【完結】すべては、この夏の暑さのせいよ! だから、なにも覚えておりませんの

愚者 (フール)

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第3章

6 報告と決心

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 名前を呼ばれたマティルダは、1番最後に馬車に足をかけて入る。
馬車の中は王子王女だけだと思っていたが、そこには意外な人物が一人乗り待っていた。

「これはー、ブルネール侯爵令嬢サラ様ではないですか」

驚くように彼女の家名を呼ぶと、メアリー王女が意地悪をしたような顔をして私を見て言ってくる。

「マティルダを通して、ブルネール侯爵令嬢とはつながりが出来たんですもの。
毎回いつも、同じ組み合わせではまらないでしょう?
だから、私が侯爵令嬢をお呼びしたの」

『こんなことをメアリー王女は仰っているが、秘密の話の内容を知りたいんだわ』

この年頃はなんでも興味津々きょうみしんしんだし、小さくとも女性特有の感情をお持ちのようだ。

左様さようでございますか。
サラ様はエドワード殿下と離れて、私たちと御一緒で宜しかったのですか?」

隣に座ったと同時に話すと、嬉しげに返事をされた。

「メアリー王女殿下にコチラの馬車にお誘い頂き、感謝しきれませんわ。
あちらには、伯爵令嬢たちがいらっしゃいますからね」

『エドワード王子は、逆に今頃はご苦労してるだろうな。
私やサラ様が今までは、うまく当たりさわりなく接してやってきてたからね』

「マティルダ、話していたのは誰だったんだ。
僕…、じゃなく。 
私は部屋から出てなくて知らないんだ」

「クスクス、あらっ恥ずかしいこと?!
アドお兄様は、その方に焼きもちしてますの?」

「そんなことはないぞ。
見たことがなかったから、気になった。 
ただ、それだけだよ」

仲良くおしゃべりする二人は、見かけだけは特級品で見栄えは良い。
性格だけが、クセが濃くって難ありだ。

「そうそう今しがた、マイヤー伯爵令息ジョージ様と御挨拶しました。
たまたま婚約の話になりまして、彼は決まったお方がまだいないそうですよ」

「本当でござきますか!?
サンダース伯爵令嬢!」

熱病になったかの様に顔をして赤らめ、目を輝かしては私に確認を求めてきた。

「特定のお好きの女性も、まだいらっしゃらないそうです」

「うふふ、情報をありがとうございます。マティルダ様」

大喜びするサラは、もう周りの人を見ていない。
恋の盲目もうもくがピッタリの言葉、自分の世界に入りまくっている。

「この令嬢は、どうしたのだ?
いきなり笑いだして、頭?!悪い…、大丈夫か?」

「アドニス殿下、侯爵令嬢は恋する乙女なので…。
気が触れたワケでなく、彼女はごく普通ですから」

2人の教師として、マティルダは冷静に状況を説明する。
こんなにボロボロに言われていても、想っていた人に婚約者が居ないだけでも安心する。

『あっ、ついアドニス殿下に返事してしまったわ。
これではサラ様が、ジョージ様に好意あることを分かってしまう』

マティルダは内心は動揺して、3人を観察していたら横からとんでもない話をする。

「私、避暑地で彼に想いを伝えますわ!」

「…!ちょっと、サラ様!」

彼女らの会話でメアリーは分かってしまって、ニヤニヤして質問してみた。

「エドお兄様は、ブルネール侯爵令嬢にフラレてしまうの?」

「メアリー、可哀想だが愛のない生活は出来ないだろう。
よく見て考えろよ」

アドニス殿下も勘が良すぎ、侯爵令嬢本人がばらしてしまっては隠しても意味ない。
私以上に、実の兄にキッパリ言っちゃうな。
しかし、サラ様はジョージ様に想いを本当にお伝えするのかなぁ。

「エドワード殿下や、私の両親には申し訳ないですけど。
嘘をついてまで、いつって生きていく方が辛いのです。
お許しくださいませ」

「ご自分の人生です。
必ずしも、サラ様の思い通りになるとは分かりません。
それを理解して、行動して下さいませね」

喜んでいた時に冷たい水を頭からかけられた気分になり、顔が一瞬だけゆがみを見せた。

「………。マティルダ様、わかりました。
チャンスがあるだけでも、それでいいのです。
甘いと思われますが、ジョージ様をずっと気になり胸の中で、くすぶっていたのです」

このサラ様の恋が、これからどう飛び火するのか。
そしてこれが、関係のない人たちにも影響を与えることになるとは知らずにいた。
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