【完結】すべては、この夏の暑さのせいよ! だから、なにも覚えておりませんの

愚者 (フール)

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第5章

9 兄からの激励

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   弟の肩に手を置いて目を細めて、まるでこれから宜しくなっていう態度で表していた。
生まれてから決められた、重石になっていた国王という責務せきむがなくなる。

「アドニス、本当にいいのか」

「兄上こそ、今までの頑張りが無駄になるんだよ。
この先、後悔をしないと言えるかい?」

兄エドワードは「ああ」と、短く返事をしてくれた。
場所を代えて二人きりになって、再度確認し合っていた。

「今頃は教会と王家から、私からアドニスに次期王になる布告をするだろう。
立場が逆転するが、私たちのきずなは変わらない。
アドニス、そうだろう?」

「エド兄様、当たり前だよ。
どんな事が起きようと、血の繋がった家族だ。
他人だけが騒いで、好き勝手言うんだ。
うるさくて面倒くさいね」

会話を盗み見するつもりはないが、アンゲロス公爵令息ロバートが歩き近づく。

「おめでとうでいいのかなぁ。
エドワード、アドニス殿下」

「ロバート・アンゲロス公爵令息!
ああ、君にも今までのお礼を言わせてくれ。
ありがとう、それと済まない」

アンゲロス公爵令息は目を大きくして、次に微笑んでみせた。

「エドワード殿下、お疲れ様でした。
君と共に国をみちびくと思っていたよ。
だから、少しだけ寂しい想いはある」

アドニスは、2人のやり取りを見ていて辛かった。
自分が、この2人の仲をいてしまうかと思ったからだ。

「気にするな、アドニス。
こんなことで、ロバートとの仲は終わらないよ。
彼とはいつまでもこのままだ。
なあ、そうだろう?」

「ああ、変わらないよ。
それにアドニス殿下、引き続き私が側近になる予定です。
これから、宜しくお願いします」

「えっ!アンゲロス公爵令息がですか?!」

彼は兄の側近になるので、自分とは関係なく初めから誰かをあてがわれると思っていたのだ。

「俺では不服ふふくですか?
馴れた者が引き続きした方がいいと、光栄にも陛下に頼まれました。
エドワードも、その方が安心だろう」

片目を瞑り愉快そうに話すと、ホッとしたような表情を見せた。

「もちろんだとも!
アドニス、ロバートは優秀だ。
私もお前を支えるが、ロバートを大切にしてあげてくれよ」

兄エドワードからの贈り物が、新しい自分の片腕なのだと考えていた。

『父上からではない。
兄上が、父上に彼をしたのだ。
未熟みじゅくな、何も分からない自分のためにー』

「は、はい!兄上!
ロバート様を大切にします。
もし、自分が間違ってると思ったら注意して下さい。
一緒に…、私と国を導いて下さいますか?」

純粋な瞳に魅せられて、兄ではなく未来の国王に誓った。

「もちろんだ。誓う!
お前が間違っていると感じたら、何処に居ようが駆けつけてやる。
アドニス、お前は可愛い弟なんだから。
それを忘れるなよ!」

夏休みが終わったら、きっと出来る機会が減るだろう。
自分より一回り小さな頭に手を置いて、アドニスの髪の毛をガシガシとで回してやる。

この姿を見て笑っていたロバートは、部屋の中へ飛び込んできたマイヤー伯爵令息に驚くと叫んだ。

「ジョージ、ジョージじゃないか!
やっと、戻って来たのか!」

ツカツカと足音を立てて3人に近寄ると、騎士の礼を儀礼的にした。

「エドワード、アドニス両殿下にアンゲロス公爵令息。
ただいま、戻りました」

1番立場が上のエドワードが、代表としてマイヤー伯爵令息に話しかけた。

「遠い場所まで、君を行かせて悪かったな」

「いいえ、頼んだのはコイツですからー。
殿下には、責任は#御座_ござ__#いません」

チラッと嫌みを言う公爵令息を見ては、グチグチと文句を言い続けている。
アッサリしている感じがするのに、見掛けと違うんだと伯爵令息をアドニスは見上げていた。

「今日は休んで、明日聞かせてくれないか。
サンダース伯爵令嬢も、妹君の事を知りたいだろう」

アンゲロス公爵令息とマイヤー伯爵令息の話で、アドニスはサンダース伯爵という家名を耳にした。

『サンダース伯爵令嬢って、マティルダの妹?
何があったんだろうか。
仲が悪いって、本人が話していたのを覚えている』

自分は兄妹と仲が良いけど、マティルダは複雑そうだな。
ロバートとジョージの話に、自分もマティルダと一緒に話を聞きたいと思っていた。









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