【完結】すべては、この夏の暑さのせいよ！だから、なにも覚えておりませんの

愚者　(フール)

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第５章

４お前たちはグズだ

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     薄暗くムシムシした場所に、不似合ふにあいなドレスを着た令嬢が前に座る男性たちに怒鳴りつけていた。

「何日、こんな場所に私を閉じ込めて居るのよ！
私を誰だと思っているの！
サンダース伯爵の娘よ！」

煩うるさそうに叫ぶ女を、侮蔑ぶべつするように見つめて薄ら笑っていた。

「ははは、薄汚れた汚い女が伯爵令嬢ってか？！
こんな所にいる御令嬢がか？」

「笑わせるなよ、伯爵令嬢様！
お前は、人を殺そうとしたんだってな。
恐ろしい奴やつが、貴族のお嬢さんかい？アーハハハ」

鉄格子てつごうしに両手を掴つかむと、力一杯いれて揺さぶって懇願こんがんする。

「だーして！お願いー！
体が痒かゆいの。
自分が臭くさいのよ！堪たえられないわ。
助けて、お願いよう～」

薄汚いドレスに髪はギトギトで、顔は涙の筋すじあとのそこだけが白かった。

「そうだよな！
お前は臭くさい、臭いよな！
俺たちよりも汚い奴が、お貴族様だったのかよ！」

「お前はよー、人殺しだよ！
自分でしたんだから、知っているよな！
殺人した者の末路まつろをよぉー」

「私はー！私は殺してないわ！
そんな事してない。
ハロルドは生きているでしょう。
助けてー！ココから出してー」

散々さんざんアリエールを下げずむと、バカ笑いして去っていく。

「待ってー、行かないでー～！
食べ物を、何でもいいから置いていってよ！お願い！
ああーっ、どうしてこうなったの？！
マティルダ、あいつのせい！
あの女が生きているから、私がこうして不幸になったのよ！」

八つ当たりしては、マティルダに恨みを溢こぼして怒り叫ぶ。

    アリエールの自分勝手な言い分の声が響く、牢屋ろうやから去る２人がウンザリしながら歩いていた。

「あの女、ただの馬鹿しかないね。
貴族の娘でも、人を刺して無罪になるわけないのによ」

「現行犯で伯爵の令息が目撃してるんだ。
それもな、１人じゃない。
何人も見てるそうだぞ」

「汚いがよく見たら、まぁまぁ可愛い顔してるぜ。あの女…」

オイオイって顔をして、バカな考えするなよって諦あきらめさせるように言った。

「刑が決まったら、よくって修道院しゅうどういん送りで最悪はー。
賠償金ばいしょうきんを支払うのに、売春宿で働かされるぞ！」

「いやぁ、金は親が支払うでしょう。
まだかろうじて成人してないそうだし、処女かなぁ？」

ニヤニヤと厭いやらしく、相手の男に尋たずねてくる。

「どうかな？あの手の女は、貴族の娘でも操みさおを守っているか。
へへへ、分からんぞ！」

マティルダの妹はアリエールは、父サンダース伯爵が来るまで牢屋で惨みじめな暮らしていたのである。

     ジョージ・マイヤーは、時折苦痛に顔を歪ゆがみつつ被害者の聞き取りをしていた。

「アリエールが、ナイフでこの左手を刺してきた。
何度もやめてくれと頼んだのに、崖がけから落ちかけてもう死ぬと思ったよ」

ぐるぐると包帯ほうたいで巻かれた左手を、右手でそっと触さわり話す。

「…………、そうか」

「あの形相ぎょうそうは思い出すだけで…。
お、恐ろしいかった。
好きだった。愛していた……」

マイヤー伯爵令息はあのときの状況を思い返すと、赤の他人でも見ていて怖かった。

「俺も、あの女は御免ごめんだな。
婚姻こんいんする前に本性を知って、君も良かったじゃないか」

「婚姻だって、笑わすなよ！
そうだ！まだ俺にはー。
まだ、マティルダと婚約しているじゃないか！」

婚約者の妹と浮気していた癖くせに、それを忘れているのか。
平然とぬけぬけと、サンダース伯爵令嬢の事を言ってくるのか。

ジョージは右手を握り締めると、その拳こぶしはぎゅーっと色が変わるぐらい力を込めた。
根本的こんぽんてきに騎士道主義者な彼は、理不尽りふじんな話を前でする男を許せなかった。

「お前も妹も、人じゃない！
人の顔をした悪魔だ！
お前らは、クズだーあ～！！」

座ったままのハロルドに、左頬にジョージの拳を打ち込んだ。

「そうやって、いつまでも倒れていろ！
地面に這はいつくばっていろよ！
お前は、お前は獣けもの以下だ！」

椅子いすごと倒れた彼は、怪我けがを忘れて左手をついてしまう。
ハロルドは絶叫ぜっきょうして、刺された手を抱かかえて転げ返っていた。

「こんな男に好かれなく浮気されて、マティルダ嬢は幸運だったよ。
婚姻される前に、お前と別れられてな！
被害者の振りするんじゃねえ」

もう姿も見たくないという表情で、彼は部屋を出ていった。
ここでやる事はないと、ジョージはマティルダたちがいる避暑地へ戻る。

手紙は書いたが…。
戻ってこの件を、説明するのを今から気が病む。
早く涼しい場所に、帰りたいような戻りたくないような。
彼は変な気分になっていた。

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