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第5章
23 優しい天使たち
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泥沼に入り這いあがりたいが、ますます底なし沼の中でもがいてる気分だ。
『まさか自分がー。
サンダース家の血が、一滴も流れてなかったなんて……。
私が、疎外されるのは当たり前よ。
アリエールこそが、伯爵を継ぐのが相応しい!』
ベッドの上で寝転び横になり、頭の中で整理する。
でも、まだ信じられない。
部屋を遠慮がちにノックされて、ベッドから重い体を起こして扉を開けた。
「体調が悪いって、マティルダ大丈夫!?」
「何か食べないとダメだよ。
消化のよいスープを持ってきた。
一口でも食べてから、寝た方がよく寝れるよ」
年下の教え子にこんな顔をさせてしまって、私ってダメダメな先生ね。
「メアリー、アドニス。
ありがとうございます」
御二人のはにかんだ笑みが、重かった体が軽くなる。
部屋に呼び寄せて、マティルダは食事を頂くことにした。
一口暖かなスープを飲むと、そこからファーっと元気が広がる。
なぜかドス黒いモノが、スーッと消えて失くなり心が明るくなる。
「美味しい、美味しいです。
こんなに、美味しいスープを飲むのは初めてですわ」
美味しいのを連発するマティルダ姿に、年下の2人は喜び嬉しげだった。
「皆としていた話し合い、ずいぶんと長かったね。
正直、気になっているんだ」
アドニスは回りくどい言い方は苦手みたいで、直接的な物言いだが不思議に嫌な感じを受けない。
それは生まれもった美徳だと、彼の真剣な瞳と目があった。
「出てきた人たちは暗い雰囲気だったし、マティルダの歩く足はいつもと違っていた。
良い話し合いじゃなかったと、私たちマティルダが心配だったの」
こちらは相変わらず、可愛らしい性格をしている。
彼女の場合、誤解を受けやすいがこうして分かるといい子だ。
学園に通っている中で、親友と呼べる同じ位の人が出来るのを願う。
「御二人に聞いて欲しいとは思ってます。
聞いていて楽しくない。
それ以上に、暗く不愉快になるでしょう」
「まだ年下のせいで早いとか、気遣うのはやめて貰いたいな。私たちは王族で、普通の子供とは一線ひいているから安心だ」
「そんな事は考えていません。話してしまって、今の私みたいな気持ちになっては申し訳ないと。自分のことですからー」
「ここまで知っていて、モヤモヤしてるのよ。ここがー。
今治聞いてあげらる事しか出来ないけど、マティルダの心に寄り添いたいと思っている」
メアリーの言葉は、彼女の胸に優しさに染みてきていた。
天使たちに懺悔する罪人の様な気になり、彼女は言葉を選びゆっくりと語る。
「私はー、サンダース伯爵の子ではなかったの。
こんな話はしたくなかったわ。
やっぱり、これ以上はしない方がいいかしら?」
マティルダは自問自答をして、話を続けるのをアドニスは気にするなとタイミングをみて間に挟んでくる。
『両親に好かれてなかった理由が、どちらの子でなかったなんて。
母親は違うっていうのは知っていたけど、父親もだなんてー』
メアリーは、もし自分がそうだったらと自分に置き換えてみる。
私なら泣きわめいてしまうかも。
マティルダを励ましたいけど、どう言えばいいのか分からない。
「落ち着いては無理だよね。
私は、マティルダが居るだけでいいんだ。
お母様とお父様がいたから、ここに君がいるんだ」
「アドニス殿下ー」
年下年下と言って、殿下に1番大切な事を教わった。
お母様は自分を犠牲に私を産んでくれたから、こうして私は生きているんだよね。
「はい、生まれてきて良かった。
アンゲロス公爵様が隣国の貴族を頼って、父を探してくれるようです。
突然娘がいるかもって言われたら、相手の方に迷惑かもしれません」
「マティルダと会ったら、そんなことは思わないと思う。
本当の親に会いたくないの?」
彼女の素直な質問に、自分はどうしたいのだろうと分からなくなってきた。
「拒絶されたらと考えたら。
会いたいのかどうかすら分からない。
父は私の存在すら、知らないのです」
「君が生まれたのを喜んでくれて、会ってくれたらいいな。
それが叶わなくても、私たちがいるから」
「アドお兄様…。私たちは話を聞いて慰めるしか出来ないけど…。
そんな事ない!違うわ!
きっと、マティルダのお父様なら会ってくれるわよ!」
「ええ、もしお会いする機会があったら母の話を聞きたいわ。
お父様とお母様の出会いとか、どんな方だったのか」
小さな優しき天使たちに励まされて、彼女は心が温かくポカポカくる。
室内は蒸してムシムシしていたが、どうやらまた雨が降り出してきた。
マティルダが雨乞いをしてから、雨が降る日が増えてきた。
不思議に夕方から夜の間に降り続き、朝には晴れていたので農民たちは喜んでいたそうだ。
彼女の実の父親は見つかるのだろうか。
三人は、同時にそう考えていた。
『まさか自分がー。
サンダース家の血が、一滴も流れてなかったなんて……。
私が、疎外されるのは当たり前よ。
アリエールこそが、伯爵を継ぐのが相応しい!』
ベッドの上で寝転び横になり、頭の中で整理する。
でも、まだ信じられない。
部屋を遠慮がちにノックされて、ベッドから重い体を起こして扉を開けた。
「体調が悪いって、マティルダ大丈夫!?」
「何か食べないとダメだよ。
消化のよいスープを持ってきた。
一口でも食べてから、寝た方がよく寝れるよ」
年下の教え子にこんな顔をさせてしまって、私ってダメダメな先生ね。
「メアリー、アドニス。
ありがとうございます」
御二人のはにかんだ笑みが、重かった体が軽くなる。
部屋に呼び寄せて、マティルダは食事を頂くことにした。
一口暖かなスープを飲むと、そこからファーっと元気が広がる。
なぜかドス黒いモノが、スーッと消えて失くなり心が明るくなる。
「美味しい、美味しいです。
こんなに、美味しいスープを飲むのは初めてですわ」
美味しいのを連発するマティルダ姿に、年下の2人は喜び嬉しげだった。
「皆としていた話し合い、ずいぶんと長かったね。
正直、気になっているんだ」
アドニスは回りくどい言い方は苦手みたいで、直接的な物言いだが不思議に嫌な感じを受けない。
それは生まれもった美徳だと、彼の真剣な瞳と目があった。
「出てきた人たちは暗い雰囲気だったし、マティルダの歩く足はいつもと違っていた。
良い話し合いじゃなかったと、私たちマティルダが心配だったの」
こちらは相変わらず、可愛らしい性格をしている。
彼女の場合、誤解を受けやすいがこうして分かるといい子だ。
学園に通っている中で、親友と呼べる同じ位の人が出来るのを願う。
「御二人に聞いて欲しいとは思ってます。
聞いていて楽しくない。
それ以上に、暗く不愉快になるでしょう」
「まだ年下のせいで早いとか、気遣うのはやめて貰いたいな。私たちは王族で、普通の子供とは一線ひいているから安心だ」
「そんな事は考えていません。話してしまって、今の私みたいな気持ちになっては申し訳ないと。自分のことですからー」
「ここまで知っていて、モヤモヤしてるのよ。ここがー。
今治聞いてあげらる事しか出来ないけど、マティルダの心に寄り添いたいと思っている」
メアリーの言葉は、彼女の胸に優しさに染みてきていた。
天使たちに懺悔する罪人の様な気になり、彼女は言葉を選びゆっくりと語る。
「私はー、サンダース伯爵の子ではなかったの。
こんな話はしたくなかったわ。
やっぱり、これ以上はしない方がいいかしら?」
マティルダは自問自答をして、話を続けるのをアドニスは気にするなとタイミングをみて間に挟んでくる。
『両親に好かれてなかった理由が、どちらの子でなかったなんて。
母親は違うっていうのは知っていたけど、父親もだなんてー』
メアリーは、もし自分がそうだったらと自分に置き換えてみる。
私なら泣きわめいてしまうかも。
マティルダを励ましたいけど、どう言えばいいのか分からない。
「落ち着いては無理だよね。
私は、マティルダが居るだけでいいんだ。
お母様とお父様がいたから、ここに君がいるんだ」
「アドニス殿下ー」
年下年下と言って、殿下に1番大切な事を教わった。
お母様は自分を犠牲に私を産んでくれたから、こうして私は生きているんだよね。
「はい、生まれてきて良かった。
アンゲロス公爵様が隣国の貴族を頼って、父を探してくれるようです。
突然娘がいるかもって言われたら、相手の方に迷惑かもしれません」
「マティルダと会ったら、そんなことは思わないと思う。
本当の親に会いたくないの?」
彼女の素直な質問に、自分はどうしたいのだろうと分からなくなってきた。
「拒絶されたらと考えたら。
会いたいのかどうかすら分からない。
父は私の存在すら、知らないのです」
「君が生まれたのを喜んでくれて、会ってくれたらいいな。
それが叶わなくても、私たちがいるから」
「アドお兄様…。私たちは話を聞いて慰めるしか出来ないけど…。
そんな事ない!違うわ!
きっと、マティルダのお父様なら会ってくれるわよ!」
「ええ、もしお会いする機会があったら母の話を聞きたいわ。
お父様とお母様の出会いとか、どんな方だったのか」
小さな優しき天使たちに励まされて、彼女は心が温かくポカポカくる。
室内は蒸してムシムシしていたが、どうやらまた雨が降り出してきた。
マティルダが雨乞いをしてから、雨が降る日が増えてきた。
不思議に夕方から夜の間に降り続き、朝には晴れていたので農民たちは喜んでいたそうだ。
彼女の実の父親は見つかるのだろうか。
三人は、同時にそう考えていた。
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