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第1章

1 狂いそうな夏

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 暑いと言っては、ハンカチで顔のひたいの汗をそっとぬぐう。
彼女たちはおうぎをあくせく動かし続けて、学園の中庭へりょうを求めてそぞろ歩く。

ちょうど昼のランチを終えて、少し風にあたってお話しをしましょうかと外へ行けばー。
日差しが刺すように熱く痛く感じ、彼女は頭が少しだけボーッとしていた。

 ここからでも判別可能はんべつかのうな人物たちが、木陰の下のベンチでくつろいで座っているではないか。
見てはいけないものを見て、暑さ以上に気分を悪くさせる。

外の暑さを上回る、熱を発してムンムンしていた。
周りの者たちはというと、イチャつきを見せつけられてあきれているようだ。
 
私の心をさっしてくれてか、有り難くも代弁だいべんしてくれているご令嬢たち。

「んまぁ~!マティルダ様!
あれは、どう見ても…。
ご婚約者のハロルド様と妹君アリエール様ではございません?!」

「あらあら、本当ですわ。
しかし…、これは……。
どうっているんでしょうか?」

「お二人は、この暑さを感じないのでしょうか?
あんなに人前で、くっついていて……」

3人のご令嬢が代わる代わる話しては、嫌みと質問を私に直接ぶつけてくれた。
被害者の私に言われましても、なんだか頭がますます痛くなってきたわ。

「えぇ…、そうですわね。
婚約者と妹で、間違いないようですわ。
ああー、ムカつく!
クソぉー、なんで今日は…。
こんなにも、暑いのかしら。
すべてが、不快ふかいよ!」

我慢できなくなり、ついつい心を隠さず言葉として口にしてしまった。

「「「はい?!いましがたなにかおっしゃって、マティルダ様?」」」 

貴族の令嬢らしからぬ、発言を一歩手前をかろじて止める。
二人を見たくないのか、下を向くとしたたる汗が。
地面に落ちるのを、目で追うがボヤけて見えそうだ。

体がブルブル震えだす、マティルダ。
これは嫉妬しっとの怒りか、それとも……。

数十年振りの異常気象。

まだ夏は始まったばかりなのに、毎日彼女は寝不足気味だった。
これは、生活環境もわざわいしている。
普段の冷静な彼女はこの時、頭と心が乱れきっていたとしかなかった。

「あつ……。い、…です」

側に居ないと聞こえないほどの小さな声で、誰ともなしにささやく。

「ハァ…、お願いが…ございますの。
皆さま……、これから私のすることを見逃して欲しいのです」

「えーっと、それは…?
なにを指して、言っておりますの?
マティルダ様は、ご友人ですもの。
私は、ぜんぜん構いませんよ」

「私も、もちろん同じです。
あの前にいる、お二人の事ですわよね。
マティルダ様、あれをけして許してはいけません!」

「今まで、マティルダ様はよく我慢がまんしましたわ。
もう十分だと、私も思います」

心から言ってくれているのか、好奇心こうきしんなのか。
どっちでも、私はどうでも良かったのだ。
味方にさえ…、なってくれればいい。

「ええ、もう……。私はー。
なにもかもがすべて、いろいろ限界に近いのです。
精神的にえられそうもありません。はぁはぁ……」

乱れる呼吸は、まだ彼女たちには知られていない。

状況を理解して、一斉いっせいに返事を気持ちいいくらいにそろえてくれた。

「「「マティルダ様、わかりますわぁ~!!!」」」

くそー、なんだか嬉しそうだ。
そんなに面白いのか。
他人の不幸がー。
気持ちは理解するけど。
彼女の生い立ちのせいか、表面と内面が正反対。
黙っていれば、誰も知らない事。

友人3人を引き連れて、2人が座るベンチ前に。
今は自分でも何するか分からず、流れ落ちる汗と戦い必死に立っている。

くるいそうな初夏の暑さは、一人の令嬢の心をまどわし狂わす。 
 
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