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第6章
5 二人の伯爵たち ①
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ピッキンって見えないマティルダの心の鏡に、不吉なヒビが入る音がする。
小さなメアリー王女が、マティルダに王のお言葉を伝言する侍従長の前に立って逆命令をする。
「マティルダは、これから私とお勉強をするのよ!
どうして、彼女を呼ぶの?
大人同士の話に、私の先生は必要ありませんわ」
「「「おーっ!」」」
3人は勇ましい王女に、思わず声を揃えた。
「メアリー王女殿下、お父上である国王陛下のご命令です。
わがままを言って、陛下を困らせてはいけませんよ」
小さな子に言い聞かすように、視線を合わせて侍従長が説得する。
『顔はにこやかだけど、瞳の奥底にある光るものが恐ろしい。
メアリー殿下は、これに気付いていないようだわ』
幼い彼女には、まだ読み取るのは難しいわ。
彼は王族ではないが、長年王宮内の隅々を知る者。
怒らせてはならない。
私がなんとかしなくては、彼の心証を悪くしてはいけない。
「分かりましたわ。
支度するお時間を下さい。
そうですね…、10分後に来てくださいませんか?」
「……!伯爵令嬢、5分です。
これ以上、陛下をお待たせ出来ません」
ギラッと瞳を光らせ、早くお連れしたい侍従長。
どうしても、時間が欲しいマティルダの駆け引きが始まった。
あれほど騒いでいたメアリーが怖じ気づき、二人の様子を見守っていた。
「では、7分でどうですか?!
ですから、部屋を出ていただけますか?」
一礼して彼が出ていくと、マティルダはつかさず喋りだした。
「お願いがあります!
ゴーダン辺境伯の隣の領地は、マイヤー伯爵でしたよね」
「ああ、そうだよ。
それがどうしたんだ?」
エドワード殿下は彼女の疑問に答えるが、それが今に関係あるのかと不思議がるのだった。
「急ぎ、マイヤー伯爵にお願いして下さい。
ゴーダン辺境領に雨が降りましたら、マイヤー伯爵領から辺境伯領地に水門を閉めて水を塞き止めて欲しいのです」
「はあ、何を言ってるのだ?」
エドワード王子は、彼女の意味不明な願いにワケわからなかった。
「ああ、マイヤー伯爵にお願いしよう。
君はー、ゴーダン伯爵を脅迫をするんだね」
「ええ、ちょっと前まで雨が降りませんでしたね。
風向きが変わり最近は、夜に雨が降るようになりました。
私が祈ったせいで、雨が降ったと皆様は思い込んでます」
「その時のお告げで、私からアドニスに後継ぎが交代になった。
そうか、それを信じさせるのか」
やっとマティルダのお願いを理解出来たエドワードだったが、そんなに上手くいくかと不安になる。
「これは、一か八かの賭けです。
少しでも、雨が降ってくれれば良いのですが……。
ですから、ゴーダン領に水の量を増やせる事が出来ればー。
相手は私を信じるでしょう」
それは諸刃の剣である。
「理解できるが、それではマイヤー伯爵の土地が水不足になる可能性があるぞ」
アンゲロス公爵令息ロバートは、危険な行為に釘をさす。
「ロバート様、どうにかなりますわ。
水が急に増せば、農作物に被害が出ます。
ゴーダン伯爵は焦り、マイヤー伯爵に水を流して良いか必ずや依頼してきます。
上流から、下流に水を流すしかないのですから」
この討議を盗み聞きしている人が、笑い声で中に入ってきた。
「ハハハ、よいぞ!
サンダース伯爵令嬢の願いを叶えよう。
ゴーダンの奴に、一泡食わせてやろうぞ」
話題にされていたマイヤー伯爵が、息子のジョージを連れ立ってくる。
「宜しいのですか?
マイヤー伯爵様、ご迷惑ではありませんか?」
「おやっ、強気から弱気発言ですか。
辺境伯爵だからって、祖先から好き勝手にされてましてな。
やり返す機会がありませんし、貴女に手を御貸ししますよ」
やる気満々で意地の悪い顔をされて、後ろにいるジョージ様は首を傾げて笑っている。
「馬を飛ばしても、間に合うかはどうか。
マイヤー伯爵様には、無駄になりそうで申し訳ないですわ」
「鷹を飛ばそう。
遠出をする時は、必ず鷹を連れて来てるんだぞ。
ワァーハハハ」
一人部屋の中で、バカ笑いして自慢げに仰るマイヤー伯爵様。
一緒に笑いたくなるが、我慢してマティルダはお礼を言うので必死だった。
すぐにマティルダにとって、憂鬱な話し合いが始まる前のほんの安らぎである。
小さなメアリー王女が、マティルダに王のお言葉を伝言する侍従長の前に立って逆命令をする。
「マティルダは、これから私とお勉強をするのよ!
どうして、彼女を呼ぶの?
大人同士の話に、私の先生は必要ありませんわ」
「「「おーっ!」」」
3人は勇ましい王女に、思わず声を揃えた。
「メアリー王女殿下、お父上である国王陛下のご命令です。
わがままを言って、陛下を困らせてはいけませんよ」
小さな子に言い聞かすように、視線を合わせて侍従長が説得する。
『顔はにこやかだけど、瞳の奥底にある光るものが恐ろしい。
メアリー殿下は、これに気付いていないようだわ』
幼い彼女には、まだ読み取るのは難しいわ。
彼は王族ではないが、長年王宮内の隅々を知る者。
怒らせてはならない。
私がなんとかしなくては、彼の心証を悪くしてはいけない。
「分かりましたわ。
支度するお時間を下さい。
そうですね…、10分後に来てくださいませんか?」
「……!伯爵令嬢、5分です。
これ以上、陛下をお待たせ出来ません」
ギラッと瞳を光らせ、早くお連れしたい侍従長。
どうしても、時間が欲しいマティルダの駆け引きが始まった。
あれほど騒いでいたメアリーが怖じ気づき、二人の様子を見守っていた。
「では、7分でどうですか?!
ですから、部屋を出ていただけますか?」
一礼して彼が出ていくと、マティルダはつかさず喋りだした。
「お願いがあります!
ゴーダン辺境伯の隣の領地は、マイヤー伯爵でしたよね」
「ああ、そうだよ。
それがどうしたんだ?」
エドワード殿下は彼女の疑問に答えるが、それが今に関係あるのかと不思議がるのだった。
「急ぎ、マイヤー伯爵にお願いして下さい。
ゴーダン辺境領に雨が降りましたら、マイヤー伯爵領から辺境伯領地に水門を閉めて水を塞き止めて欲しいのです」
「はあ、何を言ってるのだ?」
エドワード王子は、彼女の意味不明な願いにワケわからなかった。
「ああ、マイヤー伯爵にお願いしよう。
君はー、ゴーダン伯爵を脅迫をするんだね」
「ええ、ちょっと前まで雨が降りませんでしたね。
風向きが変わり最近は、夜に雨が降るようになりました。
私が祈ったせいで、雨が降ったと皆様は思い込んでます」
「その時のお告げで、私からアドニスに後継ぎが交代になった。
そうか、それを信じさせるのか」
やっとマティルダのお願いを理解出来たエドワードだったが、そんなに上手くいくかと不安になる。
「これは、一か八かの賭けです。
少しでも、雨が降ってくれれば良いのですが……。
ですから、ゴーダン領に水の量を増やせる事が出来ればー。
相手は私を信じるでしょう」
それは諸刃の剣である。
「理解できるが、それではマイヤー伯爵の土地が水不足になる可能性があるぞ」
アンゲロス公爵令息ロバートは、危険な行為に釘をさす。
「ロバート様、どうにかなりますわ。
水が急に増せば、農作物に被害が出ます。
ゴーダン伯爵は焦り、マイヤー伯爵に水を流して良いか必ずや依頼してきます。
上流から、下流に水を流すしかないのですから」
この討議を盗み聞きしている人が、笑い声で中に入ってきた。
「ハハハ、よいぞ!
サンダース伯爵令嬢の願いを叶えよう。
ゴーダンの奴に、一泡食わせてやろうぞ」
話題にされていたマイヤー伯爵が、息子のジョージを連れ立ってくる。
「宜しいのですか?
マイヤー伯爵様、ご迷惑ではありませんか?」
「おやっ、強気から弱気発言ですか。
辺境伯爵だからって、祖先から好き勝手にされてましてな。
やり返す機会がありませんし、貴女に手を御貸ししますよ」
やる気満々で意地の悪い顔をされて、後ろにいるジョージ様は首を傾げて笑っている。
「馬を飛ばしても、間に合うかはどうか。
マイヤー伯爵様には、無駄になりそうで申し訳ないですわ」
「鷹を飛ばそう。
遠出をする時は、必ず鷹を連れて来てるんだぞ。
ワァーハハハ」
一人部屋の中で、バカ笑いして自慢げに仰るマイヤー伯爵様。
一緒に笑いたくなるが、我慢してマティルダはお礼を言うので必死だった。
すぐにマティルダにとって、憂鬱な話し合いが始まる前のほんの安らぎである。
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