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第2章
12 見えない天秤
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王宮から馬車に乗って、馬を走らせること約5時間。
途中で30分位休みがあったが、早朝からの出発で疲労の色が出始めていた。
やっと、待ち望む。
休憩先である伯爵家の屋敷が、視界に小さく見えてきた。
「あれが、きっと伯爵のお屋敷ですわ。
お二人とも、やっと一息つけますよ」
マティルダも狭い馬車の中で限界を感じ、体を伸ばしたくてウズウズしていたのである。
「馬車で揺られ続け、さすがに疲れたわ」
「席をクッションで囲う工夫をしてくれて、本当に助かったよ」
王家の馬車だけあり、広さが貴族と違い立派な作りをしているが。
体が本格的に出来上がってないから、お二人は体力を私たちよりも消耗する。
馬の頭数も4頭で速いし、時間通りにキチンと到着。
王家に仕える馭者だけあり、責任感は強い。
「僕も久々の外出だから、メアリーと同じで疲れたなぁ」
「アドニス様、具合はどうですか?
一人で歩けますか!?
また、私が背負いしましょうか?」
メアリーがクスッと小さく笑うと、妹にバカにされたように感じて気恥ずかしくなった。
「マティルダ、もう気を使わないでくれ。
お腹が満足になり、寝れば元気になる。平気だよ!」
照れながらも構うなという態度を見せる。
マティルダはその反応を楽しむ為に、ワザとこんな事を言ってみた。
意外に性格が悪いのかもと、自分で思ってみる。
「そうですか、アドニス様。
お辛くなりましたら、何時でも私に申し出てください」
「う、うん。もしもの時は、宜しく。
マティルダ、頼んだよ」
アドニスって敬称を無しで呼ばれ、顔の頬を赤くする純情な少年。
「アドお兄様、また熱中症?
お顔が、真っ赤になっております」
私たちが笑って屋敷へ歩いていると、前に居るエドワード殿下と婚約者候補のご令嬢たちが盛り上がりにかけた暗い様子をしていた。
「ねぇー、マティルダ。
あちらは、きっと何かあったみたいね」
「……、そうでございますか?
格別に変ってないとお見受けします」
いつもあんな感じで、賑やかで楽しいそんなのはない。
でもよく見ると、目付きが皆さま悪いような…。
「ケンカでもしたんじゃない。
近寄らない方がいいよ。
僕らは、声だけかけて行こう」
私たちより前に、エドワード殿下のご友2名が話しかけている。
「お声がけが難しいようです。
会釈だけにしておきましょう」
「マティルダは、友人たちと話してくればいいよ。
メアリー、父上と母上の所へ行くぞ!」
「アドニス様、そのー。
あまり親しくないんですよ。
お話しはしますけど、彼女たちは高位の貴族から苦手意識があるのです」
「マティルダだって、伯爵令嬢でしょう?
エドワードお兄様の候補には伯爵令嬢がいるのに、変なの?
同じ爵位ですのに……」
10歳の彼女は王女様の考えで、深い身分格差を存じ上げていない。
「メアリーは、バカだな。
同じ爵位でも、個々の貴族では力は違うんだ。
マティルダはたぶん、それを実家と友人の家を天秤にかけて言っている。
そういう意味だろう?」
「ええ、アドニス様。
実家では両親は社交はしてませんから、他家との繋がりはありません。
領地は貧しくはありませんが、可もなく不可もなく。
ごく平凡なので秀でてないのです」
彼は引きこもりの割には、よく周辺を見ていらっしゃる。
鋭い洞察力をお持ちだわ。
「立ち話していたら、お兄様たちが行ってしまったわよ。
私たちに声をかけてもくれないなんて、あの令嬢たち失礼ね!
未来の義姉になって欲しくないわ」
あらあら、可愛くプンプンと怒ってる。
結構、兄の未来のお嫁さんが気になっているのね。
「僕らは邪魔なんだろう。
あの人たちは、エドお兄様の妻の座しか頭にないんだ。
たぶん、この旅行で決めるって思って必死なんだろう」
「…、正直なご意見ですこと。
どうでもいいですから、早く行って伯爵様にご挨拶を申し上げましょう。
お昼がどんなのか、楽しみですわね 。
さぁさぁー、参りましょう!」
この先、目的の地に到着する前にー。
ひと波乱ありそうだと、アドニスは想像する。
年上のマティルダは、そんな2人の手を握る。
手を取り前へグイグイと引っ張りながら、その間メアリーを言葉で宥め続けていた。
途中で30分位休みがあったが、早朝からの出発で疲労の色が出始めていた。
やっと、待ち望む。
休憩先である伯爵家の屋敷が、視界に小さく見えてきた。
「あれが、きっと伯爵のお屋敷ですわ。
お二人とも、やっと一息つけますよ」
マティルダも狭い馬車の中で限界を感じ、体を伸ばしたくてウズウズしていたのである。
「馬車で揺られ続け、さすがに疲れたわ」
「席をクッションで囲う工夫をしてくれて、本当に助かったよ」
王家の馬車だけあり、広さが貴族と違い立派な作りをしているが。
体が本格的に出来上がってないから、お二人は体力を私たちよりも消耗する。
馬の頭数も4頭で速いし、時間通りにキチンと到着。
王家に仕える馭者だけあり、責任感は強い。
「僕も久々の外出だから、メアリーと同じで疲れたなぁ」
「アドニス様、具合はどうですか?
一人で歩けますか!?
また、私が背負いしましょうか?」
メアリーがクスッと小さく笑うと、妹にバカにされたように感じて気恥ずかしくなった。
「マティルダ、もう気を使わないでくれ。
お腹が満足になり、寝れば元気になる。平気だよ!」
照れながらも構うなという態度を見せる。
マティルダはその反応を楽しむ為に、ワザとこんな事を言ってみた。
意外に性格が悪いのかもと、自分で思ってみる。
「そうですか、アドニス様。
お辛くなりましたら、何時でも私に申し出てください」
「う、うん。もしもの時は、宜しく。
マティルダ、頼んだよ」
アドニスって敬称を無しで呼ばれ、顔の頬を赤くする純情な少年。
「アドお兄様、また熱中症?
お顔が、真っ赤になっております」
私たちが笑って屋敷へ歩いていると、前に居るエドワード殿下と婚約者候補のご令嬢たちが盛り上がりにかけた暗い様子をしていた。
「ねぇー、マティルダ。
あちらは、きっと何かあったみたいね」
「……、そうでございますか?
格別に変ってないとお見受けします」
いつもあんな感じで、賑やかで楽しいそんなのはない。
でもよく見ると、目付きが皆さま悪いような…。
「ケンカでもしたんじゃない。
近寄らない方がいいよ。
僕らは、声だけかけて行こう」
私たちより前に、エドワード殿下のご友2名が話しかけている。
「お声がけが難しいようです。
会釈だけにしておきましょう」
「マティルダは、友人たちと話してくればいいよ。
メアリー、父上と母上の所へ行くぞ!」
「アドニス様、そのー。
あまり親しくないんですよ。
お話しはしますけど、彼女たちは高位の貴族から苦手意識があるのです」
「マティルダだって、伯爵令嬢でしょう?
エドワードお兄様の候補には伯爵令嬢がいるのに、変なの?
同じ爵位ですのに……」
10歳の彼女は王女様の考えで、深い身分格差を存じ上げていない。
「メアリーは、バカだな。
同じ爵位でも、個々の貴族では力は違うんだ。
マティルダはたぶん、それを実家と友人の家を天秤にかけて言っている。
そういう意味だろう?」
「ええ、アドニス様。
実家では両親は社交はしてませんから、他家との繋がりはありません。
領地は貧しくはありませんが、可もなく不可もなく。
ごく平凡なので秀でてないのです」
彼は引きこもりの割には、よく周辺を見ていらっしゃる。
鋭い洞察力をお持ちだわ。
「立ち話していたら、お兄様たちが行ってしまったわよ。
私たちに声をかけてもくれないなんて、あの令嬢たち失礼ね!
未来の義姉になって欲しくないわ」
あらあら、可愛くプンプンと怒ってる。
結構、兄の未来のお嫁さんが気になっているのね。
「僕らは邪魔なんだろう。
あの人たちは、エドお兄様の妻の座しか頭にないんだ。
たぶん、この旅行で決めるって思って必死なんだろう」
「…、正直なご意見ですこと。
どうでもいいですから、早く行って伯爵様にご挨拶を申し上げましょう。
お昼がどんなのか、楽しみですわね 。
さぁさぁー、参りましょう!」
この先、目的の地に到着する前にー。
ひと波乱ありそうだと、アドニスは想像する。
年上のマティルダは、そんな2人の手を握る。
手を取り前へグイグイと引っ張りながら、その間メアリーを言葉で宥め続けていた。
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