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第5章

11 愚かな母と妹

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   父が娘アリエールに会いに行くために、サンダース伯爵の屋敷を出発した朝。
妻の伯爵夫人も従事している荷馬車の後ろに、メイドと2人で乗っていた。

「奥様、辛くないですか。
荷馬車での移動で、貴族の伯爵夫人なのに」

「平気よ。
それより、貴族だと分かるような呼び方をしないでくれる?!」

声を小さくして、平民が着るシンプルな綿の服。
メイドが気を配って、自分と体型が似ているので用意してくれた。

「はい、すみません。
それより、私の服で申し訳ありません。
時間がありませんでしたからー」

「それはいいから、助かったわ。
この服の代金よ。
受け取って頂戴ね」

てのひらの中に渡されたのは、平民が滅多めったに見たことない金貨だった。

『これは多すぎる。
口止めのお金も含まれているみたい』

「お、奥様。多いです」

「いいのよ。 
これは気持ちだから…」

ニッコリと微笑む顔を見て、私は伯爵夫人を少し怖く感じた。
この先、何が起こるのか。
荷馬車の激しく揺れる中、メイドは別な意味で馬車酔いをしそうになりそうだった。

   
    両親が妹の所へ向かっているのを知らない、姉のマティルダ。

私の夢を信じてくれたアンゲロス公爵令息が、彼に頼んで妹アリエールを救いに行ってくれた彼がいた。

「マイヤー伯爵令息ジョージ様。
私の妹のためにご足労そくろうをおかけしました。
あのう、感謝致します」

マティルダは、彼にどうお礼を言ったら良いか戸惑とまどう。
朝一番、公爵令息が部屋に来訪し数時間後ここで会っていた。

部屋の中には夢の話をして時にいた2人と、妹の現状を知るマイヤー伯爵令息。
エドワード王子も、この場にいらっしゃるのは 分かります。

何で、アドニス王子がしれっと座っているのでしょうか。
マティルダは失礼だと思うが、彼をジロッと見てしまっている。

「マティルダ、そんなに見ないでくれ。照れるよ」

「へっ、何で照れるのですか?
アドニス殿下、どうして座っていますの?」

そこに話を割ってくるアドニスの兄エドワードは、この部屋に入ろうとしたら入って来てしまったと謝罪する。

「すまないと思っている。
アドニスが君の事を心配しているんだ。
もしかしたら、この事が役立つ日が来るしれないよ」

「アドニス殿下が来てしまって、この場にいるのですから仕方しかたありません」

身分が高い方に向かって、この場から出ていけとは言えない。
ムッとして、あきらめの局地きょくちになるしかなかった。

「ごめんね、マティルダ。
怒っている、怒っているよね?!」

「妹の話はしてあったので、別に気にしないし怒ってません」

二人が互いに納得した時点で、マイヤー伯爵令息が妹と私の婚約者の報告をする。
引っかかる私の婚約者の立場。
皆さんが、自分の事情をご存じで心強い。

「じゃあ、報告をするよ。
気分が悪くなったら、部屋から出て行ってくれて構わない。
胸くそ悪い内容で、話さなくてはならない俺も辛いんだ」

聞く前から4人に絶句状態になり、マティルダにいたっては苦い顔を隠そうとしない。
前半は、妹と婚約者の旅の道順だった。
これは大体は手紙でしっていたが、詳しく人から聞かされると現実味があった。

『話を聞いてるだけで自分が、その馬車に揺られている気分になるわ。
山火事か雨降らないから、乾燥かんそうしている』

そう思ってはまだ降り続く、窓の外から聴こえる雨の音を耳にした。

「妹さんは、随分ずいぶん早く実家に帰りたかったみたいだね。
すぐさま馭者ぎょしゃに、別の道からの帰りたいと言っていたのそうだ」

「その道は、くねくね山道で上り坂ですよね。
あの道を通る度に命がけ!
馬車の中でお祈りもして、心臓もドキドキほどです」

彼女の体験談にマイヤー伯爵令息だけが、道の説明に何度もうなづいてくれる。
二人だけが、これを分かりあえていた。

「最悪なのは、ベテランの馭者が断った事だ!
そして、暇していた馭者が金欲しさに受けてしまった。
腕は普通だが、馬がー。
馬が年を取っていたのだった。
これ、なかなか最悪だろう」

もうマティルダは、両手で顔を隠して下を向いてしまう。
彼女はその道の恐ろしさに、体が無意識に震えそうになる。

「バカだバカだと思っていたが、ハロルドもアリエールを止めないなんて!」

「マティルダ、大丈夫?!」

勢いよく顔をマイヤー伯爵令息ジョージに、彼は彼女の形相ぎょうそうに顔がひきつる。

「ハハハ、その顔は怖いよ。
えーっ、続き話していい?」

マティルダに代わり、エドワード王子がジョージに先をうながした。

この先に、もっともっと酷い話が続く。
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