【完結】すべては、この夏の暑さのせいよ! だから、なにも覚えておりませんの

愚者 (フール)

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第4章

20 天の恵み

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    庭で作業中の庭師は帽子を被り顔の汗をき、貴重になっている水をいていた。
暑い日中で、優雅に花を見て散歩する物好きはいないようである。
そんな陽射しを日傘でさえぎり、マティルダは彼を探していた。

「マティルダ、マティルダ!
こんな時間に庭で散歩かい?」

「エドワード殿下、殿下こそ」

こんな場所でエドワード王子に出会うとは、意外で彼女は目をパチクリさせて彼を見ている。

「ああ、気分転換だ。
私の言った言葉で、家族や皆を混乱させ驚かせてしまった。
いささか軽率だったかと、歩きながら考えていた」

「それが分かっていても、言ってしまわれたのですね。
エドワード王子は、玉座に未練はないのですか?」

カンカン照りの空を、彼は目を細めて見上げる。

「なんか、違うなって思った。
幼い頃から王になるんだと言われ続けて、り込みされていたんだなぁ。きっとー」 

軽蔑けいべつしただろうと言われた後に、不味いモノを食べた時みたいな顔をされていた。

「別に宜しいのでは?
アドニス王子がスペアから本命になっても、よいなら交代しても構わないと思いますわ」

「……、えつ!そうなのか?
普通は止めないか?」

「止めて欲しいのですか。
そんな簡単に、フラフラ考えが変わるならー。私……。
エドワード王子を、それこそ貴方を軽蔑しますわ!」

にらみ合う、マティルダとエドワード。

「外交をしたかったんだ。
だから、語学と外国の歴史とかが好きで地図とかずっと眺めていたな。
行った気分になってさ」

目を閉じて無言で彼の話を聞き終えると、マティルダは意味深な事を言う。
 
「弟君と交渉して利害が一致したら、私が助けて差し上げますよ。
神が力を貸してくれて、奇跡が起きましたらね。クスッ」

奇妙な顔をしてる彼を笑って、カーテシーをしてクルっと背を向けて庭師を探しに行くのだった。

    やっと見つけられた場所は、井戸の前で水をんでいる。
その顔は暗い表情をして、とても疲れているようだ。
あんなに元気そうにしていたのに、気の毒にやせ我慢していたのね。

「こんにちは、今日も同じく暑いですわね」

背後からマティルダは、同じような挨拶で声をかける。

「嬢ちゃん、今日はちゃんと暑さ対策しているんだな」

「おじさんに折り入って御相談ありまして、ここへ会いに来ましたの」

正直に彼に絶対内緒でとお願いをしてから、自分が何故か雨乞いをする巫女に選ばれてしまったのを話す。

「んー、そりゃあ難題だね。
しかし、ほらっ!
アチラに見える山があるだろう」

指で山を指し示す方に目を追うと、首を振り返事をして彼女の意見を述べる。

「はい、山が見えます。
じつは、前におじさんの話を聞いてから空を観察するようになりました。
昨日より今日、雲がちょっとずつ増えてきているような気がします」

「ほうほう、そうかい。
嬢ちゃんは、よく観てるな!
2、3日後に俺の予想だと雨が降るだろう」

1番知りたがった情報をもらい、跳び跳ねそうになる。

「それは本当ですか!
本当に2、3日で雨が……。
おじさん、降るのですか!」

「この職になって25年、空を見続けて植物を育ててきた。
俺の勘は外れたことはない!」

『やったぁー!
雨乞いをしてる時には降らないかもしれない。
でも儀式の時に間近に降るって言えば、ほぼ成功していけるんではない!?』

両手を空に突き上げたいところを、我慢しておじさんにお礼を言うのである。

「有り難うございます。 
これで気を楽にして、大役をはたせそうですわ」

「天のお恵みが、貴女にもありますように祈りますよ。
俺もそうだが、農民たちは1番深刻な状態だからな……」

人々の気持ちを知らずに、今日も日差しを照りつかせている太陽を二人は同時に見ていた。
マティルダだけでなく、全国民の願いは叶うのかー。

雨乞いの儀式の結果にかかっていた。
 
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