【完結】すべては、この夏の暑さのせいよ! だから、なにも覚えておりませんの

愚者 (フール)

文字の大きさ
上 下
95 / 207
第5章

7 静かな雨音

しおりを挟む
  冷えきった体を温めて入るお風呂は、雨乞あまごいの儀式が終わり安心している。
長い距離を泳ぎに切ったので、グッタリして湯船から出るのもだるかった。

「サンダース伯爵令嬢、マティルダ様!
お起き下さいませ!」

「きゃあーっ、寝ちゃった!
ごめんなさい!すみません。
裸姿なのに恥ずかしい~!」

ワタワタして慌てて、まずは胸を隠して真っ赤な顔になってしまう。

「お疲れさまでしたよね。
お気になさらないで下さい。
ここで寝ないでベッドで寝た方がよいです」

「みっともなくて、すみませんでした。
そのお湯が、あまりに気持ち良くって。ホホホ」

「寝てる間に、髪の毛や足と腕を洗わせて頂きました」

「ご面倒かけました。
その他は、自分で洗いますから…」

 メイドに笑われてしまい。
マティルダは一人にしてもらい、急いで全て終わらせた。

『お風呂に入ったら、なんか余計に疲労が増したわ。
湖といい水にずっとかっているから、皮膚がますますブヨブヨになりそう』

 ベットに横になっていると、扉を開ける音がする。
メアリー王女が、今度は甘いお菓子とお茶を乗せたワゴンと共に現れた。

「マティルダ!
アフタヌーンティーを用意して持って来たわよ!」

子供って元気ハツラツだ。
雨乞いが終わったら、一緒にお茶するって約束していたわね。

『約束を守りに来てくれた。
お菓子大好きだし、甘いものを食べたかったから嬉しい』

 ベッドから離れて、姿見で身なりを整えた。
ゆっくりと一回転し確認をすると、メアリー王女様に会いに行く。

「いたいた、マティルダ!
お菓子を食べましょーうよ!」

後ろに控えるメイドたちも、可愛い王女に笑ってしまっている。

「ふふふ、来てくださって有り難うございます。
甘いモノを、実は食べたいと思っていたんですよ」

「でっしょう~!アドニスお兄様も誘いたかったんだけど、マティルダの発言で私以外は皆集まって相談しているのよ。
女で子供扱いされて、抜け者にされた。気分悪いですわ」

そういえば、アドニス殿下を次期国王にしろと言った。
直前に雨が降ったから、それで余計に信用が増したな。

「真面目な話より、マティルダとこうしてお茶していた方がいい。
私がお兄様たちの事を意見しても、多分たぶん何も変わらないもの」

「アハハ、言いづらい事を言って下さるわね。
後継者の話をされているですか…」

奇跡を信じてやってみたけど、まさのまさかで絶好ぜっこう機会きかいで雨が降るなんて。

『私だって驚いたわよ。
雷が私に落ちてくるなんてー。神に変なお願いして、バチが当たったのかね』

「マティルダ、なにボーッとしているの?
やっぱり疲れている?」

「メアリー王女様、平気です。お風呂に入ってたら元気になりました」

 耳を済ましたら雨音がー。
マティルダが窓の方に顔を動かすと、メアリーもそちらヘと一緒に向きを変える。

「虹が出て日差しが出てから、私たちは城へ戻ったでしょう。
その後から、また雨が降ってきたんですって」

「全然気づきませんでした。
耳を済まさないと分からない。とても静かな雨ですね」

ザァザァとかではない。
シトシトの音が物憂ものうげで、どこ倦怠感けんたいかんを感じてしまう。

「マティルダが雨を呼んできたと、皆がそうおっしゃっていたわ。
大喜びして、奇跡だって騒いたよ」

「フフっ…、奇跡ねぇ~。
確かに、奇跡だったわ。
……、メアリー王女。
儀式していて、私が1番驚いているの。
雨が降ってくれるか、とても不安だったから」

話が途切とぎれて沈黙すると、ただただ雨音だけがー。

「有り難うございました!
これで、水不足が終るかなぁ。
雨が…。いっぱい、いっぱい。
空から降って下さると、いいなって思ってますわ」
  
一緒に同じ空を見続けていて、私は首だけを左右に振って言った。

「メアリー王女殿下…。
御礼はりませんよ。
私は、あの時はー。
神は天に居るかは、自分には分かりません。
ですがー、心から本気で祈りました」

「………、神様って居るんだね。  
マティルダに雷を落としたのは、何でなんだろうね」

「…………、さぁ~!?」

痛いところを突く彼女に一言返事して、外の雨からメアリーの顔を見てしまった。
その真剣な顔に、不思議に口をグッと閉じた。

「偶然なのかも知れませんが、
カラカラだった大地がうるおい。
そして、生きている者たちが喜び幸せになれてたら嬉しく思います」

「うん、うん!マティルダ!
ありがとうを、やっぱり言わせて頂戴ちょうだいな」

満面の笑みが、とても愛らしかった笑顔がー。 
妹のアリエールの顔と重なった。

幼かった思い出を、咄嗟とっさに浮かんだ。
まだ二人の間は真っ白だった。
あの頃をー。

あれは、いつだったかしら?
太陽がまばゆく、汗をかくほど暑かった。
ああー、あれは夏の日だった。 

アリエール、貴女は……。
今は、どうしているの?!

マティルダは降り続く雨が、涙のように思えて見えた。
幸せの涙なのか、それとも悲しみの涙かー。
人それぞれ、感じ方は違うだろう。

静かな雨音を聞き、複雑な思いをしてしまう。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない

曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが── 「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」 戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。 そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……? ──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。 ★小説家になろうさまでも公開中

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

処理中です...