【完結】すべては、この夏の暑さのせいよ! だから、なにも覚えておりませんの

愚者 (フール)

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第5章

17 伯爵家の秘密 ③

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  偽りのサンダース伯爵夫人は、実行犯に一緒にここにいる若いメイドに罪をなすりつけるつもりでいた。
平民の彼女なら、何を言っても信じる者はいない。

『そう、私はもう平民じゃない。
サンダース伯爵の妻よ!
どちらを信じるって、貴族の私に決まっているわ』

心で唱えた彼女は、昔自分も平民だった頃の気持ちを忘れてしまっていた。

「その男性は昔の奥様にしたおんで、おどしてお金をタカっているんですか?」

「そうなのよ。
隣国から嫁ぐ時に、隣の領地で風邪をひいてしまったの。
その時に、彼の家族に助けて頂いたわ。
お礼はしたのに、ここで偶然会ったら……。
また、ねだってきたのよ」

困ってため息ばかりする夫人の言葉を、信じきり気の毒になっていた。

「憲兵に訴えたら如何いかがですか?
お金の無心むしんをする。
その人が悪いんですから!」

「…、それでね。
お金は、今回だけは出そうと思ってます。
これきりにして欲しい。
ここに便秘薬があるの。
あんな目にあってから、旅すると必ず薬を常備しております」

夫人の言ってることに、即座に反応して愉快そうな表情をした。

「ふふふ、その薬を飲ませて仕返しするのですね。
奥様、なかなか面白そうですわ」 

「貴女もそう思うでしょう。
ねっ、手伝ってくれない?
私が彼と話している時に、これをワインに混ぜてくれる?」

下痢げりくらいならと、メイドは気さくに薬を受け取ってしまう。
カーラが彼女に、わなをかけた瞬間であった。

『純粋で可愛らしい娘さん。
私のために一生懸命になってくれて、なんて良い子だわ』

時に人は、ここまでに裏表を変えるのが可能なのか…。

「ねえ~、もしもあの男がお金を受けとる前に始末しまつしてくれたら、貴女にこのお金をお礼にあげる」

「始末!?
ああ、下痢にさせる事ですよね」

微笑んで、一言も言わない。
だって、答えたら貴女が勘違いを疑うでしょうからー。

夕食は三人で楽しく食べて、男は手にする金が嬉しいみたいでご機嫌で過ごす。

「ワインの追加をしましょう。
偶然の再会に乾杯しません?!」

「私がワインをそそぎますわ。
お二人は用意するまで、昔の話に花を咲かして下さい」

目で合図を送り、彼に友人の近況を質問してワインに興味をらす。

「そういえば、彼女とは婚姻したの。
仲良かったから、当然よね」

「したよ、君と違って苦労さしている。
ここで君と出会えて、彼女を妻を幸せにできるだろう。
なぁ、カ……」

現在、伯爵夫人の彼女はその名前をいって欲しくなかった。
止めようとした時にー。

「はい、ワインです!
三人で良かったら、乾杯でもしましょう。
どうですか、奥様?!」

「まぁ、いいわね!
偶然の出会いにー!」

グラスを軽く前に捧げると、知らない男性の声が近くから聞こえてきた。

「そこまでですよ、カーラ。
ワインに、何を入れてたのですかな」

ビックと肩を動かすと、右手で男のワイングラスを叩いて落とそうとしていた。
その手は動かせなく、背後にいた人に腕をひねられている。

「ダメですよ。
証拠を無くそうとするのはー。
サンダース伯爵夫人、偽物の伯爵夫人!」

震える体に声で、異常に否定する。

「私はサンダース伯爵夫人よ!
私はカーラじゃない、偽物じゃない!
16年間も、伯爵夫人しているわ!」

「ワインの成分を調べろ!
何も入ってなければ、罪人ではない。
そうだろう?」

強張る顔つきで、彼女は知らない男たちをにらむしかない。

「…………、何も入ってないわ!
奥様、そうで御座いますよね」

「…………」、無言で真っ青な顔色はなっていった。

静かな食堂で沈黙が流れる。
彼女の瞳から、涙が次々に落ち始めた。

「お、奥様…。ウソでございましょう。
ウソと仰って下さいませ!」

「……、今は何も言えないわ」

古い薬で、成分は出ないかも知れない。
この薬は、きっと毒は出ないわ。
だから、何も話さない。

『悪いのはこの男、金をせびったからいけないのよ。
カーラ、何故?
それより、昔の名を知らない人たちに呼ばれたの?』

「さあ、立ってくれないか。
会いたかった人に、会わせてやるぞ。
愛する娘、アリエール嬢に会いたかったんだろう。
さぁ、行こうか」

ガタンと椅子から立ち上がり。
後ろ手に縄をー。
この私が、罪人のように扱われる。

『伯爵夫人の私が…、どうして!?』

「まっ、待って下さい。
違うんです!
入れたのは、私です。
これは、ただの便秘薬。
ちょっと困らせようと思ったのです。
すみませんでした」

主人をかばうメイドの鏡、平民の立場でも不敬であるが真実の内容を告白する。

「ただの便秘薬なら、注意する位だろう。
ただの……、腹下しならな!」

「お、奥様!薬は便秘薬で、だから量を多くして……。
便秘薬とは違うんですか!
私をー、私をだましたんですか?!」

メイドは主人の伯爵夫人を思って罪を犯したのに、私に罪を擦り付けようとしたとここで知った。

「……、これは便秘薬です。
どうして、私が人を殺める薬なんて!
そんなの使わないわ。
何で、危険な事をしなくてはならないのよ!
私はー、私はそんなバカじゃないわよ!」

平民に生まれて、奇跡的に貴族の彼に会った。
そして、彼に愛された。
それだけ……。何が悪いの…。

縄で括られた両手を引っ張られて、抵抗して荒々しく宿を出て行く。
もうすぐ、伯爵夫人で失くなる女の姿をその場にいた者は見ていた。











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