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第5章
26 夏の日の思い出
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流れる度に拭くのが面倒になった彼は、メアリー王女の小さな形の鼻を摘まむとチーンとする。
笑って自分でしろとロバートが、呆れてハンカチーフを鼻に押し付けるように渡した。
「プーッ、あーははは!
エドワードと、やっぱり似たところあるな」
兄のエドワードの名前に反応して、そんなに似ていないと膨れっ面してみせる。
茶化すと、すぐに反応する分かりやすい性格。
貴族の裏表で気取った人ばかりの中で、エドワード殿下はそんなことがなく彼は好きだった。
「その顔、似てる似てる!
思い込みが激しくて、世話やけるのがー。
ハハハ…、あぁ腹が痛い」
こんなに他人に笑われるのは、最近はマティルダだけだった。
「ロバート様って……。
マティルダになんかー。
似てるね」
「えっ、サンダース伯爵令嬢?
ふう~ん、そうかい?」
言われてみて彼女の言動を思い出して、言われてみればと納得するか微妙な顔をしてしまう。
「うん、突然飽きてきて突き放すところがー。
優しいけど後は自分で何とかしろって、まぁ他人はここまでしか出来ないもんね」
ギャンギャン泣かないだけ、結構大人じゃんと感心していた。
じっと目を赤くしている王女を、首をちょっぴり傾げて腕を組んで見る。
やがて夕暮れになりかかる夏空を、彼女から目を離してから遠い目をして眺めた。
「父が隣国へ行った」
「アンゲロス公爵様が、隣国ってー。
もしかしたら……」
上から下に目線を向けて、ニッと笑って明るく話し出す。
「マティルダ嬢の父親を探しに行ったんだ。
俺はー。
俺は彼女の親は、結構大物だと思うんだ。
彼女の頭の賢さから、変なご両親から産まれたとは思わんからな」
偉そうな態度に、今度はメアリーが吹き出し笑いをする。
「プッふふふ……、偉そうね。
私の方が、貴方より身分高くて偉いのよ。
マティルダもロバート様も、私を王女と思ってないでしょう。
そんなところ、私は好きよ!」
好きって思いっきり言われて、彼は顔を赤くした。
ちょうど、夕陽が顔を照らし助かった。
メアリーも同じようで、自分の言葉に心臓を驚かせていた。
ドキドキ高鳴って、二人は顔が熱くなってゆく。
夕暮れの庭に夏の白薔薇が二人を見ていて恥ずかしくなり、夕陽で浴びてピンクの薔薇になったように変化した。
「私が大人になったら、マティルダが困っていたら助ける。
アドニスお兄様もそうだけど、同姓の女性の方が助けやすいわ」
「まだ爵位を継いでないが、いつか身分を得れば弱い者を助けられる。
マティルダ嬢だけでない。
これは、高い身分を持つ者の義務でもあるんだよ」
「お母様も仰っていたわ。
孤児院に慰問に行ったりしていた。
家族がいないなんて、可哀想だなって思ったの」
両親が揃っているだけで幸せに感じたと、メアリーはロバートに伝えて意見交換をした。
「そろそろ、外が暗くなってきました。
城の中へ戻りましょうか?
メアリー王女殿下、お手をどうぞ!」
『意地悪でもあり、こんな風に紳士みたいに優しかったり。
よく分かりにくい方だわ』
兄の親友だから安心できると、彼女は心を開きかける。
「ロバート様、話を聞いて下さり有り難うございます。
これからも相談事がありましたら、しても宜しいかしら?」
普段の彼女と違い遠慮がちな態度に、好感を感じていた彼は笑顔で応じた。
「もちろんですよ。
こうして、素直に意見が言える相手は貴重です」
差し出された大きなロバートの手に、メアリーは自分の小さな手を乗せた。
重なり合う手に互いの温もりを感じて、また顔を赤くするメアリー。
その感情が何を指すのかは、まだ導き出せていない。
手を繋ぎ歩く二人にとって、この夏の夕暮れは特別な思い出になるのだった。
笑って自分でしろとロバートが、呆れてハンカチーフを鼻に押し付けるように渡した。
「プーッ、あーははは!
エドワードと、やっぱり似たところあるな」
兄のエドワードの名前に反応して、そんなに似ていないと膨れっ面してみせる。
茶化すと、すぐに反応する分かりやすい性格。
貴族の裏表で気取った人ばかりの中で、エドワード殿下はそんなことがなく彼は好きだった。
「その顔、似てる似てる!
思い込みが激しくて、世話やけるのがー。
ハハハ…、あぁ腹が痛い」
こんなに他人に笑われるのは、最近はマティルダだけだった。
「ロバート様って……。
マティルダになんかー。
似てるね」
「えっ、サンダース伯爵令嬢?
ふう~ん、そうかい?」
言われてみて彼女の言動を思い出して、言われてみればと納得するか微妙な顔をしてしまう。
「うん、突然飽きてきて突き放すところがー。
優しいけど後は自分で何とかしろって、まぁ他人はここまでしか出来ないもんね」
ギャンギャン泣かないだけ、結構大人じゃんと感心していた。
じっと目を赤くしている王女を、首をちょっぴり傾げて腕を組んで見る。
やがて夕暮れになりかかる夏空を、彼女から目を離してから遠い目をして眺めた。
「父が隣国へ行った」
「アンゲロス公爵様が、隣国ってー。
もしかしたら……」
上から下に目線を向けて、ニッと笑って明るく話し出す。
「マティルダ嬢の父親を探しに行ったんだ。
俺はー。
俺は彼女の親は、結構大物だと思うんだ。
彼女の頭の賢さから、変なご両親から産まれたとは思わんからな」
偉そうな態度に、今度はメアリーが吹き出し笑いをする。
「プッふふふ……、偉そうね。
私の方が、貴方より身分高くて偉いのよ。
マティルダもロバート様も、私を王女と思ってないでしょう。
そんなところ、私は好きよ!」
好きって思いっきり言われて、彼は顔を赤くした。
ちょうど、夕陽が顔を照らし助かった。
メアリーも同じようで、自分の言葉に心臓を驚かせていた。
ドキドキ高鳴って、二人は顔が熱くなってゆく。
夕暮れの庭に夏の白薔薇が二人を見ていて恥ずかしくなり、夕陽で浴びてピンクの薔薇になったように変化した。
「私が大人になったら、マティルダが困っていたら助ける。
アドニスお兄様もそうだけど、同姓の女性の方が助けやすいわ」
「まだ爵位を継いでないが、いつか身分を得れば弱い者を助けられる。
マティルダ嬢だけでない。
これは、高い身分を持つ者の義務でもあるんだよ」
「お母様も仰っていたわ。
孤児院に慰問に行ったりしていた。
家族がいないなんて、可哀想だなって思ったの」
両親が揃っているだけで幸せに感じたと、メアリーはロバートに伝えて意見交換をした。
「そろそろ、外が暗くなってきました。
城の中へ戻りましょうか?
メアリー王女殿下、お手をどうぞ!」
『意地悪でもあり、こんな風に紳士みたいに優しかったり。
よく分かりにくい方だわ』
兄の親友だから安心できると、彼女は心を開きかける。
「ロバート様、話を聞いて下さり有り難うございます。
これからも相談事がありましたら、しても宜しいかしら?」
普段の彼女と違い遠慮がちな態度に、好感を感じていた彼は笑顔で応じた。
「もちろんですよ。
こうして、素直に意見が言える相手は貴重です」
差し出された大きなロバートの手に、メアリーは自分の小さな手を乗せた。
重なり合う手に互いの温もりを感じて、また顔を赤くするメアリー。
その感情が何を指すのかは、まだ導き出せていない。
手を繋ぎ歩く二人にとって、この夏の夕暮れは特別な思い出になるのだった。
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