【完結】すべては、この夏の暑さのせいよ! だから、なにも覚えておりませんの

愚者 (フール)

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第5章

8 信じる心

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 目を閉じている国王は、ココにいる臣下たちと大司教たちの争論そうろんに聞き入っていた。

「神を冒涜ぼうとくするのか!
雨を降らせた巫女みこの話を、諸君しょくんらは信じられないのか!」

ウォーレン大司教は、声を張り上げて彼らに興奮して話す。

「大司教、ココは落ち着いてください。
皆様も巫女の言霊ことだまの後に、雨が降りだしたのをご覧になられたでしょう」

この中で1番信心深い、良心のかたまりの神官はロザリオを握りしめて訴えかける。
それでも、エドワード王子から次男アドニス王子に国王の後継者こうけいしゃ変更を良しとしない。

「エドワード殿下は、不足ない方です。
生まれながらの未来の国王として、ここまで頑張られていた方を意味不明な言葉で代えられるのか!?」

「意味不明とは失敬しっけいな!
巫女をかいした、神のお告げを侮辱ぶじょくするのか!?」

これに激怒したのは、最初に怒鳴っていた大司教をたしなめた心優しき神官だった。

みにくい争いはやめよー!」

黙っていた国王の初めての言葉。
それに納得しない両者。

「「「醜い、……だと?」」」

臣下、大司教、神官は醜さに反論したそうな表情をする。

どちらも折れそうにないので、初めて国王は息子たちに視線を向けて声を掛けてみる。

「お前たちの将来だ!
自分の思ってる想いを、嘘偽うそいつわりなく皆の前で話すのだぞ!」

父はえらそうに、息子たちに丸投げをするようだ。
二人の息子は、父のこういう優柔不断ゆうじゅうふだんを少し軽蔑けいべつしている。
口には出さないが、兄弟は目付きで互いの心を読み取っていた。

『正直に話すか?』( 兄 )

『バカじゃない?!神様のせいにしよう!なっ!』( 弟 )

以心伝心いしんでんしんとはこれだ!
兄弟の気持ちが、ガシッと一致した瞬間だった。

エドワードがこの場で決めてやると、芝居かかった大根役者並みの演技をし始めた。

「父上!天の神はー!
弟アドニスを選ばれたのです!
その意思を尊重致します!!」

座っていた彼はわざわざ立ち上がり、身ぶり手振りで気持ちを分かってくれよと見せつけた。

『兄上、思いっきりがいいな!
ゴメン、笑いそうになるよ。
ここで笑ってはいけない。
僕…、私もこれをするのか。
やりたくないな。やだな~!』

隣で座っている弟アドニスを、お前も言えよってにらみ付ける。
立ちたくないのが丸わかりの彼は、ゆっくりと立ち上がり父に右手を指し伸ばす。

「父上ー~!私には兄上の様に臣下からの信頼はありません!
こんな私が、なぜ神に選ばれたのだろうか?!
それをためしてみたいのです!」

やけくそ気味に兄上よりも、派手はでな動きと気持ちを表情に込めたのが良かったのか。
訴える当事者の王子たちに、部屋中にいた者たちは感動してジーンとしていた。

『マティルダの笑顔の為にー。
この場にいたら、笑い転げる姿が目に浮かぶ。
彼女が居なくて助かった』

言い終えると、拍手がパチパチと鳴った。
この拍手は何の拍手なのだ。
兄エドワードの顔は、どうしても恥ずかしくて見れなかった。
父国王を真っ直ぐに瞳を動かすと、目がバチっと合ってしまった。

引きこもってから、初めて心が通じたような気がした。
違うな、生まれて初めてかもと思う。

「アドニスよ!
国王とは孤高ここうの者だ。
お前はー。それでも王になるのか?」

父上の声は国王としての威厳があるが、心配する父親の気持ちが勝っている様に思えた。
父の瞳を見続けて、決心して一言返事をした。

「はい!国王陛下」、とー。

うなづく父の瞳が、私にはうるんで見えた。
その隣に座る母は、ほほに流れる涙をぬぐっている。

こうして、兄弟の未来がそれぞれ変わる。
アドニスは、宿命しゅくめいのスペアから解放かいほうされたのだった。









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