上 下
89 / 207
第5章

1 生け贄にされた令嬢

しおりを挟む
   湖は透明度があり、水面は太陽に照らされてキラキラという表現は当てはまらない。

「湖面がギラついていて、目がおかしくなりそう。
こんな湖の真ん中でボートを浮かべて儀式をやるのですか?
常識的に考えたら変でしょう?この状態は、普通じゃない!」

雨乞あまごい儀式が始まる前から、マティルダは静まり返っている中で大声で文句を言っている。

「ウォーレン大司教、巫女みこが怒っておられます。
男性でも怖がる湖の真ん中は、場所的には如何いかがなものでしょうか?」

「……、仕方なかろう。
教皇がこうしろと手引き書を書かれておるのだからー。
私だって最初は反対したが、前にした通りにしろと仰るのだ」

同行してきた神官が上司の大司教にそう忠告するのは、巫女のマティルダがおびえていると本気に思っていたからだ。

文献ぶんけんをしらべて読みましたが、神殿でされたと書かれてました。
あのような場所じゃあなかったです。
落ちておぼれたら、責任問題になります。
場所を直ぐに代えましょう。
ウォーレン大司教ー!」


マティルダの耳にもかすかにめているのが、聞こえて無謀むぼうな事をされているのを知ってしまう。

『これって、まさににえにそれたの。
神殿の中央の柱に、処女の生娘きむすめが使われたとか噂があった。
雨乞いはー、水に命をさせげるのではないよな?!
そんな~、死にたくないよ!』

先程よりも、風邪が強くなっているとマティルダはあせりだす。

    エドワードとロバートは次世代の統治者とその補佐として、儀式を目にする機会になった。

「エドワード王子、この儀式は必要なのですか?
彼女、嫌がってます」

「止めてあげたいが、私には権限がないんだ。
父と母が口添くちぞえをしてくれてば、なんとかなるかもしれん」

息子エドワードが頼っていた両親は、湖を見渡す絶好の場所でテントに貼られた中にいた。
4つの目が泳いでいて、特に王妃は青い顔になり夫に震えて言う。

「貴方ー、陛下ー~!!
あれは…、あれはないです!
もし、彼女が湖に落ちたらー。
どうするんですかぁ!?」

優しい彼女が、まさかこんな扱いにされるなんて…。
気軽に頼んだ訳ではないが、湖の真ん中でボートに1人乗せられている。

「余も、初めて知ったのだ。
王妃、落ち着いてくれ。
よく見よ、近くで兵士たちがボートで見守っている。
落ちても救助できる」

マティルダのボートを囲むように、4つのボートが湖に浮かんでいた。
注目を一身に向けられている、巫女であるマティルダ。

『とっとと、これを終わらせてしまおう』

腹をくくった彼女は、不安定に揺れ動くボートの真ん中に立ち上がった。

そして、天に両手をげる。
両足をんばって、顔を天に太陽を見上げた。

「天よ!日照ひでり続く地に、恵みの雨を我らにお与え下さい!
民を代表して、宿願を願う!
神よー!天よー~!
我が祈りを届けたまえー!!
慈雨じうをここへー、我らへ降らせたまえー~!!」

『これで、果たして降るんだろうか?!
ただ雨降らせよ!しか大声で叫ぶだけじゃん。
こんなんで、雨なんて降るか!ばぁーかぁー~!!』

ハッ!いけない!
こんな事を言っては……。
もうひとつ、お願い事がー。

「おおっ!神からの声が聞こえる~!
次期王には、次男アドニスと名が聞こえてきたー!!
天は彼に、天啓てんけいを与えたもうた!」

彼女の想いは神に通じたのか。

空が急に暗くなり、マティルダ含めその儀式を見ていた者たちが空を見続けているとー。

「ドッドドンー!どっかんー!ピカッ!ゴロゴロ…。ドーンーー!!」

考えるより早く、頭の上に向かって激しい稲妻いなづまが落ちてきた。

彼女の安否あんぴはどうなる……。
次回まで、うご期待と待って欲しい。
自分で実況してしまう、マティルダ。

それだけ、彼女なりに我を忘れてていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

〈完結〉八年間、音沙汰のなかった貴方はどちら様ですか?

詩海猫
恋愛
私の家は子爵家だった。 高位貴族ではなかったけれど、ちゃんと裕福な貴族としての暮らしは約束されていた。 泣き虫だった私に「リーアを守りたいんだ」と婚約してくれた侯爵家の彼は、私に黙って戦争に言ってしまい、いなくなった。 私も泣き虫の子爵令嬢をやめた。 八年後帰国した彼は、もういない私を探してるらしい。 *文字数的に「短編か?」という量になりましたが10万文字以下なので短編です。この後各自のアフターストーリーとか書けたら書きます。そしたら10万文字超えちゃうかもしれないけど短編です。こんなにかかると思わず、「転生王子〜」が大幅に滞ってしまいましたが、次はあちらに集中予定(あくまで予定)です、あちらもよろしくお願いします*

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

婚約者に「愛することはない」と言われたその日にたまたま出会った隣国の皇帝から溺愛されることになります。~捨てる王あれば拾う王ありですわ。

松ノ木るな
恋愛
 純真無垢な心の侯爵令嬢レヴィーナは、国の次期王であるフィリベールと固い絆で結ばれる未来を夢みていた。しかし王太子はそのような意思を持つ彼女を生意気と見なして疎み、気まぐれに婚約破棄を言い渡す。  伴侶と寄り添う心穏やかな人生を諦めた彼女は悲観し、井戸に身を投げたのだった。  あの世だと思って辿りついた先は、小さな貴族の家の、こじんまりとした食堂。そこには呑めもしないのに酒を舐め、身分社会に恨み節を唱える美しい青年がいた。  どこの家の出の、どの立場とも知らぬふたりが、一目で恋に落ちたなら。  たまたま出会って離れていてもその存在を支えとする、そんなふたりが再会して結ばれる初恋ストーリーです。

【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!

美杉。節約令嬢、書籍化進行中
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』  そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。  目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。  なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。  元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。  ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。  いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。  なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。  このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。  悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。  ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――

婚約者が不倫しても平気です~公爵令嬢は案外冷静~

岡暁舟
恋愛
公爵令嬢アンナの婚約者:スティーブンが不倫をして…でも、アンナは平気だった。そこに真実の愛がないことなんて、最初から分かっていたから。

王太子殿下から婚約破棄されたのは冷たい私のせいですか?

ねーさん
恋愛
 公爵令嬢であるアリシアは王太子殿下と婚約してから十年、王太子妃教育に勤しんで来た。  なのに王太子殿下は男爵令嬢とイチャイチャ…諫めるアリシアを悪者扱い。「アリシア様は殿下に冷たい」なんて男爵令嬢に言われ、結果、婚約は破棄。    王太子妃になるため自由な時間もなく頑張って来たのに、私は駒じゃありません!

【完結】愛されないと知った時、私は

yanako
恋愛
私は聞いてしまった。 彼の本心を。 私は小さな、けれど豊かな領地を持つ、男爵家の娘。 父が私の結婚相手を見つけてきた。 隣の領地の次男の彼。 幼馴染というほど親しくは無いけれど、素敵な人だと思っていた。 そう、思っていたのだ。

処理中です...