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第2章

4 熱中症は命の危険 ②

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    王家お抱えの医師たちの目は確かだったようで、アドニス王子の体調は2日で改善した。
気の乗らなかったマティルダは、目的の引きこもりから彼を脱出させたいと思っていた。

熱中症になり倒れている姿を、初めて見た時に思った。
このままでは、彼にとって絶対に良くないとー。
お節介だが、私なりに力になりたい。

「アドお兄様が起き上がれるまで回復したと、朝の世話係が教えてくれたわ」

「それは良かったですね。
あれからアドニス殿下とは、メアリー王女はお会いしてなかったんですか?」

話している自分も、彼を火事場の馬鹿力で持ち上げたせいで腰を痛めた
あの後椅子から立ち上がった瞬間、腰から嫌な痺れがした。
それから、私もベッドの上の住人になって生活していたのだ。

「意識がちゃんとするまで、絶対安静だったの。
アドお兄様が、マティルダ先生に助けてくれたお礼を言いたいそうよ」

「あらっ、意外!
引きこもりだから、人間嫌いかと思ってました。
私も、アドニス殿下の事が気掛かりでしたのよ」

「じゃあ、お勉強が終わったら一緒にお見舞いに行こう!
いいでしょう?マティルダ姐さん!」

先生と姐さんは、どういう使い分けをしているのか。
彼女の中では、線引されているみたい。

「じゃあ、勉強するわよ。
先触れをして、お見舞いの品物を用意して行きましょうね」

「それいいです!
手ぶらでは、イマイチ格好かっこうつかないしね。
何がいいかしら?
マティルダ先生は、何がいいと思う?」

勉強そっちのけで話が弾む二人は、のど通しいい冷えたプリンに決めた。

   
    午前中に授業が終ると昼食を食べてから、アドニス王子のお見舞いに行く。

「このお部屋は、前の部屋とは違うわ。
位置が寂れた端の部屋ではない」

得意気にメアリー王女は、この部屋の説明をする。

「ここは引きこもりの前のアドお兄様のお部屋で、エドお兄様のお部屋のお隣でもあるのよ」

そんな話をチラッとしていた。
メアリーが扉をノックすると、女官が開けて中へ案内される。
あのとき誰もいなくて、開けたらホコリっぽい空気だった。

「全然…、前の部屋とは違うわね。
空気がー、綺麗でよどみがない!」

マティルダは素直な感想を中に込めつつ、独り言を呟いていた。

「アドニスお兄様~!
お元気になられて、メアリーは嬉しいですわ!」

大きめの一人がけの椅子に座っている人物は、頬が痩せて腕や足が一般のこれ位の子供より細い。

「心配かけたね、メアリー。
この人が、僕を助けてくれた方?」

「はい、初めまして。
アドニス殿下、マティルダ・サンダースと申します」

キチンとカーテシーをして、王子殿下に粗相がないようご挨拶をする。

「うん、さぁ二人とも座って下さい。
いま、お茶を用意させる」

「お兄様、私たちからの見舞いの品ですわ。
フフ、何だと思います?」

へぇ~、引きこもりで話が出来ないと思ったけど的はずれだったわ。

「食べ物屋で甘いものだろう。
お茶を飲みながらの会話には、お菓子が付き物だから」

「当たりでつまんないですわ。
簡単に当てられてしまうなんて…。
アドお兄様はズルいです」

 こんなに普通に会話をしてるのに、引きこもりだなんて…。

お茶の用意をしてくれて、テーブルの上には軽いサンドイッチやスープが付け加えられていた。
殿下のお昼御飯を兼ねているのだろう。
食の細そうに見える彼は、もしかしたら今日初めての食事なのだろうか?

「いっぱいあるし、凄く美味しそう!
アドお兄様は私たちはお昼食べたから、お菓子だけ頂くわ」

「すみません、あれは最後に出して欲しいのです」

私が給仕する人にそっと頼むと、心得ているのか黙って頷いてくれた。
素敵な午後のひとときを三人で楽しむ。
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