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第2章

8 スペアの苦悩

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 満面の笑みで子供たちの名案に機嫌が良くなる、この国の最高権力者の国王。
違う場でもう一人の息子から、自分の恨む話をされているとは知らずにいた。

「良い!素晴らしい考えだのう。
暑さで倒れたりする者がいると、今日報告を受けたばかりだった。
しかしエドワードでなく、サンダース伯爵令嬢の提案だったのか…」

息子が考え付いた事でないのを、国王は聞いた後に内心ガッカリとしていた。

「お父様~、マティルダ先生はアドニスお兄様の命を救ってくれたの。
今度お会いしたら、お礼を申し上げて下さい!」

「おお、メアリーの勉強の事も一緒に礼を申す。
避暑地へ行く前に会って、から伝えようぞ」

笑い会う親子は、話しに名を出してから息子アドニスの存在に気づくのである。

  
 向かい合うこの方は、引きこもりの期間は何年間で?
現在は、お幾つなんだろう?

年下なのは間違いない。
女性の私が、何とか持ち上げられるんだから。

「殿下、私たちは平民に生まれなかっただけ幸運なのです。
衣食住に困らない。
彼らは朝早くから夕方まで、農民は田畑を耕すのですよ。
くそ暑い、この太陽の下でー」

「くそ暑い?確かにな。
この暑さでは、農作業は大変だろう」

「私も暑さで倒れましたけど、殿下もそうでしたよね。
あれより暑い炎天下えんてんかの中で、農民は働いて動いているんですよ」

「ダメだって、部屋から出て!学園に行かなくては、いけないって分かってる!
その勇気が…、情けないがないんだ。僕はー!」

「泣きたかったら、泣けばいい。
この夏が終わったら、学園に通いなさい。
夏の暑さで、弱い心を溶かして消し去ればいい!」

瞳がキラリと光ったのを、私は見ないふりをする。
昔の自分も同じ頃があって、それをずっと前に通り越してしまった
涙もれてしまった。
涙も心も、渇いてカラカラよ。

「うん、泣くのはー。
学園に戻った時、その時に嬉し涙になるさ。
もう、泣かないよ!」

うわぁ~、これが青春だ!
若いな、私より実際は若いから。
これはこれで、まっいいか!

「そ、その意気でございます!
親は選べないんだし、利用していい人生を送ればいい。
兄の国策こくさくに口をはさんで、意見をどんどんすればいいですわ。
それが貴方には、出来るお立場なんだから」

「そうだな、兄上の予備でも。
それが僕の運命だもんね。
マティルダ、ところで君はー。
婚約者と別れるって言ってた、間違いない?!」

私の婚約と、アドニス王子と何の関係あるのだろうか??
話が変な方向へ向かっている。

「ハロルド様はー、ハロルドは婚約者の名前です。
彼と会った時から、趣味じゃないので絶対婚姻したくない。
しろって言われたら、平民になってでも逃げてやるわ」

「ずいぶんと嫌っているんだね。
新しい婚約者に、僕なんてどうかなぁ?
マティルダ、僕は君が…。
どうも、気に入ったみたいなんだよ」

あらっまぁー、ちょっと~!
最近、私たちは出会ったのよね。
それで、もう私は告白されているの?

「なんなん、なんですって!
私がー、気に入ったですって?
なに?私とアドニス殿下が、婚約するって仰っているの??
お友達って話しですよね。
勘違いするのではないですか。
イヤですわ。ホホホ…」

「この夏の期間に、お試しで付き合わないかい?
マティルダは婚約者いるから、二人だけの秘密だよ!」

軽いノリで告白されて、信じられない気持ちだ。

「殿下は、お幾つですか?
私は15歳です。
来年は16歳で成人で、大人の仲間入りします」

「僕は12歳になる。
引きこもりは2年間ですが、勉強はちゃんと真面目にしていたよ。
王族特権を使い、普通に復帰する予定だ」

サラッと言うが、黒が白に出来るから可能だろう。
3歳下くらいは気にならない。
男性ならいいが、女性の私が年上なのがモヤる。
 
しかし、私たちの口調が自然とお見合いをしてるみたいだわ。

「あのな、ムリ!でなく、あの無理です。
ほらっ、私は伯爵令嬢でー。
第2王子殿下の婚約者が伯爵では身分的に低いですよーう!」

マティルダは、焦って頭がパニックになっていた。
本気か嘘か、アドニス殿下の気持ちがさっぱり読めない。
初めての愛の告白を、私は生まれて初めてされているのか?!
愛の告白をー、自分は現在言われているのだろうか。

部屋が暑いせいで、顔が熱いようだわ。
マティルダは彼の告白で、顔が赤くなっているのを自覚してない。
意識してはダメ、本気にしてはダメよ!
冗談に決まってるじゃない。

「殿下は、私の好みではないのです。それにですね!
殿下を抱き上げる怪力かいりき女に、殿下が興味あるなんて思えませんわ」

考えてみれば、殿下に対して失礼な断り方をしている。
話している内容は、他人が聞いていたら不敬にあたる。

「回りくどく言って、うまく拒絶してるよね。
僕は君のために、軟弱な体格を改善するよ」

言いくるめられるわ。
押しに弱い人だと、彼をそう思っていたのに。
私は…、完全に彼の考えを見くびっていたのかも。
強いからこそ、2年間近くも引きこもれたのだ。

「大丈夫、顔立ちは良いと言われる。
足りないモノは、体と頭をきたえるからね。
頭の方は、自分でも平気だと思うよ」

アドレス殿下に告白されて、口をポカンと開けてしまう。

この先、私はどうなるの?

神様、教えて下さいと胸の中でつぶやいていた。
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