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第1章
20 避暑地への誘い
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しかし、もっと素になり飛び込んで部屋に押し入った方がいらした。
扉がノックなしに開けられた。
これは明らかにマナー違反であり、王宮でこんなのが起きるのは驚きだ。
「ノックする前に入って、ごめんなさいね。
クラクラして倒れそうで、この部屋が近かったのよ」
雪崩れ込むとはこのことだ!
ソファーに倒れるように座り、お付きの女官たちが必死に扇で懸命に風を送る。
飲み物をお持ちしてーって、静かに騒ぐ女官たち。
「お母様!具合悪いの?」
メアリー王女は汗だくの王妃様を心配して、私の袖を掴んで訊いてくる。
「お話出来るので、意識はしっかりしてます。
暫くはソッとして、様子をみましょう」
「医師を呼んだ方が良くないか?」
マティルダは首を左右に振ると、自分が意識なく倒れた熱中症との違いを述べた。
「だ、だいぶ良くなりました。
エドワード、メアリー。
それにサンダース伯爵令嬢。
心配をかけましたね」
「王妃様、冷たいアイスクリームをお持ちしました。
お食べになられますか?」
「ええ、有難う。
皆でアイスクリームを食べたら、暑さも引っ込むわ」
私もご相伴に預り、得した気分になり頬が緩んでしまった。
「マティルダ先生、嬉しそう~!
メアリーも同じ気持ちだから一緒ね!」
「バレてしまったわね。
アイスクリームは、滅多には食べれないデザートなのよ」
ふぅ~んって、あまり関心がなさそうだ。
その態度を気に入らないで、マティルダはメアリーに念押しをする。
「あの甘さと冷たさは、クセになってはダメよ。
特別で、とっても贅沢品なんですからね」
王女と私の掛け合いを、二人は微笑ましく見つめていた。
「メアリーとは、すっかり仲良くなったのね」
何か引っかかる王妃様のお言葉。
「母上、公務が忙しすぎるのではないでしょうか?」
「その公務で話す事があるわ。
今年は、特に異常に暑いでしょう。
地方の貴族たちの謁見の辞退が、次々に続いてます」
馬車で何日も揺られて、この酷暑で行きたくないだろうし。
途中で引き返す人もいたと思うわ。
「じゃあ、お母様のお仕事が減ったの?!」
「お父様と側近たちと話し合って、謁見を今年は見送ったの。
それに最近は雨が降らないから、作物に被害が及ぶかもしれない。
貴族たちも、領地が心配で離れられない方も出でいるのよ」
喜色の表情を隠した王女も、被害の言葉に暗くなってきた。
「……そんな、数十年振りの雨乞いをするのですか?!母上…」
沈黙していた次期王に1番近いエドワードは、絞り出すような声を出す。
「このまま雨が降らなかったらね。
山から流れる川の水は、余裕が少しはあるわ。
冬に雪も多かったし、春先は雨が降っていたから…」
王妃の話にホッとする二人に、飢饉があったら平民に不満がでる。
先ず標的は、領主の貴族に。
その先の最たる者は、国王である。
王族も然り、不安になるのは仕方ない。
「用心に越したことはない、神官は巫女を探し始めるわ。
誰になるのかしら…」
王妃は頬に手を添えて、まだ見ぬ巫女を想像してみた。
「もしかしたら、私だったりして?
私なら雨を降らして下さるように、毎日神にお祈りするわ」
「ホントに調子いいな、メアリーは…。
今日から私も、毎日神に祈るよ」
「兄妹の仲がよくて、何よりです。
王妃様は、子育てがお上手ですのね。
それなのに、我が家サンダースは……」
マティルダの一言で、ガラリとムードが変わった。
「「「ア~、ゴホン!ゴホン!!」」」
どうしたことか、いきなり部屋にいた女官たちやメイドたちが激しく咳を立てている。
「風邪が流行ってるの?
暑くて寝苦しいし、体調も崩れやすいものです。
雨が降らないから、空気も乾燥しているしね」
的はずれなマティルダと違うって、その話はやめてくれとの咳払いの大合唱が聞こえる。
気配を察してくれない、鈍感な伯爵令嬢。
それを笑って兄妹を見ては、頭をウンウンと振っていた。
冷たいのどごしで4人は、すっかり汗がひいてお茶を楽しんでいる。
食欲がなく食べれないよりはマシだから、クッキーに野菜を入れていたり工夫を凝らしていた。
「話の続きをするわね。
陛下が王宮で働く人たちにも、休みを出そうと仰ってきたの。
北の避暑地で休暇したいと考えています」
「母上、その話をしていたのです。
私の婚約者候補を避暑地に呼んで、交流を持てたらと話し合っていたのです」
メアリーはご機嫌で叫びそうになるが、エドワードは難しそうに考える素振りをした。
「エドワード殿下、ご質問しても宜しいですか?」
「ああ、サンダース伯爵令嬢。
どんな質問だい?」
メアリーは母に甘える笑顔を、突如消して二人の会話に耳を傾ける。
「婚約者たちを、お呼びするのが気になるのですか?
悩んだ表情をしたようにお見受けしたので…」
彼女は前々から鋭い観察力を持ってると、生徒会の運営で見ていた。
「うん。婚約者たちと泊まりがけで、気恥ずかしいと感じていたよ」
十代の思春期で同じ年代の彼女も、お茶会や夜会の躍りとかしかしてない。
親公認で1日だけではないし、何日もお泊まりとは心臓に悪いはずよぉ!
それとは別の問題が、まだ隠されていたとはマティルダは見抜けずにいた。
扉がノックなしに開けられた。
これは明らかにマナー違反であり、王宮でこんなのが起きるのは驚きだ。
「ノックする前に入って、ごめんなさいね。
クラクラして倒れそうで、この部屋が近かったのよ」
雪崩れ込むとはこのことだ!
ソファーに倒れるように座り、お付きの女官たちが必死に扇で懸命に風を送る。
飲み物をお持ちしてーって、静かに騒ぐ女官たち。
「お母様!具合悪いの?」
メアリー王女は汗だくの王妃様を心配して、私の袖を掴んで訊いてくる。
「お話出来るので、意識はしっかりしてます。
暫くはソッとして、様子をみましょう」
「医師を呼んだ方が良くないか?」
マティルダは首を左右に振ると、自分が意識なく倒れた熱中症との違いを述べた。
「だ、だいぶ良くなりました。
エドワード、メアリー。
それにサンダース伯爵令嬢。
心配をかけましたね」
「王妃様、冷たいアイスクリームをお持ちしました。
お食べになられますか?」
「ええ、有難う。
皆でアイスクリームを食べたら、暑さも引っ込むわ」
私もご相伴に預り、得した気分になり頬が緩んでしまった。
「マティルダ先生、嬉しそう~!
メアリーも同じ気持ちだから一緒ね!」
「バレてしまったわね。
アイスクリームは、滅多には食べれないデザートなのよ」
ふぅ~んって、あまり関心がなさそうだ。
その態度を気に入らないで、マティルダはメアリーに念押しをする。
「あの甘さと冷たさは、クセになってはダメよ。
特別で、とっても贅沢品なんですからね」
王女と私の掛け合いを、二人は微笑ましく見つめていた。
「メアリーとは、すっかり仲良くなったのね」
何か引っかかる王妃様のお言葉。
「母上、公務が忙しすぎるのではないでしょうか?」
「その公務で話す事があるわ。
今年は、特に異常に暑いでしょう。
地方の貴族たちの謁見の辞退が、次々に続いてます」
馬車で何日も揺られて、この酷暑で行きたくないだろうし。
途中で引き返す人もいたと思うわ。
「じゃあ、お母様のお仕事が減ったの?!」
「お父様と側近たちと話し合って、謁見を今年は見送ったの。
それに最近は雨が降らないから、作物に被害が及ぶかもしれない。
貴族たちも、領地が心配で離れられない方も出でいるのよ」
喜色の表情を隠した王女も、被害の言葉に暗くなってきた。
「……そんな、数十年振りの雨乞いをするのですか?!母上…」
沈黙していた次期王に1番近いエドワードは、絞り出すような声を出す。
「このまま雨が降らなかったらね。
山から流れる川の水は、余裕が少しはあるわ。
冬に雪も多かったし、春先は雨が降っていたから…」
王妃の話にホッとする二人に、飢饉があったら平民に不満がでる。
先ず標的は、領主の貴族に。
その先の最たる者は、国王である。
王族も然り、不安になるのは仕方ない。
「用心に越したことはない、神官は巫女を探し始めるわ。
誰になるのかしら…」
王妃は頬に手を添えて、まだ見ぬ巫女を想像してみた。
「もしかしたら、私だったりして?
私なら雨を降らして下さるように、毎日神にお祈りするわ」
「ホントに調子いいな、メアリーは…。
今日から私も、毎日神に祈るよ」
「兄妹の仲がよくて、何よりです。
王妃様は、子育てがお上手ですのね。
それなのに、我が家サンダースは……」
マティルダの一言で、ガラリとムードが変わった。
「「「ア~、ゴホン!ゴホン!!」」」
どうしたことか、いきなり部屋にいた女官たちやメイドたちが激しく咳を立てている。
「風邪が流行ってるの?
暑くて寝苦しいし、体調も崩れやすいものです。
雨が降らないから、空気も乾燥しているしね」
的はずれなマティルダと違うって、その話はやめてくれとの咳払いの大合唱が聞こえる。
気配を察してくれない、鈍感な伯爵令嬢。
それを笑って兄妹を見ては、頭をウンウンと振っていた。
冷たいのどごしで4人は、すっかり汗がひいてお茶を楽しんでいる。
食欲がなく食べれないよりはマシだから、クッキーに野菜を入れていたり工夫を凝らしていた。
「話の続きをするわね。
陛下が王宮で働く人たちにも、休みを出そうと仰ってきたの。
北の避暑地で休暇したいと考えています」
「母上、その話をしていたのです。
私の婚約者候補を避暑地に呼んで、交流を持てたらと話し合っていたのです」
メアリーはご機嫌で叫びそうになるが、エドワードは難しそうに考える素振りをした。
「エドワード殿下、ご質問しても宜しいですか?」
「ああ、サンダース伯爵令嬢。
どんな質問だい?」
メアリーは母に甘える笑顔を、突如消して二人の会話に耳を傾ける。
「婚約者たちを、お呼びするのが気になるのですか?
悩んだ表情をしたようにお見受けしたので…」
彼女は前々から鋭い観察力を持ってると、生徒会の運営で見ていた。
「うん。婚約者たちと泊まりがけで、気恥ずかしいと感じていたよ」
十代の思春期で同じ年代の彼女も、お茶会や夜会の躍りとかしかしてない。
親公認で1日だけではないし、何日もお泊まりとは心臓に悪いはずよぉ!
それとは別の問題が、まだ隠されていたとはマティルダは見抜けずにいた。
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