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第3章

4 頼まれキューピット

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 扇を広げて隠すようにして、ハンカチで涙と鼻を拭いたりしている。
心を落ち着かせるには少しの暇が必要だと、マティルダは顔を背けてる気遣いをした。

「はぁー~……、そのお方の名前を聞いてくれますか?
きっと、驚くことになりますわ」

「え!ええ、サラ様!」

暑さだけでなく緊張してきたマティルダは扇を取り出して、2人は一緒になってパタパタと手首を動かす。

『なんでそんなに躊躇ためらってますか?
分かりきってますから、どうぞおっしゃって!』

美しい薄い緑色に白バラの柄の扇が、ビシッと音を立てて閉じられる。
彼女の強い意思が、音として表れたような気がした。

「マイヤー伯爵令息のジョージ様ですの!」

「えーえっ、えぇ~!
従兄弟の公爵令息ではないのですかぁ~??!」

彼って父親と一緒に護衛として、避暑地に同行してるはず。
いつも従兄弟いとこの公爵令息とエドワード殿下と3人と話しているのを見たわ。
マイヤー伯爵令息と彼女が二人で居たのを見たのは、私は確か数える程度ていどだった。

「周りから見たら、そう見えますでしょうね。
従兄弟はあくまでも、従兄弟なのです。
従兄弟は友人でもあり、兄のような存在なの。
彼は、ジョージ様は違うのよ」

「マイヤー伯爵令息は、身分は伯爵の息子で次男ですよ。
貴族として、爵位を頂けるか分かりません。
ご両親は将来を考え、恐らく反対をされますよ」

美しき顔つきが険しくなる。
いつも穏やかで余裕のあるたお方が、こんな表情を見せるなんて初めて見た。

「そんなのは知ってるわ!
人を好きになるのに、地位なんて関係ないの。
彼の姿が目に入るだけで、胸がドキドキしてしまう。
どうしょうもないのよ!」

自分の気持ちを熱く語る。
侯爵令嬢は、この夏の暑さより負けない熱い恋をしていた。

「恋は独りでも出来ますが、婚約やその先の婚姻は相手がいて出来ます。
ご自分の想いが、お相手の方と同じなのか…」

「私から彼に告白するのは、恥ずかしくて出来ませんわ。
マティルダ様……。
彼が誰かを心に想った方がいらっしゃるか。
私に代わって、お調べ下さいませんか?」

『わぁー、私がマイヤー伯爵令息にー。
なな、何でよ?はぁ?はい!?』

バカ言ってるんじゃあないわよ。

「ー!なんで?私ですか?
お好きなのは、サラ様ですよね」

「助けて下さい、お願い!
貴女なら、目立たないで調べられます。
どうかお願いします!!」

どうして……、みんなして~。
皆して頼んでばかり、いいように使われている。
私は便利屋ではないわよ!
ウウッ~、今すぐに地団駄じたんだを踏みたいよぉ!
ううッ~、そこに見えるクッションをボコボコにしたい~!

「ああっ、こんなことばかり。
もしも、マイヤー伯爵令息がサラ様をお好きならどうしますか?
エドワード殿下の婚約者候補を、ご自分から辞退するのですか?」

「婚約者候補はどちらにしても辞めます。
侯爵の父に、自分の気持ちを手紙に書きました。
王妃様が実家に近況をしらせなさいと、お気遣いがありましたのでー」

「その手紙は、今は何処にありますか!
まだ、それは早いですよ!
そんなもの送っては、いけません!」

順番が違うでしょう。
マイヤー伯爵令息が他の人を好きなら、サラ様は終わってむわ。詰んでしまう!

「どうせどっちに転んでも、苦労するなら幸せを選ぶわ。
貴女と同じことをする!」

「どういう意味です?」

まさか、私が倒れた時に全てを忘れた振りをしていたこと?!
暑さを利用したのがバレた?
実際は本当に、一部記憶ないしよく覚えていない。

「夏の暑さのせいにします。
それは、最後の手段ですがね」

『この人に、演技したとバレてない?
ここまで話を伺えば、一肌脱がなくては如何いかんのでは?』

あきらめてマティルダは、サラの恋の橋渡しをする。

「マイヤー伯爵令息に尋ねるだけですよ。
いいですか?それだけです。
私はその後は手伝わないし、どうなろうが責任は取りませんからね」

「ありがとうございます。
サンダース伯爵令嬢!
マティルダ様、感謝致しますわ」

自分が好きな人に告白する気分になる。
他人の恋なのに、ドキドキしてきちゃう。
頼られると嫌でも受けてしまう彼女は、お人好しの性格のようだ。

ブルネール侯爵令嬢サラ、彼女の恋の行方はどうなるのだろうか。
気まぐれなキューピットの矢は、誰にぬかれてしまうのだろうか。
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