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第3章
23 夕陽が見せた幻
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今年王族たちが避暑地に選んだのは、王都から北に1番近い城。
国王は王宮から遠くへ離れると、いざとなると戻るに時間がかかるは憚れる。
城の中では国王御一家、お客様を出迎える従事者たち。
広い玄関の間に大勢の人たちが頭を下げて、何年ぶりに来訪した主を歓迎する。
「陛下、王妃殿下!
エドワード殿下、アドニス殿下、メアリー王女殿下。
並びに、お客様を心より歓迎致します」
赤い絨毯を引かれた上を、国王を先頭に身分順に歩く。
マティルダも最後に歩くと、自分にも頭を深々と下げるのを申し訳なく感じていた。
夕食前の間の時間に、エドワード王子たちはマティルダの夢を聞くことにした。
馬車に揺られた疲労を、皆が到着後に休む時間を使うことにしたのだ。
「どうしても、ダメなの?
私たちが、子供だからなのね?」
最後までメアリーは、夢の話を知りたくて仕方なかったようだ。
「メアリー王女、兄であるエドワード殿下にも話をするのを悩んでます。
話そうと決めたのは、妹が関係してるからです。
もし、夢が本当だったら…」
いったん言葉を止めると、重い口調でマティルダは続けた。
「たった、5歳や3歳差であるとお思いかも知れません。
この思春期の1年で、いろんな経験をします。
つまり、私たちとお二人には歳以上の開きがあるのですわ」
「分かったよ、マティルダ。
私たちが…、君と同じ歳になったら。
いつか、教えてくれるか!?」
「はい、お待ち下さい!
いつかきっと、お話しますわ」
彼女はアドニス殿下に誓った。
兄の彼がそう言ったら、妹は従うしかないだろう。
最後までメアリーは聞きたそうにしていたが、アドニスが腕を引っ張り姿を消した。
ベランダに近くにある丸いテーブルに、三人は座り夕陽が山に隠れるのを眺めながら話しをした。
「私はたまに、変な不思議な夢を見ます。
ロバート様に伝えたのは、夢とは思えなかったからですわ。
そして、今回は過去1番に鮮明だったのです」
男性たちは彼女の顔色が、茜色の夕陽を浴びているが青白く見えた。
瞳の奥には、戸惑いや怯えが見え隠れしている。
話しが進んでいくが、内容が事故から事件性を帯びてきていた。
「妹君と婚約者を乗せた馬車が、曲がりくねる崖から落ちかかった」
「はい、エドワード殿下。
馬車を引いていた馬を、扱っていた馭者が酷使していたのです。
何度も鞭を打ち込んでも、馬は走れなくなって曲がり切れなかった。
あの道は難所続きで、上がり坂で曲がりくねっている」
語り方は夢とは思えない。
マティルダには、実際に見ているような真実味があった。
「それで、馬車はどうなったのだ?!
見たんだろう?マティルダ」
「馭者の席と、馬車との繋いだ所が別々に離れました。
夢の中では、馬と馭者は無事です」
「では、乗っていた二人はー」
「私が見たのは、馬車の中ー。
中から扉が開いてしまって、ハロルドが崖から落ちかかり…。
アリエールに助けを求め、ドレスの裾を懸命に握りしめておりました」
空に沈みかける太陽が、最後に燃え尽きるように三人を赤く染めている。
「あ、アリエールがー。
離れてー、と泣き叫んでいた。
愛してるなら助けろと、ハロルドは妹に懇願していたわ」
マティルダは顔色は真っ青に近いと思うが、反対に血を全身に浴びている錯覚がした。
すべてモノが血に染まる。
異様なほどに赤い夕陽。
「アリエールは、アリエール。
あの子は彼の手に爪を立てた。
その痛さで、ハロルドは手を離したの」
「落ちたのか、崖に……」
一言も話してなかったロバートが、つまる声を無理に押し出した。
「考える時間はなかった!
切羽詰まっていたの!
アリエール…、あの子は落ちていく彼を見てなかった。
それよりも自分が先に、反対側から馬車の外へ飛び出るしか考えてなかったから」
目から流れ出す涙は、透明でキラキラ光り続けた。
しかし、それは血の涙を流しているように彼らは思えてしまう。
「夢は…、私の夢はー。
そこで終わってしまった。
エドワード殿下、アンゲロス公爵令息。
私は、ただ夢を見ただけでしょうか?
ただの夢を…。ウッ……」
マティルダの押し殺した嘆きは、夕陽が山に隠れて暗くなっても泣き止むことはない。
やがて後ろに見えた山々は、赤く燃えていたがあっという間にピンクから紫にー。
そして、漆黒の闇が世界を支配していく。
実際は、そんなに真っ暗ではない。
彼らの心が、そう見せていた幻だった。
国王は王宮から遠くへ離れると、いざとなると戻るに時間がかかるは憚れる。
城の中では国王御一家、お客様を出迎える従事者たち。
広い玄関の間に大勢の人たちが頭を下げて、何年ぶりに来訪した主を歓迎する。
「陛下、王妃殿下!
エドワード殿下、アドニス殿下、メアリー王女殿下。
並びに、お客様を心より歓迎致します」
赤い絨毯を引かれた上を、国王を先頭に身分順に歩く。
マティルダも最後に歩くと、自分にも頭を深々と下げるのを申し訳なく感じていた。
夕食前の間の時間に、エドワード王子たちはマティルダの夢を聞くことにした。
馬車に揺られた疲労を、皆が到着後に休む時間を使うことにしたのだ。
「どうしても、ダメなの?
私たちが、子供だからなのね?」
最後までメアリーは、夢の話を知りたくて仕方なかったようだ。
「メアリー王女、兄であるエドワード殿下にも話をするのを悩んでます。
話そうと決めたのは、妹が関係してるからです。
もし、夢が本当だったら…」
いったん言葉を止めると、重い口調でマティルダは続けた。
「たった、5歳や3歳差であるとお思いかも知れません。
この思春期の1年で、いろんな経験をします。
つまり、私たちとお二人には歳以上の開きがあるのですわ」
「分かったよ、マティルダ。
私たちが…、君と同じ歳になったら。
いつか、教えてくれるか!?」
「はい、お待ち下さい!
いつかきっと、お話しますわ」
彼女はアドニス殿下に誓った。
兄の彼がそう言ったら、妹は従うしかないだろう。
最後までメアリーは聞きたそうにしていたが、アドニスが腕を引っ張り姿を消した。
ベランダに近くにある丸いテーブルに、三人は座り夕陽が山に隠れるのを眺めながら話しをした。
「私はたまに、変な不思議な夢を見ます。
ロバート様に伝えたのは、夢とは思えなかったからですわ。
そして、今回は過去1番に鮮明だったのです」
男性たちは彼女の顔色が、茜色の夕陽を浴びているが青白く見えた。
瞳の奥には、戸惑いや怯えが見え隠れしている。
話しが進んでいくが、内容が事故から事件性を帯びてきていた。
「妹君と婚約者を乗せた馬車が、曲がりくねる崖から落ちかかった」
「はい、エドワード殿下。
馬車を引いていた馬を、扱っていた馭者が酷使していたのです。
何度も鞭を打ち込んでも、馬は走れなくなって曲がり切れなかった。
あの道は難所続きで、上がり坂で曲がりくねっている」
語り方は夢とは思えない。
マティルダには、実際に見ているような真実味があった。
「それで、馬車はどうなったのだ?!
見たんだろう?マティルダ」
「馭者の席と、馬車との繋いだ所が別々に離れました。
夢の中では、馬と馭者は無事です」
「では、乗っていた二人はー」
「私が見たのは、馬車の中ー。
中から扉が開いてしまって、ハロルドが崖から落ちかかり…。
アリエールに助けを求め、ドレスの裾を懸命に握りしめておりました」
空に沈みかける太陽が、最後に燃え尽きるように三人を赤く染めている。
「あ、アリエールがー。
離れてー、と泣き叫んでいた。
愛してるなら助けろと、ハロルドは妹に懇願していたわ」
マティルダは顔色は真っ青に近いと思うが、反対に血を全身に浴びている錯覚がした。
すべてモノが血に染まる。
異様なほどに赤い夕陽。
「アリエールは、アリエール。
あの子は彼の手に爪を立てた。
その痛さで、ハロルドは手を離したの」
「落ちたのか、崖に……」
一言も話してなかったロバートが、つまる声を無理に押し出した。
「考える時間はなかった!
切羽詰まっていたの!
アリエール…、あの子は落ちていく彼を見てなかった。
それよりも自分が先に、反対側から馬車の外へ飛び出るしか考えてなかったから」
目から流れ出す涙は、透明でキラキラ光り続けた。
しかし、それは血の涙を流しているように彼らは思えてしまう。
「夢は…、私の夢はー。
そこで終わってしまった。
エドワード殿下、アンゲロス公爵令息。
私は、ただ夢を見ただけでしょうか?
ただの夢を…。ウッ……」
マティルダの押し殺した嘆きは、夕陽が山に隠れて暗くなっても泣き止むことはない。
やがて後ろに見えた山々は、赤く燃えていたがあっという間にピンクから紫にー。
そして、漆黒の闇が世界を支配していく。
実際は、そんなに真っ暗ではない。
彼らの心が、そう見せていた幻だった。
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