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第1章
16 サンダース家の闇
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伯爵令嬢の様子を時々王妃は変に思い、末娘を女官たちに頼み退出させた。
そんな王妃の気遣いを知らずに、マティルダはいまこの時しかないと長年の苦悩を曝け出そうと決心する。
『王妃様なら、助けてくれるかもしれない!
こんな話をして、私を信じてくれるのだろうかー』
これから話す内容に、マティルダ以外の2人は驚かされていく。
母上の顔色が変わっていくが、自分も同じ色をしてるだろう。
「双子なのに、髪の毛も瞳の色も違う。
母とアリエールは、同じ色。
どうして、母は…。
私だけに辛くあたるのか。
何故、父はそれを黙認しているのだろう。
年齢が重なるうちに、私は不思議と思うようになりました」
「どういう意味で、君は話しているんだ。
マティルダ、君はー。
父親サンダース伯爵に、似てるのではないのか?」
エドワードは彼女の次の言葉を待ったが、だんだん不安な気持ちが膨らむ。
「フフフ、父には…。
二人の妻がいた。
本当の妻の私の母は、既にもうこの世にいない。
今の母親は、アリエールの実母ですよ」
サンダース伯爵には、後妻は居ないはずだ。
王妃とエドワードは、マティルダの実家サンダースを調べ抜いていた。
「君たちは…、双子だったはずではないのか?!
双子って、同じ母親から生まれる意味だろう」
「そうですよ、エドワード」
3人の子を産み落とした女性は息子に返事をしていたが、その声は他人には分からないが震えていた。
「………。サンダース伯爵は、貴女の母上が亡くなった事を世間に隠しているの?!」
王妃はマティルダの話で、サンダース伯爵家の闇を知るのが怖くなる。
「父は隣国の貴族出身の妻を生きたままにして、現在の母を入れ換えて妻にしたのです」
「……!偽っていたのか!」
エドワードの答えに、彼女は目をつむり無言で頷く。
苦痛に耐える如く、絞り出すように説明しだす。
「これは、私が赤ちゃんの時からの乳母に告白されました。
彼女は病気になり、死期を悟ったのか。
見舞いに訪れた私に、全てを話してくれたのです」
「母上様は、何が原因で世を去ったのですか?
まさか、サンダース伯爵がー」
身分を忘れて思わず身をのり出して、同じ女性として聞き入る王妃。
もし、夫に裏切られて命を落としたとしたら。
「乳母はお産だと言ってましたが、母は本宅と離れて独りで暮らしていたと教えてくれました。
夫である伯爵は、他所に女を作っていた。
知っていたか知り得ませんが、その女にお腹に子がいたのです。
そう、妹アリエールがね」
絶句するエドワードを尻目に、王妃は断罪する。
「大問題です!死者に代わり、伯爵夫人として生活している。
倫理的に罪を犯してます。
これが真実なら、許されない行為です」
王妃は犯罪だと明言する。
マティルダは僅かに口元を歪める。
二人に協力したのは、この王妃から言葉を出させるためにー。
サンダース伯爵と偽っている夫人の過去を、秘密裏に人を使い調査すると言ってくれた。
王妃様は泣きそうな顔で、私の手を握りしめる。
それまで、娘を全うにしてくれと頼まれた。
私は貴族とはいえ非力な学生の身分、王家の力なら知りたいことを明るみに出来るだろう。
そして、私の運命の歯車が変わる真夏の休暇が始まる。
調査は人任さにしたし、残りの休暇は家庭教師として真摯に向き合わなくてはならない。
乗る気なく始めたメアリー王女の子守だが、いや家庭教師。
住み込み三食付のお給与も頂けるし、幸運と考えていいだろう。
「マティルダ、メアリー王女ともう一悶着あったんだって?!
たった1日なのに、有名人になってるよ」
他人事なので、ベッキーは愉快そうにしている。
「そうでもないけど、そんなに広まってるの?
だからか…、やけに視線を感じてるのは。
ベッキーさん、王宮って暇人ばかりだね」
「いやだぁ~、ベッキーと呼んでよ。
他人行儀しないで、私たちもう友人でしょう」
いつから、そんなに親しい関係になったの?
出会って2日しか経ってない。
私から話を聞いて、後から言いふらすのかしら?
用心に越したことないわ。
「う、うん。ベッキー!
メアリー王女はいい子だったわ。
初日だし、顔見世でおわったの。
今日から始動で、緊張してるのよ」
嘘は言ってないが、そのキラキラ目から光を失った様子は…。
コワイなこの人もそういう類なのか。
親切そうに新人に近寄る人は、よくよく気をつけろって教えてくれたなぁ。
特殊な貴族社会で、大勢いが集まる場所ー。
まさしく、ここ王宮は伏魔殿だった。
そんな王妃の気遣いを知らずに、マティルダはいまこの時しかないと長年の苦悩を曝け出そうと決心する。
『王妃様なら、助けてくれるかもしれない!
こんな話をして、私を信じてくれるのだろうかー』
これから話す内容に、マティルダ以外の2人は驚かされていく。
母上の顔色が変わっていくが、自分も同じ色をしてるだろう。
「双子なのに、髪の毛も瞳の色も違う。
母とアリエールは、同じ色。
どうして、母は…。
私だけに辛くあたるのか。
何故、父はそれを黙認しているのだろう。
年齢が重なるうちに、私は不思議と思うようになりました」
「どういう意味で、君は話しているんだ。
マティルダ、君はー。
父親サンダース伯爵に、似てるのではないのか?」
エドワードは彼女の次の言葉を待ったが、だんだん不安な気持ちが膨らむ。
「フフフ、父には…。
二人の妻がいた。
本当の妻の私の母は、既にもうこの世にいない。
今の母親は、アリエールの実母ですよ」
サンダース伯爵には、後妻は居ないはずだ。
王妃とエドワードは、マティルダの実家サンダースを調べ抜いていた。
「君たちは…、双子だったはずではないのか?!
双子って、同じ母親から生まれる意味だろう」
「そうですよ、エドワード」
3人の子を産み落とした女性は息子に返事をしていたが、その声は他人には分からないが震えていた。
「………。サンダース伯爵は、貴女の母上が亡くなった事を世間に隠しているの?!」
王妃はマティルダの話で、サンダース伯爵家の闇を知るのが怖くなる。
「父は隣国の貴族出身の妻を生きたままにして、現在の母を入れ換えて妻にしたのです」
「……!偽っていたのか!」
エドワードの答えに、彼女は目をつむり無言で頷く。
苦痛に耐える如く、絞り出すように説明しだす。
「これは、私が赤ちゃんの時からの乳母に告白されました。
彼女は病気になり、死期を悟ったのか。
見舞いに訪れた私に、全てを話してくれたのです」
「母上様は、何が原因で世を去ったのですか?
まさか、サンダース伯爵がー」
身分を忘れて思わず身をのり出して、同じ女性として聞き入る王妃。
もし、夫に裏切られて命を落としたとしたら。
「乳母はお産だと言ってましたが、母は本宅と離れて独りで暮らしていたと教えてくれました。
夫である伯爵は、他所に女を作っていた。
知っていたか知り得ませんが、その女にお腹に子がいたのです。
そう、妹アリエールがね」
絶句するエドワードを尻目に、王妃は断罪する。
「大問題です!死者に代わり、伯爵夫人として生活している。
倫理的に罪を犯してます。
これが真実なら、許されない行為です」
王妃は犯罪だと明言する。
マティルダは僅かに口元を歪める。
二人に協力したのは、この王妃から言葉を出させるためにー。
サンダース伯爵と偽っている夫人の過去を、秘密裏に人を使い調査すると言ってくれた。
王妃様は泣きそうな顔で、私の手を握りしめる。
それまで、娘を全うにしてくれと頼まれた。
私は貴族とはいえ非力な学生の身分、王家の力なら知りたいことを明るみに出来るだろう。
そして、私の運命の歯車が変わる真夏の休暇が始まる。
調査は人任さにしたし、残りの休暇は家庭教師として真摯に向き合わなくてはならない。
乗る気なく始めたメアリー王女の子守だが、いや家庭教師。
住み込み三食付のお給与も頂けるし、幸運と考えていいだろう。
「マティルダ、メアリー王女ともう一悶着あったんだって?!
たった1日なのに、有名人になってるよ」
他人事なので、ベッキーは愉快そうにしている。
「そうでもないけど、そんなに広まってるの?
だからか…、やけに視線を感じてるのは。
ベッキーさん、王宮って暇人ばかりだね」
「いやだぁ~、ベッキーと呼んでよ。
他人行儀しないで、私たちもう友人でしょう」
いつから、そんなに親しい関係になったの?
出会って2日しか経ってない。
私から話を聞いて、後から言いふらすのかしら?
用心に越したことないわ。
「う、うん。ベッキー!
メアリー王女はいい子だったわ。
初日だし、顔見世でおわったの。
今日から始動で、緊張してるのよ」
嘘は言ってないが、そのキラキラ目から光を失った様子は…。
コワイなこの人もそういう類なのか。
親切そうに新人に近寄る人は、よくよく気をつけろって教えてくれたなぁ。
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