【完結】すべては、この夏の暑さのせいよ! だから、なにも覚えておりませんの

愚者 (フール)

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第3章

13 調子のイイ人たち

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   彼女は前から気になっていた彼と語らい食べる料理は、美味しいがドキドキして喉が通らなくなってきた。
 身分格差を感じる彼は、一歩引いて侯爵令嬢と食事をそれなりに楽しんでいる。

『相手は、未来の王妃様になられる令嬢だ。
前に幼なじみケイシーに出世の口利きを頼んだが、コチラの方が確実だよな。
俺って、ラッキー!』

「どうされたのですか?
もう少しお食べになられたら、如何いかがですか?」

心とは裏腹に、優しい声で思いやる彼。

「ええ、男性と二人きりで食事なんて……。
父や兄でも機会がありませんので、私ったら緊張しちゃってますの」

「ハハハ、俺は大きな石のかたまりでもと思って下さい。
ああでも、石はしゃべりませんけどね」

会話を聞いていて、バカらしくなってくるゴーダン伯爵令嬢ケイシー。

『女なら誰でもいいの!!
それが、エドワード殿下と繋がりがある女ならー』  

「ゴーダン伯爵令嬢、彼ってブルネール侯爵令嬢に積極的ね。
石になってまで、彼女の側にいたそうよ」

「ベンガー伯爵令嬢!」

「フフフ、お静かに!
見つかってしまうわよ。
マイヤー伯爵令息はお調子者で面白い御方ね?クスクス」

彼女が馬鹿にしているのがありありと分かる。

「た、ただの幼なじみよ!
彼なんて、ブルネール侯爵令嬢に熨斗のしつけて差し上げるわ!」

「イヤだわ。あまり興奮しないで、貴女って声が大きいわよ。
彼は、べつに貴女の者ではないでしょう。
それよりブルネール侯爵令嬢って、マイヤー伯爵令息がお好きなの?
だったら、候補者としては失格よね」

「ベンガー伯爵令嬢……。
何を考えていらっしゃるの?」

グレンダはケイシーの耳元で囁くと、目と目をバチバチさせた。

   二ヶ所を丸見えの場所から同時に様子を伺う、そして何よりマティルダはけして見付からない。

その夢みたいな場所は、木の上にあった。
彼女は幼い頃は家族団らんという居場所が無いため、よく木に登り独りで空を眺めていたのだ。

『こんな時に、特技が役立つ日が訪れるとは思わなかったわ』

自画自賛じがじさんして、上から丸見え状態の下を見続けていた。

マティルダが考えた以上の出来事が、ブルネール侯爵令嬢によって起きようとしていた。
恋とは…、人を見事に狂わせ踊られる。

「私、実はエドワード殿下の婚約者候補を辞退しようと決めました。
マイヤー伯爵令息は、殿下をどんなお方と思っておりますか?」

前に座る令嬢に、思いもかけない言葉と質問を投げかけられた。

「ちょっと!
それは冗談でなく、本気なのですか?!
よくお考え下さい。
貴女は、未来の王妃に1番近い方ですよ」

告白を受けて、自分の保身ほしんを考えてしまう彼。

「同じことばかり、皆さまは言いますね。
王妃になるだけが幸せとは思えません!」

「そんなのは、間違っております。
ブルネール侯爵令嬢!
王族になれるし、王子を産めば国母になれる。
女性に生まれて、これほどの名誉が他にありますか?!」

この対話を見聞きして、伯爵令嬢たちが驚き出した。

「聞きまして、エドワード殿下の婚約者候補を辞めると言ってますわ!」

「そうなると、候補は私か貴女しかいなくなるわね。
貴女は王妃になりたいの?」

「……、最初から諦めていた。
ブルネール侯爵令嬢には、敵わないでしょう」

「私たちに、運がまわってきたわ。
でもかくからしたら、貴女よ。
辺境伯爵ですもの、良かったわね。フフフ」

ベンガー伯爵令嬢グレンダは、意味深な笑いをして隣の自分に祝福してくれた。

『馬車の中で、あんなに殿下に色目を使っていたわ。
それなのに、アッサリと引き下がるの。
ベンガー伯爵令嬢は、何か他に考えがあるのかしら?』

「疑っているの、私をー。
所詮しょせんは…、私には手が届かなかっただけよ」

「何を考えてる?
貴女が、そんなお人好しではないはず!」

「うふふ、貴女が婚約者におさまったら。
私に伯爵以上の殿方を紹介してよ!
後妻ごさいでも構わない。
出来るわよね、それぐらい」

「取引しようと言うのね。
どうしようと思っているの」

ゴーダン伯爵令嬢ケイシーは、顔から汗を流して一点に彼女の顔を見る。

「簡単よ!
見て、あの姿をー。
ここからだと抱き合っているように見えるし、それ以上にも見えるわ」

「な、何をー。すればいいの」

暑い、サンダース伯爵令嬢でないけど倒れそうになる。

「一緒に大声で叫ぶのよ。
きゃあー、何してますかってね。
そうすれば、あの二人は終わりです。
じつに簡単でしょう?」

緊張で額に吹き出した汗が、下地面に一滴だけ滴り落ちる。
伯爵令嬢たちは、侯爵令嬢と伯爵令息に卑怯ひきょうな罠をかけるつもりでいた。
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