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第3章

9 恋の矢

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   人混みで頭しか見えないが、倒れた人がいたようだ。
ザワつきで不安を感じる。

「マティルダ、倒れたのはブルネール侯爵令嬢よ!」

大人より中途半端な背丈のメアリー王女が、すき間から目ざとく見つけて教えてくれた。

「メアリー王女、サラ様がぶっ倒れたの?
暑いから、熱中症にでもなったのかしら?
これを利用してキューピット、恋の手伝いをしなくてはなりませんわよ!」 

「言葉遣いが変だよ。
侯爵令嬢が倒れて、動揺どうようしているんだね」

「マティルダがキューピット?
面白おもしろそう~!
私もお手伝いしたいな!
なにをするの?」

マティルダに気があるせいか、アドニスは彼女に対して比較的甘い。 
メアリーはワクワクして、彼女の隣でマティルダを見上げている。
そんなメアリーとアドニスを無視して、前へ進み出て倒れたサラの前に近寄った。

「サラ様!意識ありますか?」

熱中症の経験者で、アドニス殿下を助けた彼女の周りの人々たちはオロオロして見守るだけ。
顔を寄せてサラを見ると、チラッと笑ってマティルダを見る。

『ー!!演技をしている?』

大袈裟おおげさに水をと叫び用意させて、ハンカチをらして顔や首筋を濡らしたりする。

「サラ様、マイヤー伯爵令息にお姫様抱っこして頂きますわ。
興奮して、鼻血や大声をお出しなさらないで下さいませ」

耳元でマティルダがささやくと、顔をみるみると赤らめる姿は可愛らしい。
余計よけい知らぬ人は、誤解する赤さになってくれた。

「ブルネール侯爵令嬢は、夏の暑さで具合が悪くなって意識がございません!
貴方は…?マイヤー伯爵令息のジュージ様でしたわよね!?
ブルネール侯爵令嬢を、休める場所へお運びるのを助けて下さいますか?!」

ジュージの名前を呼び指名して、マティルダは彼にサラをお願いする。

メアリーはきゃっきゃと奇声をして、隣にいた兄アドニスの袖を引っ張って大喜び。

「やるなぁ~、マティルダは!
大胆だいたんで強引な手口をする。
これで2人が結ばれてたら、魔法使い並みだ!」

「それ、違っていますわよ。
マティルダを魔女の様におっしゃらないで、キューピットの間違いでしょう!?」

「キューピットって男の子だ。
マティルダは女性だ。
どさくさにまぎれて、力技使って彼に侯爵令嬢を横抱きさせているぞ」

「あら素敵な、キューピット!
これでお二人がいい仲になったら、本物のキューピットですわ!」

『簡単には、上手くいかないだろう。
侯爵令嬢がこれを使って、チャンスにすればいいがー』

侯爵令嬢と話をしていた兄上は、どこで何しているんだ。
婚約者候補が倒れたのに、ただ叫んで人を呼んだだけか!?
探していたら、マティルダとブルネール侯爵令嬢が去った場所に魂が抜けたエドワードがいる。

「エドお兄様、ご令嬢が倒れて驚いてしまいましたのね。
一緒に行って、様子を見に行かないのですか?」

案外だらしがないわね、エドお兄様はー。

「ああ、メアリーか…。
う、う……ん。サンダース伯爵令嬢が、側にいるから大丈夫だと思う。
私はいない方がー」

『侯爵令嬢を好きだったのか?
彼女にふられて、ここまで気落ちしたのか?
婚約者の筆頭だったし、未来の妻と思って考えていたんだろうか……』

静かに兄エドワードを気遣っていたのに、デリカシーの欠片かけらがない者がいた。

「ブルネール侯爵令嬢サラ様をを、エドお兄様はお好きだったのね。
でしたら、私たちと一緒に様子を見に参りましょう」

この誘いに眉を下げて暗い表情をしているメアリーは、兄の気持ちを読み取ろうとしていた。

「彼女は、私と婚約をしたくないそうだ。
他に誰か、想っている人がいるようだ。
この事は公になるまで、他人に何も言ってはならないからな」

「兄上の言っている意味が分かったか、メアリー。
子供の私たちが、好き勝手にしゃべってはダメだよ」

弟アドニスが、心配な妹に念を押す。

「……、はい 」、普段はにぶく空気読めない彼女でもさすがに読めてしまう。

「マティルダの所へ、私は行って来ます!」

続けて兄二人に言ったら、タイミングよく昼食の支度したくができたと合図あいずのベルが鳴るのが聞こえる。
兄たちはこの音は天が味方したのだと、喜び彼女の暴走を一歩前でふせげた。



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