【完結】すべては、この夏の暑さのせいよ! だから、なにも覚えておりませんの

愚者 (フール)

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第2章

20 前スペア王子

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   アドニス王子と2人で玄関の広間に入ると、メアリー王女が寄ってきてニヤニヤして私たちを見てくる。

『この表情は、どういう意味だ?
絶対に勘違いしてるよね。
私は常識人で、悪いが年下は興味ないよ』

無言のすれ違いの対話をしていたら、すぐ近くで話し声がしてきた。

「叔父上、ご無沙汰ぶさたしております。
健勝けんしょうでなりよりです」

「おぉっ、アドニスか?!
やっと、ここへ来てくれたな。
体調が悪くて寝たきりと、兄上からから手紙をもらい。
心配しておったぞ!」

おいの健康問題を本気に心配してか、両肩に手をかけて様子を見ている。
こう見ているとよく似ていて、血のつながりを容姿で確認ができた。

『公爵様、それはですね。
ただの引き籠もりだから…』

マティルダは、カッセル公爵に胸の中で返事をした。
公爵様からお声が掛かるまで、腰を折り頭を下げる。

「叔父様~、あのね~。
コチラの令嬢は、私の夏休み期間限定の家庭教師ですのよ!」

メアリーは伯爵令嬢のマティルダのために、挨拶しやすいように叔父のカッセル公爵に顔見せしする。

「メアリー王女様!
会話中に割り込んでのお話しは、お行儀ぎょうぎが悪うございますよ」

つい顔を上げて、彼女に注意してしまった。

「ごめんなさい、叔父様。
マティルダを早く紹介したかったのですわ」

しょぼーんとすると、めいが可愛いのか頭をでながらなぐさめて笑う。

「まぁ、よいよい!ハハハ…。
そなたがメアリーの家庭教師か?
学生みたいに、お若いな」

「叔父上。彼女は、兄上の友人でまだ学生です」

やっと、挨拶できる会話に辿たどく。
貴族の身分差は面倒だと、回りくどい礼儀に疲れてくる。

「マティルダ・サンダースと申します。
初めてお会いでき、光栄でございます。カッセル公爵様」

「サンダース伯爵令嬢、よく来られた。
のんびりと、我が家で休むのが良い。
姪と甥を、これからも宜しく頼む」

勿体もったいなくも宜しくと頼まれて、無事にご挨拶も済ませられて安心した彼女である。


   メアリー王女とマティルダは、今晩泊まる部屋に案内されていた。

「カッセル公爵様とのご挨拶は、とても緊張しましたわ」

「そう思って、私から紹介したの。
だって、マティルダがあのままじゃあ可愛そうだもん!」

「どうお声がけすればと、助かりました。
メアリー様、私と同じ部屋で良かったのですか?
母上様の王妃様と、一緒に過されたらどうですか?」

「もう、私は10歳です。
旅行でお付きの者が少ない時に、お二人だけにさせたいわ」

両親に気遣いして、いい娘さんじゃないの。

「こちらのお部屋になります。なにかお困りでしたら、私がお世話を致します」

案内してくれたメイドに、宜しくねってお願いする。

「夕食時にお声を掛けしますので、それまではゆっくりお過ごし下さい」

張り付いた笑みを私たちに向けてから、一礼してそそくさと部屋を出ていく。

「冷たいお茶が、テーブルに用意してありますね。
お飲みになりますか?」

準備をしていると、外からノックする音がしてきた。

「あらっ、お兄様かしら?」

メアリー王女が扉を開けると、
予想外の人が立っている。

「王女殿下、サンダース伯爵令嬢はいらっしゃいますか?」

「貴女はー、ブルネール侯爵令嬢ですよね?
ええっと、お待ちになって…」

急ぎ足で現れると、ブルネール侯爵令嬢サラ様が私に会いに来たと知らされた。

     奥の部屋から呼ばれたマティルダは、扉の近くにうつ向いて前で両手を組んでいる侯爵令嬢を不自然に感じた。
馬車の中で、なにか良くない事が起きたのだわ。

「これはブルネール侯爵令嬢、どうされましたか?」

「サンダース伯爵令嬢に相談がありまして、お時間があるかしら?」

いつも前を向いて自信に満ちている方が、うつ向いて独りでコチラに来ている。
2人の伯爵令嬢たちと、仲がこじれたのでしょう。

「夕食前の時間なら、どんな相談なのですか?」

「馬車の中でエドワード殿下が、マティルダ様が彼女たちに水をかけた話になったの」

私たちの会話を耳にして、私の側にいる王女様をみょうに気にしてしまう。

「それって、元々は彼女たちが大声で口喧嘩くちげんかしていたからよ。
私がマティルダに、水をかけるように命じたのよ」

王女様は、兄の婚約候補たちの本性を知りたかった。

「だったら、妹としてエドお兄様の未来のお嫁さんの御相談を知りたいわ。
私にもお力になれるかも……。
しれないし、ねっ!」

たった10歳で小姑こじゅうとみたいだ。
奥の部屋に用意したお茶を飲み、ブルネール侯爵令嬢の話をくことにする。

それが新たなる厄介事やっかいごと火種ひだねになるとは、マティルダは予期よきしていなかった。
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