65 / 207
第3章
23 夕陽が見せた幻
しおりを挟む
今年王族たちが避暑地に選んだのは、王都から北に1番近い城。
国王は王宮から遠くへ離れると、いざとなると戻るに時間がかかるは憚れる。
城の中では国王御一家、お客様を出迎える従事者たち。
広い玄関の間に大勢の人たちが頭を下げて、何年ぶりに来訪した主を歓迎する。
「陛下、王妃殿下!
エドワード殿下、アドニス殿下、メアリー王女殿下。
並びに、お客様を心より歓迎致します」
赤い絨毯を引かれた上を、国王を先頭に身分順に歩く。
マティルダも最後に歩くと、自分にも頭を深々と下げるのを申し訳なく感じていた。
夕食前の間の時間に、エドワード王子たちはマティルダの夢を聞くことにした。
馬車に揺られた疲労を、皆が到着後に休む時間を使うことにしたのだ。
「どうしても、ダメなの?
私たちが、子供だからなのね?」
最後までメアリーは、夢の話を知りたくて仕方なかったようだ。
「メアリー王女、兄であるエドワード殿下にも話をするのを悩んでます。
話そうと決めたのは、妹が関係してるからです。
もし、夢が本当だったら…」
いったん言葉を止めると、重い口調でマティルダは続けた。
「たった、5歳や3歳差であるとお思いかも知れません。
この思春期の1年で、いろんな経験をします。
つまり、私たちとお二人には歳以上の開きがあるのですわ」
「分かったよ、マティルダ。
私たちが…、君と同じ歳になったら。
いつか、教えてくれるか!?」
「はい、お待ち下さい!
いつかきっと、お話しますわ」
彼女はアドニス殿下に誓った。
兄の彼がそう言ったら、妹は従うしかないだろう。
最後までメアリーは聞きたそうにしていたが、アドニスが腕を引っ張り姿を消した。
ベランダに近くにある丸いテーブルに、三人は座り夕陽が山に隠れるのを眺めながら話しをした。
「私はたまに、変な不思議な夢を見ます。
ロバート様に伝えたのは、夢とは思えなかったからですわ。
そして、今回は過去1番に鮮明だったのです」
男性たちは彼女の顔色が、茜色の夕陽を浴びているが青白く見えた。
瞳の奥には、戸惑いや怯えが見え隠れしている。
話しが進んでいくが、内容が事故から事件性を帯びてきていた。
「妹君と婚約者を乗せた馬車が、曲がりくねる崖から落ちかかった」
「はい、エドワード殿下。
馬車を引いていた馬を、扱っていた馭者が酷使していたのです。
何度も鞭を打ち込んでも、馬は走れなくなって曲がり切れなかった。
あの道は難所続きで、上がり坂で曲がりくねっている」
語り方は夢とは思えない。
マティルダには、実際に見ているような真実味があった。
「それで、馬車はどうなったのだ?!
見たんだろう?マティルダ」
「馭者の席と、馬車との繋いだ所が別々に離れました。
夢の中では、馬と馭者は無事です」
「では、乗っていた二人はー」
「私が見たのは、馬車の中ー。
中から扉が開いてしまって、ハロルドが崖から落ちかかり…。
アリエールに助けを求め、ドレスの裾を懸命に握りしめておりました」
空に沈みかける太陽が、最後に燃え尽きるように三人を赤く染めている。
「あ、アリエールがー。
離れてー、と泣き叫んでいた。
愛してるなら助けろと、ハロルドは妹に懇願していたわ」
マティルダは顔色は真っ青に近いと思うが、反対に血を全身に浴びている錯覚がした。
すべてモノが血に染まる。
異様なほどに赤い夕陽。
「アリエールは、アリエール。
あの子は彼の手に爪を立てた。
その痛さで、ハロルドは手を離したの」
「落ちたのか、崖に……」
一言も話してなかったロバートが、つまる声を無理に押し出した。
「考える時間はなかった!
切羽詰まっていたの!
アリエール…、あの子は落ちていく彼を見てなかった。
それよりも自分が先に、反対側から馬車の外へ飛び出るしか考えてなかったから」
目から流れ出す涙は、透明でキラキラ光り続けた。
しかし、それは血の涙を流しているように彼らは思えてしまう。
「夢は…、私の夢はー。
そこで終わってしまった。
エドワード殿下、アンゲロス公爵令息。
私は、ただ夢を見ただけでしょうか?
ただの夢を…。ウッ……」
マティルダの押し殺した嘆きは、夕陽が山に隠れて暗くなっても泣き止むことはない。
やがて後ろに見えた山々は、赤く燃えていたがあっという間にピンクから紫にー。
そして、漆黒の闇が世界を支配していく。
実際は、そんなに真っ暗ではない。
彼らの心が、そう見せていた幻だった。
国王は王宮から遠くへ離れると、いざとなると戻るに時間がかかるは憚れる。
城の中では国王御一家、お客様を出迎える従事者たち。
広い玄関の間に大勢の人たちが頭を下げて、何年ぶりに来訪した主を歓迎する。
「陛下、王妃殿下!
エドワード殿下、アドニス殿下、メアリー王女殿下。
並びに、お客様を心より歓迎致します」
赤い絨毯を引かれた上を、国王を先頭に身分順に歩く。
マティルダも最後に歩くと、自分にも頭を深々と下げるのを申し訳なく感じていた。
夕食前の間の時間に、エドワード王子たちはマティルダの夢を聞くことにした。
馬車に揺られた疲労を、皆が到着後に休む時間を使うことにしたのだ。
「どうしても、ダメなの?
私たちが、子供だからなのね?」
最後までメアリーは、夢の話を知りたくて仕方なかったようだ。
「メアリー王女、兄であるエドワード殿下にも話をするのを悩んでます。
話そうと決めたのは、妹が関係してるからです。
もし、夢が本当だったら…」
いったん言葉を止めると、重い口調でマティルダは続けた。
「たった、5歳や3歳差であるとお思いかも知れません。
この思春期の1年で、いろんな経験をします。
つまり、私たちとお二人には歳以上の開きがあるのですわ」
「分かったよ、マティルダ。
私たちが…、君と同じ歳になったら。
いつか、教えてくれるか!?」
「はい、お待ち下さい!
いつかきっと、お話しますわ」
彼女はアドニス殿下に誓った。
兄の彼がそう言ったら、妹は従うしかないだろう。
最後までメアリーは聞きたそうにしていたが、アドニスが腕を引っ張り姿を消した。
ベランダに近くにある丸いテーブルに、三人は座り夕陽が山に隠れるのを眺めながら話しをした。
「私はたまに、変な不思議な夢を見ます。
ロバート様に伝えたのは、夢とは思えなかったからですわ。
そして、今回は過去1番に鮮明だったのです」
男性たちは彼女の顔色が、茜色の夕陽を浴びているが青白く見えた。
瞳の奥には、戸惑いや怯えが見え隠れしている。
話しが進んでいくが、内容が事故から事件性を帯びてきていた。
「妹君と婚約者を乗せた馬車が、曲がりくねる崖から落ちかかった」
「はい、エドワード殿下。
馬車を引いていた馬を、扱っていた馭者が酷使していたのです。
何度も鞭を打ち込んでも、馬は走れなくなって曲がり切れなかった。
あの道は難所続きで、上がり坂で曲がりくねっている」
語り方は夢とは思えない。
マティルダには、実際に見ているような真実味があった。
「それで、馬車はどうなったのだ?!
見たんだろう?マティルダ」
「馭者の席と、馬車との繋いだ所が別々に離れました。
夢の中では、馬と馭者は無事です」
「では、乗っていた二人はー」
「私が見たのは、馬車の中ー。
中から扉が開いてしまって、ハロルドが崖から落ちかかり…。
アリエールに助けを求め、ドレスの裾を懸命に握りしめておりました」
空に沈みかける太陽が、最後に燃え尽きるように三人を赤く染めている。
「あ、アリエールがー。
離れてー、と泣き叫んでいた。
愛してるなら助けろと、ハロルドは妹に懇願していたわ」
マティルダは顔色は真っ青に近いと思うが、反対に血を全身に浴びている錯覚がした。
すべてモノが血に染まる。
異様なほどに赤い夕陽。
「アリエールは、アリエール。
あの子は彼の手に爪を立てた。
その痛さで、ハロルドは手を離したの」
「落ちたのか、崖に……」
一言も話してなかったロバートが、つまる声を無理に押し出した。
「考える時間はなかった!
切羽詰まっていたの!
アリエール…、あの子は落ちていく彼を見てなかった。
それよりも自分が先に、反対側から馬車の外へ飛び出るしか考えてなかったから」
目から流れ出す涙は、透明でキラキラ光り続けた。
しかし、それは血の涙を流しているように彼らは思えてしまう。
「夢は…、私の夢はー。
そこで終わってしまった。
エドワード殿下、アンゲロス公爵令息。
私は、ただ夢を見ただけでしょうか?
ただの夢を…。ウッ……」
マティルダの押し殺した嘆きは、夕陽が山に隠れて暗くなっても泣き止むことはない。
やがて後ろに見えた山々は、赤く燃えていたがあっという間にピンクから紫にー。
そして、漆黒の闇が世界を支配していく。
実際は、そんなに真っ暗ではない。
彼らの心が、そう見せていた幻だった。
0
お気に入りに追加
69
あなたにおすすめの小説
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない
曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが──
「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」
戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。
そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……?
──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。
★小説家になろうさまでも公開中

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

【完結】双子の入れ替わりなんて本当に出来るのかしら、と思ったら予想外の出来事となりました。
まりぃべる
恋愛
シェスティン=オールストレームは、双子の妹。
フレドリカは双子の姉で気が強く、何かあれば妹に自分の嫌な事を上手いこと言って押し付けていた。
家は伯爵家でそれなりに資産はあるのだが、フレドリカの急な発言によりシェスティンは学校に通えなかった。シェスティンは優秀だから、という理由だ。
卒業間近の頃、フレドリカは苦手な授業を自分の代わりに出席して欲しいとシェスティンへと言い出した。
代わりに授業に出るなんてバレたりしないのか不安ではあったが、貴族の友人がいなかったシェスティンにとって楽しい時間となっていく。
そんなシェスティンのお話。
☆全29話です。書き上げてありますので、随時更新していきます。時間はばらばらかもしれません。
☆現実世界にも似たような名前、地域、名称などがありますが全く関係がありません。
☆まりぃべるの独特な世界観です。それでも、楽しんでいただけると嬉しいです。
☆現実世界では馴染みの無い言葉を、何となくのニュアンスで作ってある場合もありますが、まりぃべるの世界観として読んでいただけると幸いです。
君は妾の子だから、次男がちょうどいい
月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。
旦那様には愛人がいますが気にしません。
りつ
恋愛
イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる