【完結】すべては、この夏の暑さのせいよ! だから、なにも覚えておりませんの

愚者 (フール)

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第2章

10 出発の朝

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    王宮の中は人びとが、忙しく右往左往うおうさおうに本当にバタバタしている。
理由は今日、今から避暑地へ向けて出発するからだ。

アドニス殿下が熱中症になった原因のひとつは、父親の王が良かれと考えてしたことだ。
あやうく、愛する息子を天国に送り出すところだった。

  前日、陛下は私との謁見えっけんもうけてくれた会話を思い出していた。

「サンダース伯爵令嬢、家族全員が頼っている。
ソナタに助けてもらいー。
あの…、感謝するぞ!」

国王はいつもの威厳いげんなく、お礼のお言葉をたまわ恐縮きょうしゅくするしかない。
王とは言えど、夫であり父でもある。

「アドニスが引きこもりなって、学園に通わなくなり怒鳴ってしまってな。
最初は話を聞こうとしたが、全てが上手くいかない。
情けないが放置してしまった」

「ボタンの掛け違いで、ここまでになったのですか。
でも不幸中の幸いですが、熱中症で部屋から出られて良かったですね」

非礼だがため息という名の息を深くいて、悪く感じては陛下の曇りかがった顔を見てしまった。

「その不幸な熱中症は、余が良かれと思い側近に命じた。
体調の悪くなった者が出てな。手を抜ける場所は、人を置くなと言ってしまったんだ」

「まさかー、陛下。
アドニス王子の部屋……」

「サンダース伯爵令嬢、そのまさかなのだ。
引き継ぎの伝言がされてなく、アドニスはああなって君に発見された」

「王子は具合悪く前に、助けを呼びに行かなかったのでしょうか?」
   
ますます、気まずい空気が流れてくる。

「部屋の外から出る勇気がなかったのだろう。
息子は生きるのをめてしまったのかと、余は恐ろしい考えをしてしまう」

自○まで…、考えてしまったのか?
陛下よ、貴方様もんでくれるな。
国民が路頭ろとうに迷うのではないか。

「それは違い、違います!国王陛下!
自分も熱中症になりかかり分かりましたが、我を忘れるぐらい今年は暑いのです。
体か自由に動けなくなるほどにー」

「令嬢、それはまことか!
アドニスは、余たちをきらってないのだな!」

御意ぎょいでございます。
だからこうして、アドニス王子はご家族と御一緒に避暑地へおもむくのです」

私の言葉で陛下はお喜びのようで、ひきつりながらも笑みを向ける。

「そ…、そうか!うむ。
熱中症とは命の危険すらあると、医師から説明を受けていたな」

「アドニス殿下も、暑さで意識が失いそうになっていました」

納得して、今度は熱中症対策の話になっていく。

「そなたは賢いと、聞き及んでおる。
君がエドワードに話した、あの素晴らしい。
お昼寝の提案のことだよ」

暗い表情から夏の太陽のような、暑苦しいまぶしい御尊顔ごそんがんだわ。
息子の2人よりも、親の父の方が分かりやすい性格をしている。

「いいえ、出来過ぎた事を致しました」

「構わん、命を助けて貰った。
アドニスがソナタを気に入り婚約者にしたいと告げてきたが、君は息子をどう思っているのだ」

食堂の噂は本当だったのか、国王様にそんなお願いをしていたなんて。

「異常な暑さで、助けた人に恋したと勘違いをされたのでしょう。
陛下、涼しい場所へ行かれたら間違いだったと目も覚ましましょう」

「ワァハッハッ、そうであったか!
いきなり、サンダース伯爵令嬢と婚約したいと言われて驚いたが…。
この暑さのせいであったか。
うむっ、わかったぞ!」

誤解が解けたようだ。
アドニス殿下が熱から冷めるのを下さるのを待つだけね。

 陛下との貴重な話し合いは、こんな感じで平和に終わってくれた。
私の前には、アドニス王子とメアリー王女が座っていらっしゃる。
王女に彼をまかせて、静かに寝ているフリをしていた。

学園で倒れてから2週間経っているが、相変わらず実家からは手紙すらない。
無関心なのは分かっているが、私が王族たちと過ごしているのを気にならないのか。
アチラはあちらで楽しく私抜きで、夏の休暇を楽しんでいるのだろう。

王家所有しょゆうの避暑地では、何が起きるのか。
マティルダは、不安と期待で胸が少し高鳴っていた。

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