王子で気さくで自由な彼が、セリメーヌに好意を持っていたのは見ていて分かりやすい態度だった。
「セリメーヌ様は、女性の私が見ても綺麗なご令嬢でした。
青みかかった金髪で、透き通るアイスブルーの瞳。
微笑むと仄かに頬がピンクに染まると、誰しもが見とれるほどでした」
お似合いの二人でも、第3王子でも王族の彼と伯爵令嬢では婚姻は微妙である。
「二人きりでいる所は、見たことはありませんでした。
いつも大勢の中でも彼女は、大人しく静かにしていました」
「ほ~お、令嬢の中の令嬢のようですね。
そんな御方が身籠って他国に嫁ぐなんて、いったい何があったのだろうか?」
アンゲロスが素になって質問してしまうのは、夕食に出された年代物のワインのせいだ。
つい美味しくて飲み過ぎてしまった。
「戦のせいだ!
当時からキナ臭かった。
国王の妻は、武門の出の侯爵令嬢であらされる」
国王とは当時を指すのだろう。
短い期間で二人の王を失った。
「セリメーヌ様は、ブライオン殿下の将来を思い別れたのでしょう。
その時に結ばれたと思いますわ。下世話な話ですがー」
扇で顔を半分隠して、夫人は表情を見せないようにしていた。
恥じらいは、歳は関係ない。
「彼女は知っていて、サンダース伯爵に嫁いだのかは我らには知るよしもない。
天国でこの話を聞いているのかもな。
しかし、困ったし弱ったな」
夫婦は思ったより深刻になり、判断に苦慮しそうになる。
「お相手は王弟殿下ですもの。
知ってしまった秘密は、娘であるマティルダ様にお決めになられるのが1番ですわ。
この指輪の件だけは、彼女にお話されては如何でしょう」
「これを話したら、マティルダ嬢の存在を教えると同じだ」
夫人の返事にアンゲロスは、真意を述べて平行線になるのだった。
一晩寝たら良い案が浮かぶのか。
三人は、ここで話し合いをお開きにする。
「水くさいな、泊まってくれよ。
妻も、少ししたら落ち着く。
そうしたら、アンゲロスに話をしてくれるだろう?」
「グズ、ええ…。
取り乱してお恥ずかしいですわ。
若い頃を思い出すと、セリメーヌ様は素晴らしいお方でした。
二人は、それはお似合いでしたのに」
目元にハンカチで涙を拭いさると、夕食後にお話ししましょうとアンゲロスより先に夫人が席を立って側を離れた。
「夫人を泣かせてしまい、申し訳なかった。
泊まっていいのかい?」
「手紙を貰ってから、君を滞在させようと思っていたから気にする事はない。
感情的になったのだろう。
女性とはそんなもんだ」
馬車に乗り続けて、体が疲れていたので有り難かった。
彼が側に控えていた者に、馭者を中に入れて休ませるように申し出てくれる。
「有難い、実は急ぎ此方に来て疲れていたのだ。
君には、その理由を話したい。
聞いてくれるか!?」
「休まなくても良いのか?
後でも構わないぞ」
「色々あって忘れる前に話してしまいたいのだ。
迷惑だったか?」
首を振られたので、私は順序だてて話し出した。
話し終わったら、彼は興味深かったのか。
サンダース伯爵令嬢に、ぜひ会ってみたいと言い出す始末。
「セリメーヌ様が亡くなったのを隠して、伯爵夫人に仕立てあげたのか。
15年間も、よく騙し続けられたものだ」
変なところで感心されてしまい。
アンゲロスはどう返事をしようか悩むが、マティルダが王妃に伝えたから発覚した話に彼女に興味が沸いたのであろう。
「王妃も彼女の話を信じたのを知ると、二人の中には絆があると感じた。
妻の話を想像したら、この国もほっとく事は出来ない」
「彼女の出生は、まだ世に明かされていないだろう。
隠すべきか、報せるべきか。
近い未来、選択しないとならない」
私たちの会話はここで終わった。
夕食後に我々は、彼女の未来について話し合う。
マティルダ・サンダースはこの真実を聞き、どうするのだろう。
北にあるこの国は夜になるとヒンヤリと寒さで背筋がブルッとする。
アンゲロスは、その後に数時間寝て元気を取り戻していた。
「昼間は失礼しました。
セリメーヌ様とブライオン殿下とは、私は同世代でした。
今では彼は、王弟であり宰相閣下でしたわね」
公爵夫人は当時第3王子で気さくで自由な彼が、セリメーヌに好意を持っていたのは見ていて分かりやすい態度だった。
「セリメーヌ様は、女性の私が見ても綺麗なご令嬢でした。
青みかかった金髪で、透き通るアイスブルーの瞳。
微笑むと仄かに頬がピンクに染まると、誰しもが見とれるほどでした」
お似合いの二人でも、第3王子でも王族の彼と伯爵令嬢では婚姻は微妙である。
「二人きりでいる所は、見たことはありませんでした。
いつも大勢の中でも彼女は、大人しく静かにしていました」
「ほ~お、令嬢の中の令嬢のようですね。
そんな御方が身籠って他国に嫁ぐなんて、いったい何があったのだろうか?」
アンゲロスが素になって質問してしまうのは、夕食に出された年代物のワインのせいだ。
つい美味しくて飲み過ぎてしまった。
「戦のせいだ!
当時からキナ臭かった。
国王の妻は、武門の出の侯爵令嬢であらされる」
国王とは当時を指すのだろう。
短い期間で二人の王を失った。
「セリメーヌ様は、ブライオン殿下の将来を思い別れたのでしょう。
その時に結ばれたと思いますわ。下世話な話ですがー」
扇で顔を半分隠して、夫人は表情を見せないようにしていた。
恥じらいは、歳は関係ない。
「彼女は知っていて、サンダース伯爵に嫁いだのかは我らには知るよしもない。
天国でこの話を聞いているのかもな。
しかし、困ったし弱ったな」
夫婦は思ったより深刻になり、判断に苦慮しそうになる。
「お相手は王弟殿下ですもの。
知ってしまった秘密は、娘であるマティルダ様にお決めになられるのが1番ですわ。
この指輪の件だけは、彼女にお話されては如何でしょう」
「これを話したら、マティルダ嬢の存在を教えると同じだ」
夫人の返事にアンゲロスは、真意を述べて平行線になるのだった。
一晩寝たら良い案が浮かぶのか。
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