【完結】すべては、この夏の暑さのせいよ! だから、なにも覚えておりませんの

愚者 (フール)

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第4章

17 救世主と犯罪者

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    マイヤー伯爵令息ひきいる者たちは、ロバート・アンゲロス公爵令息に頼まれてアリエール・サンダース伯爵令嬢の後を追っていた。
追いつけないと考えていたが、馬車と単独の行動で差が縮まるのが早かった。

「あの馬車ではないですか?
マイヤー伯爵令息」

「あれっぽいな。
馬車が、がけから落ちかかっている様に見えるがー」

走りながら近づく前に居る馬車は、動いてないので段々と大きく見えやすくなる。

「馬と馭者ぎょしゃが、馬車から離れています。
どうやら、馬車と切り離れてしまったようです」

もう1人の連れが、冷静に見たままリーダーの伯爵令息に伝える。

「……、馬が興奮して暴れていて馭者ぎょしゃなだめているな。
馬車が、崖からもう落ちかかっている。
危ない事になっているぞ!」

マイヤー伯爵はなわで体を結びつけて、馬で引っ張ってもらう作戦。

「1人は馬で引いてくれ!
私と残りのもう1人は、馬車に乗っている者を救出するぞ!」

    「「承知しました!」」

馬で駆けてくる姿を見て、馭者は神が使わせた救世主きゅうせいしゅに見えた。

「おーい、お願いです!
助けて下さーい!!」

馭者は馬の手綱たづなを取りながら、大きく手を振り続ける。
時間は無駄むだにはできない。
仲間の1人が助けを求めている馭者に近づき、話を聞きながら落ち着かせた。

2人は馬から降りると素早く縄をしっかりとくくりつける。
下手へたをしたら、自分等の命に関わるからだ。
馬体に縄を解けないようにして、馬車へ走り向かっていると男女の大声が聞こえてきた。

「離せ離せー!!私をー。
愛してるんなら、離してあきらめなさいよ!」

爪を立てても放さない手を振りほどくために、アリエールはかばんの中から護身用のナイフを懸命けんめいに探す。

「助けてくれ!
お願いだ、アリエール!」

マイヤー伯爵令息は、はっきりとアリエールの名を聞くと馬車の中にのぞくとー。

「何をしてる?やめるんだ!
アリエール・サンダース!!」

グラッと馬車がれて、アリエールは落ちると発狂はっきょする。

「……!!アンタは誰よ?
ああ、危ない!
落ちるじゃない!
早く、馬車から降りてよ!」

「姉上マティルダ嬢より、頼まれたジョージ・マイヤーだ!」

姉マティルダの名に過敏に反応して、顔色がまた一段とけわしくした。

「マティルダ?!お姉様?!
何でよ!お姉様がここで出てくるの!」

ドレスの裾から右足を掴まれて、アリエールは手の感触に悲鳴をあげた。
 
「いやぁー~!離してよ!」

ジョージは、令嬢が右手に持つナイフを振りかざしているのを目にした。

「よせ!何をしてるんだ!」

彼が慌ててナイフをけるが、そうすると中がせまくてなかなか踏み込めない。
また馬車が、グラグラ大きく揺れる。

「イヤイヤ、落ちる!
落ちてしまうわ!
私は、死にたくないのよ!」

グサグサと刺す音がする度に、ハロルドの絶叫が響く。

「すまん!」、彼はアリエールの首を軽く叩くと意識が失くなる。

彼は後ろにいる仲間に令嬢を預け、彼を確認すると馬車にしがみついていた。

「頑張れー、助けるぞ!
どちらを刺されたんだ!」

「左だ!た、助けてくれー~」

彼は自身の両手でハロルドの右手を握ると思いっきり力を入れて引き揚げた。
彼は腕がどうなろうと、後ろで自分の腰縄を持ってくれている仲間を信じてー。

「うっりゃーーあー!!」

こんなに力を使ったのは、初めてだ。
それより、ここには長く居られない。

「はぁはぁ~、あっ。ありが…と」

「そんな事は、今はどうでもいい!
それより、早くこの馬車から出んだ!」

反対側に転がるように外へでると、地面に体ごと転げ落ちた。
ハロルドは宙ぶらんになっていたので、地面を感じて自然と涙と同時に嗚咽おえつをする。

ハロルドは、生きて助かった事に喜びと悲しみを覚えた。
泣きながら彼はー。
愛した女性が自分が助かるために、自分をナイフで刺し崖に落とそうとした。

『2人の間の愛が……。
壊れて消えてなくなってしまった』

ハロルドは腕と胸の痛みで、声を張り上げて泣くしかない。
そうしないと、精神を保つのが難しかったのだ。

気を失って倒れた女と、気が触れたような男。
マイヤー伯爵令息は、二人の命を助けられた使命達成が嬉しい筈だが……。

複雑な気持ちで空を見上げて、青空とは同じ気分にはなれなかった。
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