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第6章

9 指輪の持ち主

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   懐かしい友との熱い抱擁ほうようを交わし、歓迎されてサロンへ通された。
アンゲロス公爵は、公爵になる前若き頃この地に留学していたのである。

「最後に会ったのはいつ振りだろう。
久しぶりに、元気そうで安心したぞ。
アンゲロス!」

「君こそ、いつまでも若くって変わりがないな。
急に手紙を送り、こうして来てしまい。
申し訳なかったな」

アンゲロスが留学時代に気が合った友人で帰国してからも、時折会っては文通もする間柄あいだがらであった。

お茶を飲みながら、もう一度本人から詳しく話を聞く。
アンゲロスの手紙から、彼は大まかな事情は知っていた。

「サンダース伯爵に嫁いだ伯爵令嬢が、婚姻前にすでに身籠っていた。
その女性が大切に持っていた、指輪が気になるのだったな」

「ああ、亡くなるまで指輪を大事にしていた。
娘のマティルダ嬢は、指輪は父親が母親に贈ったと考えている」

アンゲロスは指輪の入った箱を取り出して、テーブルの上に置いふたを開けて見せた。
中には美しくも燦然さんぜんと輝く青い輝きに魅せられた彼は、自然と無意識に称賛しょうさんのため息を漏らした。

「これは、美しいな!
こんな素晴らしい指輪は見たことはない。
青い宝石だから、サファイアか!?
大きさもさることながら、回りのダイヤモンドやカットも手が込んでいる」

「これはサファイアではない。
ブルーダイヤモンドだと、私は思うがー。
専門家ではないが、サファイアとは違うように感じる」

「ダイヤモンドだと?
確かにダイヤモンドでも、赤や青はあるとは知っている。
だが、私はまだ見たことがない」

その返事に彼は指輪を知らないのだと、予想と違い肩透かたすかしをされてガッカリしかける。

「私は分からぬが、妻なら見たことがあるかもしれん。
何せ女は人の持ち物と比べては、男性にねだるのが好きだからな」 

ベルを鳴らし人を呼ぶと、公爵夫人をと頼んでいる。

『簡単には、持ち主は分からないか。
前の座る公爵には悪いが、誰か他の人をあたるか……』

お茶で彼は、のどの渇きをいやす。
少しすると公爵夫人の麗しい姿を目に留めると、立ち上がり訪問と挨拶を交わす。
夫人は遠くからでも、テーブルの上の指輪に興味を示していた。

「なあっ、話した通りだろう。
女性とはこんな生き物だ」

「まぁ、旦那様は何か私の悪口を仰ってましたの。
嫌なお方ですわ。ホホホ…」

「お前、座ってこの指輪をよく見てくれないか。
見覚えがあったら教えてくれ」

夫人は座ってから指輪に視線を向けると、たいそう驚き目を何度もまたたいた。

「この指輪はどうされたのです?
これはー、王弟殿下の失くされた指輪です。
王家所有のモノですわ」

「話は、噂で私も耳にした。
長男が王にお成りになり、次男は王太子。
三男は殿下として過ごしていた。
前王妃が特に可愛がっていた三男に、臣下になられる前にこれを譲られたのだったな」

「旦那様、それがこの指輪ですわ。
臣下になられても王族だった証として、王妃様が殿下に贈られた品なのです」

「わが国は今は落ち着いたが次々に不幸が訪れ、2代前の前の王が病になってから戦争が始まり……。
世継ぎであられたがご長男が戦で、病の前王も命を落とされてしまった」

隣国で親交があったとはいえ、いつ戦いが起こるかはわからない。

「王太子が、戦場で傷を追ってお亡くなり。
次男の王太子が代わりに戦に出ても、戦況は膠着状態こうちゃく状態。
三男も向かって戦い勝利を得たのは、我が国でも話題になったよ」

アンゲロスは重苦しい空気に接するように、自分もその話に加わる。
指輪の持ち主を探す話を公爵夫人にすると、急に暗い表情をして泣き出しそうになっているように感じた。

「指輪の裏に文字が刻印されていたわ。
確か……、「愛する君の証しに」だったような言葉でした」

アンゲロス公爵は、指輪の裏の刻印を見せると同じ言葉で一致していた。

「なんと!同じではないか!」

「第3王子ブライオン様の持ち物ですわ。
殿下の実の娘なら、未来のこの国の女王になられる可能性の御方です」

『そうか……、我が国とは違う。
王族の中で王に子がない場合、マティルダ嬢がー。
次期王になるのか!』
 
公爵夫人が思い出したかのように、泣きながら呟く言葉は永遠の幸せを願うものだった。
彼女は亡きサンダース伯爵夫人、セリメーヌ・サンダースの秘密を知っているのだとアンゲロスは確信した。


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