9 / 207
第1章
8 知らぬ存ぜぬ
しおりを挟む
いろいろあったが、王家の広々とした贅を凝らした馬車にエドワード殿に支えられて乗り込む。
休んで落ち着いた彼女の息が、あの2人の争いでまた荒くなっていたからだ。
もちろん、馬車の中は二人きりではない。
婚約者候補の筆頭、ブルネール侯爵令嬢サラ様と御一緒だ。
彼女は身分や容姿を考慮したら、5人の中で一番に選ばれるお方だろう。
現在は、5人いた候補者から3人に絞られている。
つまり、2人は脱落したワケなのだ。
一歩頭を抜け出している、侯爵令嬢の彼女は…。
栗毛のゆるい巻き髪に、オレンジがかった茶色の瞳。
本人は高位貴族らしくないつまらない色合いで、これがコンプレックスだと内緒で教えてくれた。
金髪ブロンドにサファイアやエメラルドの美しい瞳の色に憧れいると、そっと本心を話して下さる。
そんな風に話してくれるのは、私に心を開いてくれている証拠でもあるのかと思ってたりした。
婚約者候補でない部外者だから、多分だが気軽な気持ちで私に仰ったのだろう。
高位貴族たちにありがちな、高慢さがないのが好印象な彼女。
「お顔色が真っ赤でしたが、いまは青白いですわ。
夏の暑さと、日頃の疲れが出てしまったのね」
『前はそうだが、今は…』
さりげない彼女の気遣いは、殿下とマティルダ本人にはバレバレであった。
「いいえ、だいぶ良くなりました。
こうして、御迷惑をかけて申し訳ありません」
マティルダは、当たり障りない濁す返事をした。
「悪いようにしないので、安心してくれよ」
エドワード様に苦笑いしながら言われて、感謝を示すようにお礼を述べる。
実際は実家の屋敷に帰郷したら、アリエールの味方になっている両親に暴言を言われるに違いない。
妹は、私の婚約者との体の関係までなぜ暴露したのだろう。
彼女も暑さで、感情がコントロール出来なかったのね。
サンダース伯爵家は、王都にタウンハウスは持っていない。
それには、深い理由があった。
後続の馬車は、伯爵令嬢たちが私たちについて行くように走る。
到着するとお茶をしないで休むかと言われたがお断りして、皆様と同席する事にした。
本人が居ないところで、何を言われるのかわからない。
誤解や憶測は、貴族世界では命取りだ。
「この方々は、そんな愚かな話はしないだろうげど…」
令嬢たち4人で席に着くと、エドワード殿下が母である王妃様を連れ立って現れた。
「サンダース伯爵令嬢、暑さで倒れたのですってね。
体調は如何かしら?」
椅子から立ち上がりカーテシーをして、王妃様にお返事をお返しする。
「王妃様、勿体ないお言葉です。
この暑さで意識が遠退きました。
ここにいる殿下や皆様には、心配して頂きお礼申し上げます」
「そう、元気になって良かったわ。
エドワードから、少し事情を耳にしました。
妹君と婚約者の2人が、貴女に酷いことを仰ったようね。
それで、揉めてしまったのでしょう?」
「はい……。ほぼ何があったかは覚えてないのです。
互いに熱くなったようで、みっともない言動をしました。
申し訳けありません」
別に謝る必要はないのだが、こうして避難場所を与えてくれるので私は下に出ていた。
人というものは、特に上に立つ人種はこれに優越感を持つ。
ペコペコしてプライドがないと、別に思われても構わないわ。
私なんて生まれた瞬間から、こうしないと生き残れなかった。
「皆さんも、明日から夏休暇です。
ご領地には、帰省する予定ですか?」
私以外の婚約者候補たちは、王妃様にハイとお返事をしていく。
「………、あの~。私はー」
帰りたくても、家族たちは私を置いてきぼりにして行ってしまいそう。
休み中は何処かで、住み込みで働けないかな。
「サンダース伯爵令嬢。
貴女、娘の家庭教師やらない?
衣食住は保証しますし、給金も出しますよ」
「王妃様は、神様みたいですわ。
どうして、私の望みがお分かりになられたのですか?」
学園からの流れで、貴女の悩みは痛いほど理解できます。
マティルダ以外は、王妃の助け船に胸中で頷くのである。
「ホホホ、特別扱いは人からやっかみを受けます。
ですから、女官が住む部屋と食事になるけど構わない?」
「そんなのは構いません、王妃様。
ご好意に感謝致します。
あぁ、これで夏だけは自由を満喫出来ますわ」
よっぽど嬉しいみたいで、マティルダは何度も頭を下げてはお礼を述べる。
「そんなに頭を下げなくて良いのよ。
サンダース伯爵令嬢には婚約者候補の悩みを聞いてくれて、私たちの間を取り持ってくれて助かってます」
「生徒会の仕事も助けて貰ってます。
これぐらいの事はさせてくれ。
母上もそう考え、メアリーの家庭教師を依頼したんですよね」
「サンダース伯爵令嬢が、困った時は助けようといつも思ってました。
父上のサンダース伯爵家には、王家から書簡を出して伝えます」
幸運だ!あー、助かった。
王家からなら、父だって断れない。
アリエールたちと離れて気分転換もできて、幸せ過ぎて叫びたくなる。
「ご好意に感謝致します。
王女殿下に、心からお仕え致します」
「手間のかかる妹だが、宜しく頼むよ」
エドワード殿下は曇りかがった表情をするが、マティルダは嬉しくて全く気づかないでいた。
憂いの晴れた彼女は食欲が出てきたので、相槌をして茶菓子を堪能する。
婚約者たちに笑顔を浮かべたエドワード殿下と王妃様は、お茶をしながら一人一人と交流をして無事にお茶会を終えたのである。
休んで落ち着いた彼女の息が、あの2人の争いでまた荒くなっていたからだ。
もちろん、馬車の中は二人きりではない。
婚約者候補の筆頭、ブルネール侯爵令嬢サラ様と御一緒だ。
彼女は身分や容姿を考慮したら、5人の中で一番に選ばれるお方だろう。
現在は、5人いた候補者から3人に絞られている。
つまり、2人は脱落したワケなのだ。
一歩頭を抜け出している、侯爵令嬢の彼女は…。
栗毛のゆるい巻き髪に、オレンジがかった茶色の瞳。
本人は高位貴族らしくないつまらない色合いで、これがコンプレックスだと内緒で教えてくれた。
金髪ブロンドにサファイアやエメラルドの美しい瞳の色に憧れいると、そっと本心を話して下さる。
そんな風に話してくれるのは、私に心を開いてくれている証拠でもあるのかと思ってたりした。
婚約者候補でない部外者だから、多分だが気軽な気持ちで私に仰ったのだろう。
高位貴族たちにありがちな、高慢さがないのが好印象な彼女。
「お顔色が真っ赤でしたが、いまは青白いですわ。
夏の暑さと、日頃の疲れが出てしまったのね」
『前はそうだが、今は…』
さりげない彼女の気遣いは、殿下とマティルダ本人にはバレバレであった。
「いいえ、だいぶ良くなりました。
こうして、御迷惑をかけて申し訳ありません」
マティルダは、当たり障りない濁す返事をした。
「悪いようにしないので、安心してくれよ」
エドワード様に苦笑いしながら言われて、感謝を示すようにお礼を述べる。
実際は実家の屋敷に帰郷したら、アリエールの味方になっている両親に暴言を言われるに違いない。
妹は、私の婚約者との体の関係までなぜ暴露したのだろう。
彼女も暑さで、感情がコントロール出来なかったのね。
サンダース伯爵家は、王都にタウンハウスは持っていない。
それには、深い理由があった。
後続の馬車は、伯爵令嬢たちが私たちについて行くように走る。
到着するとお茶をしないで休むかと言われたがお断りして、皆様と同席する事にした。
本人が居ないところで、何を言われるのかわからない。
誤解や憶測は、貴族世界では命取りだ。
「この方々は、そんな愚かな話はしないだろうげど…」
令嬢たち4人で席に着くと、エドワード殿下が母である王妃様を連れ立って現れた。
「サンダース伯爵令嬢、暑さで倒れたのですってね。
体調は如何かしら?」
椅子から立ち上がりカーテシーをして、王妃様にお返事をお返しする。
「王妃様、勿体ないお言葉です。
この暑さで意識が遠退きました。
ここにいる殿下や皆様には、心配して頂きお礼申し上げます」
「そう、元気になって良かったわ。
エドワードから、少し事情を耳にしました。
妹君と婚約者の2人が、貴女に酷いことを仰ったようね。
それで、揉めてしまったのでしょう?」
「はい……。ほぼ何があったかは覚えてないのです。
互いに熱くなったようで、みっともない言動をしました。
申し訳けありません」
別に謝る必要はないのだが、こうして避難場所を与えてくれるので私は下に出ていた。
人というものは、特に上に立つ人種はこれに優越感を持つ。
ペコペコしてプライドがないと、別に思われても構わないわ。
私なんて生まれた瞬間から、こうしないと生き残れなかった。
「皆さんも、明日から夏休暇です。
ご領地には、帰省する予定ですか?」
私以外の婚約者候補たちは、王妃様にハイとお返事をしていく。
「………、あの~。私はー」
帰りたくても、家族たちは私を置いてきぼりにして行ってしまいそう。
休み中は何処かで、住み込みで働けないかな。
「サンダース伯爵令嬢。
貴女、娘の家庭教師やらない?
衣食住は保証しますし、給金も出しますよ」
「王妃様は、神様みたいですわ。
どうして、私の望みがお分かりになられたのですか?」
学園からの流れで、貴女の悩みは痛いほど理解できます。
マティルダ以外は、王妃の助け船に胸中で頷くのである。
「ホホホ、特別扱いは人からやっかみを受けます。
ですから、女官が住む部屋と食事になるけど構わない?」
「そんなのは構いません、王妃様。
ご好意に感謝致します。
あぁ、これで夏だけは自由を満喫出来ますわ」
よっぽど嬉しいみたいで、マティルダは何度も頭を下げてはお礼を述べる。
「そんなに頭を下げなくて良いのよ。
サンダース伯爵令嬢には婚約者候補の悩みを聞いてくれて、私たちの間を取り持ってくれて助かってます」
「生徒会の仕事も助けて貰ってます。
これぐらいの事はさせてくれ。
母上もそう考え、メアリーの家庭教師を依頼したんですよね」
「サンダース伯爵令嬢が、困った時は助けようといつも思ってました。
父上のサンダース伯爵家には、王家から書簡を出して伝えます」
幸運だ!あー、助かった。
王家からなら、父だって断れない。
アリエールたちと離れて気分転換もできて、幸せ過ぎて叫びたくなる。
「ご好意に感謝致します。
王女殿下に、心からお仕え致します」
「手間のかかる妹だが、宜しく頼むよ」
エドワード殿下は曇りかがった表情をするが、マティルダは嬉しくて全く気づかないでいた。
憂いの晴れた彼女は食欲が出てきたので、相槌をして茶菓子を堪能する。
婚約者たちに笑顔を浮かべたエドワード殿下と王妃様は、お茶をしながら一人一人と交流をして無事にお茶会を終えたのである。
10
お気に入りに追加
69
あなたにおすすめの小説
なんで私だけ我慢しなくちゃならないわけ?
ワールド
恋愛
私、フォン・クラインハートは、由緒正しき家柄に生まれ、常に家族の期待に応えるべく振る舞ってまいりましたわ。恋愛、趣味、さらには私の将来に至るまで、すべては家名と伝統のため。しかし、これ以上、我慢するのは終わりにしようと決意いたしましたわ。
だってなんで私だけ我慢しなくちゃいけないと思ったんですもの。
これからは好き勝手やらせてもらいますわ。
王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。
石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。
ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。
それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。
愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
あなたには彼女がお似合いです
風見ゆうみ
恋愛
私の婚約者には大事な妹がいた。
妹に呼び出されたからと言って、パーティー会場やデート先で私を置き去りにしていく、そんなあなたでも好きだったんです。
でも、あなたと妹は血が繋がっておらず、昔は恋仲だったということを知ってしまった今では、私のあなたへの思いは邪魔なものでしかないのだと知りました。
ずっとあなたが好きでした。
あなたの妻になれると思うだけで幸せでした。
でも、あなたには他に好きな人がいたんですね。
公爵令嬢のわたしに、伯爵令息であるあなたから婚約破棄はできないのでしょう?
あなたのために婚約を破棄します。
だから、あなたは彼女とどうか幸せになってください。
たとえわたしが平民になろうとも婚約破棄をすれば、幸せになれると思っていたのに――
※作者独特の異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。
※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。
あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。
ふまさ
恋愛
楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。
でも。
愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる