【完結】すべては、この夏の暑さのせいよ! だから、なにも覚えておりませんの

愚者 (フール)

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第5章

5 不審な使者

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    サンダース伯爵当主の屋敷に、急な不振ふしんな客人が訪れている。
とびらを開けた侍従じしゅうが驚くのも当たり前、どう見ても何処かの貴族の治安ちあんを守る騎士の格好かっこうには見えた。
しかし、まとう気配は違うようだ。


「この屋敷をサンダース伯爵の屋敷と知り、貴殿方きでんがたはお見栄みえになられたのですか?」

無礼な質問をしているのは分かるが、こんな田舎の伯爵に不釣ふつり合いな人物たち。
彼らの返事を待つ者は、生唾なまつばを音を立てて飲み込んだ。

「我らはサンダース伯爵令嬢アリエール嬢の件で話をしに参った。
当主、サンダース伯爵にお目通りをー。
身元はこの場では言えぬ!」

「はぁ?名乗れない。
しかし、それでは取り次ぎは難しいのですがー」

扉を背にして困惑する彼は、どうしてよいか悩んで自分より上の者に問いたいと話してみた。

「それでよいからー。
とにかく、我々はアリエール嬢の話をしなくてはならぬのだ」

「では、ここで御待ちください」

玄関の扉を閉めてから、執事長を探すために片っ端から会う人に聞き出していた。
やっと見つけ出して理由を話すが不信な表情しても、主人に伝えにいくと言ってくれ安堵あんどする。

   サンダース伯爵は、執務室で職務をしていた。
夏休みには長女マティルダに遣らせていた作業をする羽目はめになり、夏の暑さと共にイライラしている。
そこに扉を叩く音がー。

「……!なんだ!入れ!」

苛立つような承諾しょうだくの声を聞き、遠慮しがちに頭を下げてから中へ入り説明する。

「その者たちは、アリエールの名を出したのだな?
娘にー、何かあったのか…」

「男2組ですが、騎士のようでございます。
アリエール様のお戻りがまだですのも、彼らの話で分かるかも知れません」

「……、その二人と会おう!
応接室に通すようにしてくれ」

「お会いになられるのですか?こうして話をして、矛盾むじゅんしてますがー」

「不振に感じがしたら、コチラが先になわで取り押さえるのだ。
腕の立つ者を、数人を隣の部屋に控えさせよ!」

おおせの通りに、お部屋でお待ち下さい」

この時は娘アリエールが罪を聞かされるとは思わなかったが、何か嫌な予感はしていたのだった。

    応接室ではピリピリして、息がまる話の内容にサンダース伯爵はひたいを押さえている。

「アリエールが、あの子がハロルド殿をー。
彼をナイフで刺して、崖に落とそうとしたのか!
あの子があり得ない!
そんな事をしたというのか!」

信じたくはなかった、婚約者の姉マテリアルよりも仲が良かったはずだった。

「どうしてこうなったのだ。
マティルダ! 
 アイツが、2人の側に居なかったからだ!
王妃様のお願いだから、拒絶きょぜつが出来なかったのが悪かったのだ!」

独り言とは思えない大きな声で、全てをマティルダのせいだと言っていた。

『居ない者のせいにして、同じ娘なのに愛情の格差を感じる』

『罪をおかした娘の話をいて、最初からこの態度か?!』

「サンダース伯爵、ご令嬢アリエール嬢は牢屋ろうやに入っておる。
人を殺害しようとしたのだ。
当然の処遇しょぐうだと、ご理解してくれると有難い」

牢屋の単語にピクッとして、目の色を変えた。

「牢屋だと、私の娘を牢屋に入れたのか。
おお~っ、可愛そうにアリエール!
私を娘のいる場所に連れていってくれ!今すぐにー」

親バカに呆れ返って伯爵を眺めて、まともなマティルダ嬢の苦労を思いやってしまう。

この騒ぎを知らないで、優雅に刺繍をしていた夫人。
もう一方の親が、またひと騒動を起こすことになる。

社交界から消えた伯爵夫人がー。



    
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